【インタビュー】デザイナー島瀬敬章が語るブランド<tac:tac/タクタク>の現在・過去・未来(1/2)
3月30日(水)より2階=インターナショナルクリエイターズで初のポップアップを開催するドメスティックブランド<tac:tac/タクタク>。東京・高円寺北口にある秋野ダンススクール跡地の直営ショップで、デザイナー島瀬敬章(しませたかあき)さんにお話を伺いました。自分が発する言葉をひとつ一つ確かめながら語られたストレートな想い――30歳の若きファッションデザイナーの現在・過去・未来から、注目ブランドが発するメッセージを紐解きます。
カッコイイなと思う瞬間を集めて、自分なりに再構築する
自分はいろんなものをカッコイイなと思うし、性格的にも決まった趣味・嗜好はありません。<タクタク>のデザイン理念も、良い意味で曖昧でいいと思っています。デザインに法則はないし、自分が気になるパーツを集めて、カッコイイなと思う瞬間を集めて自分なりに再構築して、そこからみんなに「ちょっと変だよね」というものを感じ取ってほしい。
<タクタク>のデザインは、「このディテールを取り入れたい」とか「この生地を使ってみたい」というところからスタートしますが、“楽でカッコイイ”セットアップ提案が多いのが特徴です。基本はカジュアルで、たとえばショップコートは、人の雰囲気を増す効果のあるアイテムなので、自分でもよく着ていますね。
街を歩いている方がトレンドを感じることができる
今回のポップアップに出る布帛(ふはく)のプルオーバーは、カットソーやニットのように「布帛」を提案したいと思った「布帛T」で、一枚で着られて、ポケットに手を突っ込んで歩ける自由なアイテムです。ただのTシャツより着ていて格が上がるTシャツで、毎シーズンいろんなカタチ・ディテールで展開しているものです。また、同素材のイージーパンツは、ドローストリング付きのテーパードの効いたシンプルなシルエットですが、Tシャツとセットアップで着ると、シンプルだけど街を歩いていると目立つ。人によっては「セットアップで着るとハードルが高いかな?」という感じを受けるかもしれませんが、そういう様(さま)になる、格好をつけられる服を目指しています。
僕自身はトレンドはあまり気にしないし、海外のコレクション情報なども、SNSのタイムラインに上がってきたら見る程度。<タクタク>は洋服以外のことも提示できるブランドにしたいんです。たとえば皿を作ったりできる汎用性のあるブランドにしたい。
今の20代前後にはファッションの黒歴史があるのか
子どものころから野球をしていて、高校は推薦でプロに進む選手もいる名門校で野球漬けでした。高2で野球を辞めて時間ができて、いろんな服を着たり、音楽を聴いたり。特にブラックミュージックはよく聴いていました。
中学までさかのぼると、アントワープ・シックス(Antwerp 6)の一人、<WALTER VAN BEIRENDONCK/ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク>をそんなブランドだとは知らずに(笑)着ていました。ウォルターのTシャツにヒョウ柄のパンツに、<GEORGE COX/ジョージコックス>の靴を履いて。出身は愛媛なんですが、兄の影響や、雑誌を見てマネをして格好つけていました。
振り返ると、ダサいときのほうが長かったですね。でも“ダサさ”は栄養だなとも思います。今の若い子を見ていると、間違った情報を頑張って取り入れて、自分で工夫する瞬間はあるのかなと。今のファッション雑誌は一般的にみんなが取り入れられる確立された情報しか載っていないし、どれも間違っていない。自分の年齢の仲間と会うと、「あの頃の自分はダサかったけど、そこに立ち戻ることができる。でも、今のハタチ前後の子には、ファッションの黒歴史はあるのかな」という話をよくします。
高校時代はヒップホップを聴いていた、いわゆるB-BOYで、雑誌もB-BOY全盛。自分がセットアップを好きなのも、<タクタク>のカタログで黒人の方をモデルに使っているのも当時の影響だと思います。黒人の方はどんなに決めた格好をしてもちょっと抜けるし、抜けた格好をしても様になる。自分の中学、高校時代は、情報はそんなにないけど、頑張って取り入れて、ケガして、目覚めたころでした。
大学、専門学校、若手デザイナーの登竜門、そしてパリへ
ファッションをやりたいとは決めていましたが、大阪の大学へ行って、就活時期にいろんな企業の説明会を回っても、どこも同じだなぁぐらいしか思わず、「洋服をやるなら作れた方が面白い」と専門学校へ。ちょうどそのころ、兄と「セレクトショップをやろう」という夢を語っていて、兄はもうショップで働いていたので、自分は作れるようになろうと。専門学校の2年ときに、若手デザイナーの登竜門のファッションコンテストに応募して、特選をもらって、パリの留学資格をいただきました。
パリでも学校に通っていましたが、自分の希望するメゾンでの研修がなかなか決まらず、年齢も26歳になって、そろそろやばいぞと。パリにはずっといたかったんですが、服の消費量や消費額が世界有数で、良い工場や生地があって、日本語が通じる(笑)という「日本」でやらない理由はないなと思ったのです。
パリで考えたこと
それで、学校を終えて、一年後に日本に帰ろうと決意しました。時間はたっぷりあったので、誰にも強要もされず、目的も無くアパートでパターンを引いて、自分で縫ってという制作を一年間続けられれば、洋服でずっとやっていけると思ったのと、思想的な部分でもお土産を持って帰ろうと本をかなり読みました。
本を読んで、気になる言葉に出会うとそれをノートに書いて、そのときに自分が考えていることを本の中に見つけると、その言葉もピックアップして……というのを何度も何度も繰り返していくと、最終的に「時間」という言葉に大きな丸が付けられていたんです。
そうして「時間」からイメージができてきて、ブランドのコンセプトブックを作って、いよいよ日本に帰って、行動に移すことになりました。
2016年春夏コレクションから。左:Tシャツ 16,200円、パンツ 22,680円、中:シャツ 24,840円、パンツ 27,000円、右:コート 39,960円、パンツ 24,840円(詳細はこちら)
NEXT≫パリで「時間」というキーワードと出会った島瀬さん。後半では、<タクタク>の未来を語ります
- PREV
- 1 / 2
- NEXT