メンズ館で出会った、レザージャケットマニア 酒井利典さん「レザージャケットも、<ダブル アール エル>も、物語がある服に惹かれるんです」
お客さまおひとりおひとりの、ファッションやライフスタイルの愉しみ方があるように、お客さまを迎えるショップスタイリストたちもまた、個性溢れるマニア揃い。今回は、自宅に30着以上のレザージャケットを所有しているという「レザージャケット」マニアの酒井さんに、その知識とこだわり、深い薀蓄を思う存分語ってもらいます。
兄の影響でアメ横で買ったショットのワンスター
伊勢丹新宿店 メンズ館7階<DOUBLE RL/ダブル アール エル>のショップマネージャーを務める酒井さんは、レザージャケットマニア。自宅に30着以上のレザーを所有していますが、結婚をきっかけに相当数を断捨離したそうで、以前はもっと多かったのだとか。前職は古着バイヤーとして、アメリカに駐在経験もあり、ありとあらゆるヴィンテージレザーに触れてきました。たくさんのレザーを見てきた経験をお持ちですが、「いまだに初見のレザーが出てくるので、楽しくてしかたない」とも。「レザーも<ダブル アール エル>も、ストーリーがあるから興味が尽きないんです」と笑う酒井さんのレザー遍歴は中学生時代に遡ります。「ハードコアやパンクといった音楽が好きだった兄の影響で、私もラモーンズやセックス・ピストルズを聴いていました。その頃の兄のスタイルはそんなミュージシャンをお手本に、革ジャン、バンドT、リーバイス606にコンバースといったもので、私も自然と兄のマネをしていました。アメ横でショットのワンスターを手に入れたのが中3のとき。当時の革は、いまよりずっと分厚いステアハイドでガチガチに硬かったですね。それをピタピタにタイトなサイズで買ったことを覚えています。早く身体に馴染ませたくて、家でも着たまま寝たりしていました。(笑)」
デニムの味出しと、レザージャケットの馴染ませに「着たまま風呂に入る(デニムに限る)」「着たまま寝る」というのは、当時のアメカジ好きなら誰しも知識としては持っていた情報です。雑誌もこぞって、そう書き立てていましたが、実際に行う人はごく僅かだったのが現実。でも酒井さんは、しっかり実行されていたのだそう。
「バンドマンのスタイルを真似て、襟を立てたりスタッズを打ったり、合わせるデニムにダメージを入れたり。レザーをファッションとして愉しむことを知ったのは、すべて音楽の影響です。いまも好きな音楽は変わっていません。」
そんな酒井さんも、ご多分に漏れず元バンドマン。高校時代から大学卒業までプロを目指しながら、ヴィンテージと音楽系のスタイルにどっぷりハマっていったのです。
この日のレザージャケットは、以前<ダブル アール エル>でリリースされていたもので、2年前に手に入れたもの。<Levi’s®/リーバイス®>の2ndタイプデニムジャケットがデザインモチーフとなっています。
「レザーで2ndタイプのデザインって珍しいのですが、運命を感じて。じつは大ファンでもある日本のヘヴィメタバンド、COCOBATのTAKE-SHITさんがアイコンとして着ていたのが<リーバイス®>の2ndだったんです。」
この日はタイドアップされていましたが、プライベートならジップアップのスウェットパーカなどで着たいのだとか。
「<ダブル アール エル>ってヴィンテージからインスパイアされたディテールを採用したデザインが多いんですが、これなんかその最たるもの。型紙のとり方から、ボタンかジップか、ポケットの形や位置まで、ちゃんと理由があって作られているのがレザージャケットで、その歴史や物語を再構築しているのが<ダブル アール エル>なんです。<ダブル アール エル>のコレクションは毎シーズン、ヴィンテージの物語があって、しかもそれが毎回新しい感動をくれるのは、深い歴史への考察があるからこそ。だからレザーも<ダブル アール エル>も、ハマったら抜けられないのかもしれません。」
愛するレザージャケットで店頭に立つときは、<ダブル アール エル>の世界観を表現できるように着こなし、休日はもっとラフにバンドマンっぽく着ているのだそう。もう20年以上、酒井さんはレザージャケット沼にはまっています。
全米の古着が集まるテキサスで磨いたヴィンテージレザーを見る目
バンドを続けながらも、大学卒業後は古着を扱う商社に就職。バイヤーとして全米を買い付けに回る日々を送ることになった酒井さん。バンド活動を継続したかったので、出張などで長期間日本を離れるのは避けたかったものの、社命によってバイヤーとしてテキサスに逗留することに。バンドは、そこで休止となってしまいましたが、その反動が服へと向けられることになります。「トータルで4~5年テキサスにいて、ずっと毎日ひとりで古着を買い付ける日々でした。全米の古着って、一度テキサスに集まるんです。いくつも倉庫があって、そこでレギュラー古着の仕分け作業をしている移民の人たちに混ざって、彼らが見落としたり、あえてピックアップしなかったヴィンテージを買い付けるんです。状態の良いレザーをいくつも見つけると自分用に買ったりもして相当のレザーを経験してきました。」
ボロボロの古着の中に、時折眠っているヴィンテージのレザー。さらに紛れている新しめのレザーのなかにも良さそうなものを見つけると、たいていタグに「POLO Ralphrauren」と表示されていたことから、酒井さんの中に<ポロ ラルフ ローレン>への憧れが生まれました。帰国後、転職を考えたとき、面接に臨んだ<ポロ ラルフ ローレン>・<ダブル アール エル>からご縁を頂いたことは、ある意味運命だったのかもしれません。
酒井さんのレザーを見る目の確かさを培ったのは、テキサスでの生活。ライダーズに限らず、ありとあらゆるレザージャケットを見てきた酒井さんが、今も大切にしているお気に入りのレザーを紹介してくれました。どれも目の肥えたマニアも唸る逸品です。
これは酒井さんが大学卒業後、社会人になった頃、ショットのワンスターに続く2着目のレザーとして購入したバンソンの「Bモデル」。
「当時ファッション誌でもバンソンが人気で、ミュージシャンにも愛好家が多かったですね。シングル&スタンドカラーのライダースで、独特の光沢を放つクローム仕上げのトップグレインカウハイドは、着込んで馴染んで、いい感じにエイジングに仕上がりました。いかにもヴィンテージライクな艶が出ていて、自分だけの一着という感じが出ていると思います。買ったばかりの頃は袖を通すことすら大変でしたが、馴染んでくるほど愛着が湧いてきます。ショットのワンスターはさすがにもう着られなくなりましたが、こちらはまだまだ現役ですね。」
次の茶色のダブルのレザージャケットは、ブランド不明のヴィンテージ。バイク用のライダースではなく、カジュアルジャケットとして流通していたものなのだとか。
「こちらは1940年代のものです。ダブルブレストですがライダースというより、スポーツジャケットとして作られたものだと思います。1930〜60年代に米軍に納品されていたコンマー社のジッパーが付いているので、由緒正しいブランドだと考えられますが、名前はわからないんです。でも襟が大きめだったり、ポケットの袋布が花柄だったり、ディテールが奮っているんです。これぐらいの時期のものは、オーナーの身体の形になっちゃっていたり、いびつなものが多いのですが、これはそういうこともなくて、着やすいので気にいっています。」
もう一着は、ウールメルトンのボディにレザーのスリーブを組み合わせたバーシティジャケット。いわゆる「スタジャン」です。
「50年代のサンドニット社のバーシティジャケット。サンドニット社はイリノイ州のアスレチックユニフォームメーカーです。北米4大スポーツのオフィシャルウェアの製造もしていた老舗ですが、90年代にブランドは終わってしまいました。レザーの袖なんか状態がすごくいいです。形もきれいだし、ウールメルトンの質もいい。この頃って、素材の品質がめちゃくちゃ高いんですよね。」
レザーからスタジャンまで、幅広い目線をもつ酒井さん。ほかにもカーコートやフライトジャケットなど、さまざまなレザーを所有しています。ご自宅は、レザージャケットの倉庫と化しているのでしょう。
ケアも万全な酒井さんが次に狙っているレザージャケットとは?
バリエーション豊富なレザージャケットを所有する酒井さんは、保管やケアにも一家言をお持ちでした。「レザー同士がくっつくと、跡がついたり張り付いて銀面が剥がれたりするので、間隔を空けてハンガーに掛けて保管しています。銀面を保護するためには、オイルを使って良好な状態に保っておくことも大切ですね。私はシーズンに着る前に、<ペカード>「レザードレッシング」を使っています。シーズンが終わったら、リムーバーで汚れを拭き取ってオイルを塗っておく。革靴より手間は掛からないですよ。」
<ペカード>はアメリカでは定番のレザーケア専門ブランド。ジャケットをはじめブーツや革小物のメンテナンス用品として、マニアの間では知られたペースト状のオイルです。テキサス生活が長かった酒井さんにとって、レザーケアはこれがなくては始まらないのだそう。
「ただあまり頻繁にケアし過ぎるのもよくないんです。よくレザーケアの相談を受けますが、カビが生えたとかシミになったとかおっしゃる方の多くが、かなり頻繁にお手入れされていらっしゃるようです。オイルを塗ったら、しっかり染み込ませて、ちゃんと拭き取る、ということをやってあげれば、革は生き物なので一年ぐらいは十分良い状態を保ってくれるんです。」
上質な素材と、適切なケアによって、大切なレザージャケットを長く着続けることは、親子孫まで語り継ぐ<ダブル アール エル>のコンセプトにも通じるように思えます。酒井さんに次の一着を伺うと「この間久しぶりに見つけた雑誌の表紙でウルフズヘッドの幹田卓司さんが着ていたブルーのルイスレザーが気になります」と、やはりマニアックな視点。レザーマニアなら、ぜひ一度、酒井さんに会いに行かれてみてはいかがでしょう。
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Text:Yasuyuki Ikeda
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