【特集】<ラ ファーボラ>×<カルーゾ>のスペシャルコラボスーツが実現するまで
いま<la favola/ラ ファーボラ>のスーツが面白い。「スーツが下火」と言われて久しいが、クルーネックや白スニーカーと合わせる新しいスタイルがビジネスシーンで定着し、カジュアルシーンではブルゾンやパーカとセットアップする新しい「スーツ」という概念も生まれている。そんななかで有名セレクトショップを中心に人気のブランドが<ラ ファーボラ>だ。業界内に多くのファンを抱えるブランドだが、メンズ館バイヤー稲葉もその一人。今回、<ラ ファーボラ>のスーツを、イタリアの名門<CARUSO/カルーゾ>が縫製するというインターナショナルなコラボレーションが実現した。
<ラ ファーボラ>は業界人から火が付いた新時代のテーラード
某有名セレクトショップでバイヤーを務めていた平剛氏が、友人の依頼に内輪で仕立てていたオリジナルのスーツが話題となっていたのは数年前のこと。当時、伊フィレンツェで開かれる紳士服の国際展示会「ピッティウォモ」に足繁く通っていた氏が、訪伊の際に着ていた自前のスーツは、キャリアに縫製工場でテーラーとしての経験をもつ自身が型紙を引いたものだった。
友人・知人から「その服、どこの?」と聞かれるたびに、自作だと返していたところ「今度、一着仕立ててよ!」と依頼が舞い込む。口コミで数着のビスポークを受けていただけだったのだが、業界内で話題となっていたこのビスポーク服を、2019年に既製服として量産化。すると大手セレクトショップから、待っていましたとばかりにオーダーがついた。インディーズ上がりともいえる、この<ラ ファーボラ>に、1stシーズンから惚れ込んでいたのは、当時バイヤーに就任したばかりだった稲葉だ。
「それまで先輩方の背中を追いかけながら様々なクラシックな洋服を着ていたのですが、当時の自分の年齢やパーソナリティに対して、どこか無理をして背伸びをしていたのも事実なんです。それでも、どこか私らしいコーディネートやサイズ選びをして工夫していたのですが。そんなときに<ラ ファーボラ>の展示会で平さんの服を見て、自分が探していた服はこれだ! と、スッと腑に落ちた気がしたんです。」
この日も<ラ ファーボラ>のスーツを着用。平氏によれば、これはアメリカの鉄道職員の制服をイメージしたものだそうだ。
「これは友人のアメトラ好きに教えてもらった、1900年代初頭に存在したアメリカのワークジャケットをイメージしたデザインです。胸ポケットの位置が低く、Vゾーンは深いです。ボタン位置も低いですが、ここは自然と手がかかる位置なのです。裾は大きくハの字に開いたカッタウェイ。クラシックなスーツとはデザインのベースが違いますが、上襟の作りに昭和時代の日本のジャケットの技法を用いるなど要所でクラシックの技法を用いています。」
ここからは縫製工場の経験がある平氏と稲葉との間で、マニアックな各部の技法の話で取材現場は盛り上がる。背中の曲線のとり方、肩線の入れ方、イタリアと日本とではアイロンの使い方が違うことなど、クラシック好きには堪らない内容だが、ひとしきり語った後で平氏は「……という話を、ぼくはあまりしないようにしているんです」と笑った。服の良さは語るより袖を通せば伝わるものという信念は、職人の矜持にも通じる。「私はテーラーではなくデザイナーです」とはじめに語っていた平氏は、紛れもなく職人魂をもったモデリストだった。
婦人服縫製とヨーロピアンモードを経た平氏が手掛ける紳士服
稲葉 もともと平さんは縫製工場にいらしたんですよね。若い頃からクラシック服が好きだったんですか?
平 私がいたのは婦人服の縫製工場でしたので紳士服じゃないんです。そのうえ私の両親は共に兵庫県でテーラーの家系でした。父は独立してテーラーを営んでいましたので、子供の頃からクラシックな服が嫌いでしたね(笑)。
稲葉 反抗心からですかね(笑)
平 それでも縫製工場に就職したのは、たまたま友人の家業の工場で人を探しているからという、なんてことのない理由から。小さい頃から糸や布は身近にあったので、違和感なかったということもあるのですが。
稲葉 で、その後、ショップで販売員をされているんですよね。
平 若い頃って、華やかな世界に憧れたりして、お金ためて友達と服買いに行くじゃないですか。そのとき、ショップスタッフってカッコいいなと思って、インポートブランドのセレクトショップに転職しました。
稲葉 どんなブランドを扱っていたのですか?
平 ジョルジオ・アルマーニとかジャンポール・ゴルチエといったインポートブランド、ワイズなどのデザイナーズブランドです。
稲葉 クラシックとは真逆のモード系ですね。
平 その後、いくつかのセレクトショップに勤めたり、放浪の旅に出たりしながら、いろんな服を見てきました。なかでも一番研究したのはクラシック服だと思います。クラシコ・イタリアはいくつものブランドの服を買っては解体してきました。ナポリ仕立ては、どれも個性があって本当に面白い。そういう服と出会えるピッティには、何年も通っていました。
稲葉 そうか、平さんはセレクトショップのバイヤーをされていたんですよね。
平 ディレクターから声を掛けてもらって、東京に来てからはバイヤー職でした。いまもアドバイザーとして関わらせてもらっています。
稲葉 ご自身で服を作り始めたのは、なぜですか?
平 年に2回、ピッティに行くときに、たまたま自分で縫ったジャケットを着ていたら、友人たちから「その服どこの?」と声を掛けられることが多かったんです。最初は社交辞令かなと思っていたのですが、帰国したら本当に作ってほしいと頼まれたので、ビスポークで仕立てたのが始まりです。その後、量産化するお話を頂いて展示会を開いたら、結構多くのお店から声を掛けていただきました。伊勢丹さんもそのひとつです。
稲葉 私は平さんの服に、それまでのクラシックとは違ったセンスを感じました。それが自分のなかでもやもやしていたものを払拭してくれたんです。それまでのルールや常識を打ち破る新しい時代のスーツだと確信できたんですね。それは、平さんがお持ちの技術力に裏打ちされた、ヨーロッパのモードやデザイナーズといったブランドで培ったセンスがあったからなのでしょうね。
平 自分でもクラシックテーラリングをベースにしながら、デザイナーズやレディスの要素をブレンドしていると考えています。テーラードの顔をしているけど、着丈が長かったり、ボタン位置がもっと自然なものだといいなと。10代後半の多感な頃は、写真集や街のポスター程度しかフォトグラファーの写真に触れる機会がなくて、さまざまな写真家の作品に想像力をかきたてられました。そういった作品からインスパイアされることも多いですね。
ウエスト位置を上げたり下げたり、蹴回しを大きくとったり、ほんの少しのバランスを変えるだけで服は大きく変化します。本格的なテーラリングを好まれる方にも、不思議な感覚とともに納得して着ていただけるのではないでしょうか。
伊勢丹メンズが取り持つ<ラ ファーボラ>と<カルーゾ>とのコラボスーツとは
稲葉 そんな平さんの感性を、今回カルーゾに縫ってもらおうと思ってお声がけさせていただきました。
平 正直、カルーゾは名前ぐらいしか知らなくて、服のほうはあまりよく知らなかったんです。
稲葉 ナポリでテーラーを営んでいたラファエル・カルーゾがパルマで創業したファクトリーです。自社ネームも展開していますが、誰もが知っているパリやミラノの高級ラグジュアリーブランドのOEMも手掛けています。
平 手の器用なファクトリーだと聞いています。<ラ ファーボラ>は既存の技法にとらわれない仕立て方をしているので、頑固なファクトリーだと仕立てるのが難しいのです。
稲葉 昔からパルマのファクトリーは、ミラノやナポリと違って、型紙どおりに仕立ててくれる器用さが売りでした。<ラ ファーボラ>の既製服を手掛けている工場より融通が利くかもしれません(笑)。
平 いまの工場には、よく足を運んでいて良好な関係を築いていますが、私にも縫製職人の経験があるので、ここは嫌がられるだろうなとか、ここは難しいだろうなというところはよく理解しているつもりです。それでも、あまり気にせず依頼してしまうのですが(笑)。今回、ジャケットの型紙は私が監修して、素材は稲葉さんと相談してリネンを選びました。
稲葉 パンツはカルーゾとも相談して、既存のものから、平さんのジャケットの雰囲気に合わせたワイドストレートなシルエットを選んでいます。平さんのジャケットとカルーゾのパンツということで、両方の良いところが感じられるスーツが出来上がったと思います。ファーストサンプルが上がってきたので、ここから微調整しながら詰めていきましょう。3月8日からメンズ館5階で開かれるポップアップで、お会いできるのを楽しみにしています。
平 私も期間中、店頭に立つのを楽しみにしています。
- 開催期間:3月8日(水)~3月21日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館5階 メンズテーラードクロージング
- 平氏来店情報:3月11日(土)、3月18日(土) 12時~18時
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Text:Yasuyuki Ikeda
Photo:Tatsuya Ozawa
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