【連載】トラッド必携アイテム“ブレザー”の今と未来をたどる、名店めぐり|イセタンメンズ散歩
伊勢丹新宿店メンズ館7階メンズオーセンティックの井上 隆之が、MEN’S EX編集・橋本 慎司さんとともに、ブレザーを語る上では外せない名店をめぐります。2人の足は、アメリカントラッドの雄『BEAMS PLUS 有楽町』と、クラシックなスタイルを柔軟な解釈でアップデートし続ける『J.PRESS & SON’S AOYAMA』へ。
普遍的なアイテムである“ブレザー”へのこだわりを伺いつつ、その先にあるアメトラの未来まで、語りつくします。
まず2人が訪れたのは、トラッドな薫り漂う有楽町に腰を据えるアメトラの殿堂。
『BEAMS PLUS 有楽町』で、アメトラのオーセンティックを体感
トラディショナルな雰囲気漂う『BEAMS PLUS 有楽町』
鈴木太二(以下、鈴木) ここ『BEAMS PLUS 有楽町』は、15年前にできた丸の内店が8年前に移転してきた店舗です。元々は仲通りにありました。BEAMS PLUSは原宿店と合わせて2店舗の展開で、原宿の店舗はワークやミリタリーがメインなのに対して、有楽町は都会にあるトラディショナルショップをコンセプトにしています。オフィス街の立地に合わせて、ニューヨークのマディソン街をイメージしました。展開している商品も重衣料を前面に押し出しているのが特徴です。
橋本慎司(以下、橋本) 原宿店にもよく行きますが、確かに入った時の雰囲気や客層も違う印象があります。良い緊張感がありますね。
井上隆之(以下、井上) 内装もかなり違って見えますね。原宿はワークやヴィンテージの印象ですが、こちらはトラッドな白がベースの内装で素敵です。
鈴木 近年、古き良きアメリカのトラッドスタイルの選択肢が狭まっているのを感じます。その中で懇意にしていただけるお客さまには、安心感を持って通えるような「行きつけのショップ」であり続けたいんです。実際に当店はリピーターのお客さまが多く、数年前に買ったブレザーが痛んだりサイズが変わったりで、新しく買い替えたいという方が多くいらっしゃいます。正統派のアメトラファンにはニッチな分野かもしれないけれども、“アメトラ=BEAMS PLUS 有楽町“という認識を広めていきたいです。
BEAMS PLUSに欠かすことのできない要「テーラーライン」とは
鈴木 そんな我々の理念を体現しているのが、いつでも買えてずっと変わらないものとしての「テーラーライン」です。『BEAMS PLUS 有楽町』の前身である丸の内店を出店した15年前に発足して、ブレザー、グレースーツ、グレースラックスを基本構成として作り続けています。コンセプトや商品を直接お客さまへお届けしたい思いから、『BEAMS PLUS 原宿』、『BEAMS PLUS 有楽町』、『BEAMS 神戸』の3店舗で展開しています。
サンプリングしたのは60年代前半のアメリカンスーツで、型紙に起こして日本人の体型に合うようにBEAMS PLUS流にアレンジしました。特にこだわっているのは、オリジナルを踏襲したディテール、3パッチフラップポケット、三つボタン段返り、低めのゴージライン、ナローラペル、フックベント。アイビーブレザーの典型的なディテールを全て盛り込んで形にしています。シルエットは完全な寸胴型で肩幅は少し狭め、No.1サックモデルを現代的に表現しています。
橋本 ウエスト部分にダーツ?のようなものが入っていますが、これはあまり見ないディテールですね。
鈴木 これは、神戸にあるテーラー「Jizi」さんのパターンメイキングで、直線的なウエストラインを出しながら、包み込むようなフィッティングを実現する為のカッティングなんです。「Jizi」さんとは15年前からずっと「テーラーライン」を二人三脚で作らせていただいてまして、半年に一度は直接お会いして商談をしています。毎シーズンアップデートを続けているのですが、僕のイメージを言葉で伝えるとその場でパターンを引いて具現化してくれるんです。会話からインスピレーションを得て、アウトプットする技術がものすごく高い。最近だとアームホールの前振りをより利かせています。着てみますか?
橋本 肩の乗り方が老舗の定番モデルとは違うように見えます。吊るしてあるのをみた時はお堅いイメージかと思いましたが、着ると大人っぽくていいですね。
井上 ツイードのスポーツコートって重厚なイメージがありますけど、軽い着心地ですね。腕も動かしやすい。
鈴木 この「テーラーライン」は芯地だけの仕立てで肩のラインが自然に沿うように、芯地だけの仕立てでナチュラルショルダーを表現しています。アメリカの老舗メーカーだと、肩パッドがしっかり入って肩幅も大きく、もっとゆったりしたシルエット。また量産するために平面的なパターンメイクが多いのですが、「テーラーライン」のブレザーは立体的に作り直しています。日本人に似合うようにと改良を続けた結果です。
橋本 自分はストレートなパンツを穿くことが多いので、これくらいのボリューム感が一番バランス良く着られます。ドレスでもカジュアルでも合わせられるベーシックな雰囲気でとても着やすいですね。
鈴木 お2人に着て頂いたスポーツコートは、それぞれサイズレンジを34から44と幅広く展開しています。価格もかなり頑張ってネイビーブレザーが63,800円、グレーのヘリンボーンツイードのスポーツコートが72,600円です。
橋本 日本製で、このクオリティで、驚愕のプライス。これはかなりお値打ち品だと思います。
アメリカントラディショナルを受け継いでいくために
橋本 15年前から変わらずに作り続けているとのことですが、その歴史の中でお客さまの反応や求められているものの変化はありますか?
鈴木 近年はテクニカル素材が広がって主流になってきました。お客様の嗜好も、ここ5年間くらいで、楽でカジュアルなものが人気になっているのを感じます。その中で「テーラーライン」は全部天然素材を使うという定義のもとで、時代に媚びずに昔ながらのスーツを作り続けているのがこだわりです。「着古したので新しいものが欲しい」とお越しいただいた方に、再び同じものを提供できるということにプライドを持っています。
井上 一方で今、いろんなメディアでアイビーのキーワードがもう一度頻出してきています。実際のところ若い方々の反応はどうなのでしょうか?
鈴木 有楽町という立地もあり、買ってくださるお客様は大半が30代後半以降で、メインは40から50代。20代のお客さまが少ないのが現状ですが、スタッフの中には20代の若いスタッフもいるので、そこは期待しています。
橋本 若い人の中でも、アメリカのベーシックなボタンダウンやブレザーを使ってカジュアルに着崩す着こなしは浸透していますよね。でも、正統派な着こなしをしている人はなかなか見られないです。
鈴木 そうですね。アメトラというのはキャッチーなアイテムだけでなく、そこには系譜やルールがあって成り立っているので、そのスピリットを伝えられるようにしています。スタッフには絶対にスポーツコートを着て店に立てと半分強要しているくらいです(笑)。正統派なスポーツコートの着こなしに興味がないお客様に対しても、イメージの刷り込みではないですけど、アメトラとは本来こういうものだと、語らずとも見て感じていただけるといいなと思っています。
井上 若い世代にも受け継いていくための今後の展望を教えてください。
鈴木 アメトラのスタイルは変わらない安心感がありつつも決して時代遅れにはなりません。基本は同じアイテムでも、ボタンダウンではなくタブカラーを組み合わせたり、細部を活かして時代を反映することができるので、そこから楽しみを見出してほしいです。アイテムが変わらないからこそ、少しずつ着こなしを時代に合わせて変えて、ずっと着ていける真のオーセンティックウェアだと思います。
鈴木 そして60年代のアイビーや80年代のフレンチアイビーのように、2020年代のアイビースタイルは有楽町のビームスプラスだったよねと言われるようになったら最高です。のちに語り草になるくらい盛り上げるために、粘り強く魅力を伝えていきます。
橋本・井上 我々も盛り上げていきます!
有楽町でアメトラの真髄に触れた2人は、モダンな薫り漂う青山エリアへ。
J.PRESS & SON’Sとイセタンメンズとのコラボレーションレーベル「J.PRESS GREEN」の真価
老舗トラッドブランドのアップサイクルプロジェクトはいかなるものか
井上 青山の『J.PRESS & SON’S AOYAMA』にやってきました。こちらは『BEAMS PLUS』と比べてより今っぽいアプローチでトラッドを再解釈している印象です。ちなみに僕が担当させていただいている「J.PRESS GREEN」は黒野さんと一緒に作り上げてきました。
黒野智也(以下、黒野) 「J.PRESS GREEN」は、2年前に伊勢丹からお声かけいただいて始動した協業レーベルです。2021年春夏シーズンから始まって三回目になりました。
井上 アップサイクルやサステナブルが注目されて、何か持ち味を生かした企画ができないかという時に、歴史が長く、ストックファブリックも豊富にあるオンワードさんにお話を持ちかけました。使われずに余ってしまっている残反があるのではないかと気づいたのがきっかけです。使いきれなかった生地にもう一度フォーカスして、生まれ変わらせる提案をしています。
黒野 色々なデッドストック生地でブレザーやスーツを作ってきました。オーセンティックな形に乗せるのが面白いと思って、<J.PRESS ORIGINALS>と同じ型紙にしています。三つボタン段返り、フラップポケット、裏は赤のパイピングを残して、フックベントとお馴染みのディテールです。百貨店のお客様ですとタイトなフィットを好む方が多いのですが、「J.PRESS GREEN」では、アメトラど真ん中なパターンから着想を得て、クラシックながら今着るとモダンとも言えるシルエットに仕上げました。
今季は味わい深いツイードと、合わせて使える〇〇が登場!
黒野 今まで特徴的な生地を使って展開してきましたが、今季はツイードを選びました。最近はツイードが若い人にも広まっているのを感じていて、このタイミングでちゃんと提案したかったのです。膨大な数の候補から4種類、クラシックながらモダンに着こなせるチェックや、ベーシックなヘリンボーン、ネップの効いたものなどを厳選しました。取り入れやすいものから遊び心のあるものまで、バランスよくそろえたつもりです。
井上 素敵な生地が多くてなかなか選びきれなかったですよね(笑)
黒野 ボタンも特徴的なポイントです。ツイードのジャケットだとくるみボタンをつけたくなりますが、あえて金ボタンをつけて不思議なミックス感を演出しました。
今回はさらに意外な共地のアイテムも用意しています。なんと、ジャケットと同素材のツイードでキャップも作りました。「パンクチュエーション」という大阪のメーカーに作っていただいて、ハンドメイドの美しい仕上がりです。「J」のロゴも手で切り出したフェルトを縫い付けているので、一つひとつの形が若干違います。裏地がついていたりと細かいこだわりを盛り込み、「世界一美しいキャップ」を目指しました。
ボトムスはデニムがおすすめ。生デニムというよりも、洗いが掛かってはいるが形は綺麗というデニムトラウザースを合わせるとモダンに見えると思います。
橋本 パンツのドレス&カジュアル感のバランスと、ジャケットと同素材でそろうキャップのセットが絶妙です! 「J.PRESS GREEN」は新しい視点から服を作っていますが、やはり若い世代からの人気も高いですか?
黒野 40歳以上の世代の方からも、こういうアイテムが欲しかったんだよね、と言っていただけますし、トラッド志向の若い人からも人気です。皆さまに気軽にブレザーを羽織ってみてほしいというところから、実は相場から2〜3万円安い、5.5〜6万円くらいで提供しています。仕立ても素材もこだわりつつのプライスなので、作り手としてはお買い得だなと思っています(笑)。
『J.PRESS & SON’S』流のブレザーの着こなしをご紹介
黒野 実は、ここ最近でブレザー買う人が増えてきています。当店だけでも去年から3倍くらいの伸びで、いよいよ定着してきたなという印象です。コロナの影響でスーツやセットアップが必要な機会が減り、より着回しが楽しめるブレザーがフィーチャーされているのもあると思います。
橋本 自由度の高いブレザーはどう着こなすのがおすすめですか?
黒野 当店ではキャップとの合わせを提案していて、ここ2年くらいで人気が出ています。私自身キャップが大好きで常に被っているほどです。他のスタッフも皆好きで、ジャケットにキャップの組み合わせがハウススタイルと言えるかもしれません。ブレザー×キャップ、ブレザー×スウェットパンツ、といったカジュアルなスタイルまで幅を広げるとブレザーがより楽しめると思います。もっと気軽に着てもいいですよ、というメッセージも込めています。
橋本 確かにブレザーとキャップは相性が良いように思えます。マインドはクラシックだけど着こなしはフランクで今どき。そしてこの店こそがその火付け役のような印象があります。
黒野 これからの「J.PRESS GREEN」でも、トラッドに一石を投じるような提案をしていきたいです。このレーベルは新規のお客様からもご好評をいただいているので、「J.PRESS GREEN」を通じてトラッドマインドを広く伝えられることを期待しています。
井上 引き続きよろしくお願いします。
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- 開催期間:10月26日(水)~11月8日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館7階 メンズオーセンティック
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Text:Riku Kuwahara
*撮影時のみマスクを外して、撮影を実施しています。
*本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。掲載情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。
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