【インタビュー】静かに佇み、寄り添う服たち。穏やかさと緊張感が同居する〈stein/シュタイン〉の美学
オーバーサイズ、着心地はリラックス感があって今時。だが、佇まいには独特の緊張感がある。〈stein/シュタイン〉は、デザイナーの浅川喜一朗氏が、2016-17年秋冬シーズンに立ち上げたブランドだ。ファッションに一家言を持った目利きたちの間ではすでに高い人気を誇り、感度の高い海外のセレクトショップでも取り扱いがはじまっている。2021年春夏シーズンからは、伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリーにラックを構えることとなった同ブランド。
今回は、浅川氏の服作りにおける哲学や、来シーズンのコレクションについて、さまざまに語っていただいた。
着た人が引き立つような服を求めて
――まずは立ち上げ時のコンセプトを教えてください。ご自身がオーナーを務めるセレクトショップ「carol/キャロル」からはじまったと伺っています。
「carol」をはじめた時はビンテージの〈リーバイス〉をずらっと並べて、お客さまに履いてもらって、シルエットやディテールなどをカスタマイズする、ということをやっていました。もともと古着は好きで、銘品と呼ばれるものがどう成り立っているか、解体してみるということは昔からやっていたんです。
解体して、生地や糸の見本帳などを眺めながら、全体像からステッチなどの細かい部分まで、穿く人のイメージに合うように、考える。デザインと呼べるまではいかないのですが、そういうことをやっていました。
とにかく数をこなしたので、パンツに関してはかなり知識が蓄積していったというか。だから〈シュタイン〉をはじめた時もパンツ3型から。それを2シーズンやりました。2016年の春夏と秋冬ですね。そこから徐々に、シャツやスウェットなどを作り、その次の秋冬シーズンでアウターをリリースしました。だからほんとに徐々に徐々に、という感じですね。
――ブランド名にはどういう思いを込めていますか。
ドイツ系の方に多い名前なんですが、例えばアインシュタイン、リキテンシュタイン、ノイバンシュタインなど。名前につく接尾語、それが”シュタイン”です。○○○シュタインというファミリーネームの○○○部分で、
その一族、その地域の歴史あるファミリーネームになる、という普通でありながら特別なものになる事象や名前に寄り添う感じが好きで。僕のブランドも、着ていただいた方にとって特別な一着になったり、服がその人に寄り添うようなものがつくれたたらいう願いを込めています。
言葉にすると、静かに、強いもの。作ってる服もそうですし、ビジュアルイメージもそうですし、お店作りに関しても同じです。お客さまにきちんと世界観が伝わるように、販路も絞っています。基本的には、オーナーさんやバイヤーさまも信頼のおける方、このお店だったら、丁寧に扱っていただけるだろうな、というお店さまに〈シュタイン〉をお取り扱い頂いています。また、うちのお店ではオンラインでのお取り扱いは行っておりません。ご来店されるお客さまに実際に商品をご覧になっていただき、実物の生地感、シルエットであったり、空気感をお伝えさせていただけたらと思っています。
――服にまつわる体験は”着る”だけじゃないですからね。お店で購入するということは、ECショップが盛んになった今だからこそ見直されるべきだと思います。
お客さまにとっては、お気に入りのお店があって、顔馴染みの店員さんがいらっしゃって、その人から購入することも含めて、”体験”だと思うんです。これはずっと、販売員をやってきたから余計にそう思うのかもしれません。そのため、今でも「carol」の店頭にはなるべく立ちたいと思っています。伝えたい部分をきっちりお伝え出来るように、そこはプロダクト作りもそうですが、丁寧にお客さまにお届け出来たらと思っています。
メンズ服をベースに、男性的な部分を削ぎ落としていく
――影響を受けたデザイナーなどはいらっしゃいますか。
もともと90年台のマルタン・マルジェラなど、空気感のある服、背景のある服、に大きく影響を受けています。また、フィービー・ファイロが在籍していた頃のセリーヌなど。ヘルムート・ニュートンの写真からインスピレーションを受けたこともあります。
はじめの頃は最初にテーマを設定して、そこから服作りをスタートさせていました。ですがこの1年は、動き始めてから、進めながら今感じていることだったり表現したいことだったりを、形にしていくようなスタイルをとっています。自分の中でほんとうに好きな核となる部分はそんなに変わらないので。趣味や興味といった部分、単純に今自分が着たい服など、イメージのマトリクスの中で、「このアイテムは左側の部分、このアイテムは真ん中寄りかな」というような進め方です。より内省的なアプローチというか。コレクションそのものも徐々に徐々に形作られていきます。
――〈シュタイン〉の服は、オーバーサイズのアイテムが多いですが、デザインする上で重要視している点は何でしょうか。
流行りだからという理由でオーバーサイズを作ろうとはまったく思っていません。前述したように、静けさや力強さなど、空気感を持った服を追求した結果といいますか。また、オーバーサイズですが、パターンメイクには特に気を遣っています。シルエットについても然りで、着用したときに縦にすっと落ちるような美しさ、そして生地のドレープが生む陰影など、アイテムそのものから力を感じられるような服作りを目指しています。ゆるさがありながらも、緊張感もしっかりあるような。もちろん、自分が好きなサイズ感というのはあると思います。
――ブランドビジュアルには常に男性モデルと女性モデルを起用されています。これにはどのような意図がありますか。
パターンメイキングは、メンズ畑出身の方にお願いしています。基本的にはメンズ服をベースに製作を進めていく中で、そこからマスキュリニティを削ぎ落としていって、ジェンダーを感じさせないような作りにしています。年齢も然りです。そのため、性別も年齢もさまざまなモデルの方に登場していただいています。
実は、頭に浮かんだルックのイメージから逆算してアイテムにしていくこともあるんです。空間を思い浮かべ、アイテムを着用したモデルがいて、シルエットやディテール、スタイリングなど、想像したままに形にすることもあります。この角度から撮れば、このディテールが引き立って…、このコートの上にあのコートを重ねれば、新しい表情が生まれる…、などと想像して、シルエットやディテールが引き出されていく。ちょっとした素材感の違いの重なりなどもそうです。そして実際に撮影に臨んで、想像以上のルックが撮れた時は、ほんとにうれしいですね。
次の春夏は「RE:PART」という言葉で表現しています。好きな部分、表現していけたらと思う部分は変わらず持ち続けている中で、繰り返したり、一周してまた戻ったりと、同じものを作っていても、時間が立って、何周
かしてみると、以前とは違ったものになる。5年前に見た映画でも、今見返してみればまた違って見えることと
同じように。そんな感覚を大切にしています。
メンズ館は昔からよく足を運んでいまして、世界中から服が好きな人が集まる場所です。そのため、お声を掛けていただいた時はうれしかったですね。メンズ館にいらっしゃるお客さまに、偶然でも何かアイテムに目が止まって、少しでも何か世界観などが伝わったらいいなと思っています。
――最後に、これからの展望について教えてください。
ひとつのことを突き詰めてやるのが個人的には合っていると思います。とにかく淡々とやっていく感じですね。できればおじいさんになるまで服作りをやっていけたらなと思っています。静かに、強い服を。新しい表現方法
を探しながらゆっくりと、長く、作り続けていけたらと思っています。
Text:Ryuta Morishita
Photograph:Tatsuya Ozawa
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