メイド・イン・ジャパンの矜持と無二のオリジナリティを感じさせるレザーバッグブランド〈cornelian taurus by daisuke iwanaga/コーネリアンタウラス バイ ダイスケイワナガ(以下コーネリアンタウラス)〉。大手バッグメーカーの企画、アパレル企業のショップスタッフやバイヤーなどの経験を活かし、2007年に満を持して自らのブランドを立ち上げた岩永大介氏。そのクリエーション哲学や製品へのこだわりを探るうち、海外の有名ブランドにも負けない熱量で支持される、人気の秘密が見えてきた。
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地元・神戸から世界へ発信される、誰も真似できないものづくり
バッグメーカーで企画、サンプル制作を担当し、その後務めたアパレル企業ではショップスタッフやバイヤー、MDとして活躍──そんな約7年間のキャリアを通してさまざまな知識、経験、顧客意識などを培ってきた岩永大介氏は、その間ずっと「独自のものづくり」というビジョンを持ち、すべての工程を自分一人で手掛けるオーダーメイドのバッグづくりを、会社員としての業務を終えた夜中に行っていたという。
「ユーザーが思い描く通りのものをそのままつくるなら、熟練した腕のある職人さんがやればいい。自分のようなキャリアの人間がやるべきは、デザイン性とカスタマイズ性を兼ね備えることだと考えていました。まだまだヘボかったですけどね(笑)」
バイヤーとして世界中を周り、名だたるブランドの製品を見れば見るほど、日本人にしか、自分にしかできないものづくりの可能性を感じたという岩永氏。そして30歳になる年に一念発起、独立を決意した。
競争の激しい、この世界で生き残るために考えたこと。それは、岩永大介という人間にしかないルーツや原体験が育んだ個性や感性、デザインからサンプルづくりまでをひとりで行う”濃度”の高いクリエーションを融合させ、見た目だけではない本質的なものづくりにつなげること。
「それと、誰も真似のできない、オリジナリティを生み出すことでした」
2007年、日本が世界に誇るバッグブランド〈コーネリアンタウラス〉は、こうして誕生した。神戸を本拠としたのも、そこが岩永氏の生まれ故郷であり、そのアイデンティティや美意識に大きな影響を与えた風景、そして潜水士の父という存在があったからだ。
「自分の生まれた町で、家族とともにものづくりを行うことは、唯一無二のオリジナリティを追求する上で必要なことでした。それに神戸は、姫路・たつのという伝統的に皮革産業が盛んで、いまでも国産レザーの7割近くを生産するエリアにほど近い。日本には数多くのバッグブランドがあるのに、革の産地付近で世界に向けたものづくりができているところはありませんでした。これも、私たちの個性になりえると思ったんです」
ロゴのように機能する、自然でアイコニックな“佇まい”。
岩永大介氏は自らデザイン画を描き、パターンを引き、製品化前のサンプルまで縫い上げる。この首尾一貫した創作過程にこだわる理由を訊いてみた。
「1人でやるほうが、頭のなかで描いた絵が製品として具現化されるまでの“濃度”が圧倒的に高いんです。サンプルを縫っている途中で、『こうしたほうがもっと面白いかも?』と縫製の仕方やデザイン自体に変更を加えることもあります。そうやってどんどん、クリエーションの“濃度”を高めているんです
それに僕のデザインの特徴は、自然物からインスパイアされた”ちょっとした”曲線にあります。子どもの頃に見た海や山などの自然風景から強い影響を受けているんです。こればっかりは、パタンナーさんに言葉で説明しても伝え切れるものではありませんから……」
〈コーネリアンタウラス〉の製品には、目立つ場所にロゴが入っていない。その理由について尋ねると、岩永氏はこんな風に答えてくれた。
「ロゴというのはブランドに知名度やバリューがあって、初めて意味をなすものです。僕らにはそんな知名度はまだないし、ロゴがあるとあんまりキレイじゃないですよね。目立つ場所にロゴが入った彫刻作品なんてある?って思います(笑)。
僕にとってバッグは立体造形物でもあるので、ロゴ代わりになるくらいの佇まいを目指しています。ただ棚に置いてあっても、佇まいにオーラがあれば手に取ってもらえるし、勝負できます。バッグを机に置いたときのクタッと沈みこむ感じとか、逆にカチッとキマるところとか、そういう“動き”やシルエット、シェイプというのは、僕にしか出せないもの。視覚的に見るというより、感じてほしいですね」
確かにロゴは、目立たない。だがブランドをさりげなく象徴する意匠は、バッグのハンドルに見て取ることができた。日本や日本人らしさを体現する、日本刀の柄(つか)から着想した菱形模様の「柄巻き」だ。
「ハンドル部分にフォーカスしたのは、肌に触れるポイントが多数存在する洋服と違って、バッグはほぼハンドルに集中しているからです。この最も重要なタッチポイントに、日本人としてのアイコン、ブランドの魂、そしてつくり手の矜持を込めたかった。さらにこの部分の生産は外注せずに、自分たちのアトリエ、ファミリーで内製したいと考えました。そこで潜水士であり、真鍮製ハードウエアの魅力に気づかせてくれた父に、託すことにしたんです」
刀の柄と同じように表裏両面に柄巻きを採用したタイプ、その「柄巻き」を発展させた完全オリジナルの「片面柄巻き」、そして学生時代にスポーツに熱中していた岩永らしい、テニスラケットのグリップテープのような「螺旋巻き」。ハンドルは現在、この3タイプが用いられているという。
そのほぼすべての製作をひとりで手掛けているのが、岩永氏の実父なのだという。まさに岩永氏にしかできないクリエーションであり、アイデンティティに根ざしたファミリービジネスだともいえるだろう。
「僕らも大分器用だと思うけど、父はさらに器用なんです。海の男って、漁網にしても仕掛けにしても、ほとんど自分たちで作ってしまうしメンテナンスしてしまう。既製品では対応できませんからね、海という自然には。父もモノを作るのが好きなので、喜んで引き受けてくれています。海に潜れなくなっても、この仕事を続けてくれたらうれしいですね」
新たな生命が吹き込まれた、サステイナブルな革製品。
そんな〈コーネリアンタウラス〉が、21年春夏コレクションで初めて、原皮の産地を明らかにした製品を発売する。
「ここ数年ずっと取り組んでいて、ようやく実現したのですが……。新シーズンは、原皮の生産を北海道、なめしを姫路、加工と縫製を東京で行っているシリーズが登場します。北海道は気温が低く乾燥しているので、虫が少なく、結果として面のきれいな皮を取りやすい。面がきれいだから色を入れやすく、通常よりオイルを少なめにして発色の良さと素材の軽さを活かすことができるんです。オイルは少なすぎるとレザーとしての奥行きや粘りがなくなるので、ギリギリのバランスを突いているんですよ」
新しい素材を取り入れることで可能となった、新しいアプローチ。これによりダークカラーが大部分を占めていたカラーパレットに、レッドやマスタードといった鮮やかな色彩が加わることとなった。
「素材は出どころまで正確に分かった方が、より“濃度”の高いクリエーションができる。デザインから生産まで、非常に緻密で濃い作業をしているのだから、素材についても細部まで理解していたいという思いがあったんです。
これまでの日本の産業構造では、“国産”の皮が北海道から来たのか、九州から来たのか分かりませんでした。タンナーさんすら知らない。それが時代の流れもあって、ようやく変わってきたんですよ」
あまり知られていないことだが、レザーは食肉の副産物として生まれるものだ。つまり私たちが肉を食べるという生活習慣をやめない限り、永遠に“原皮”は生まれ続ける。貴重な資源を無駄なく利用するレザーは、極めて“サステイナブル”な素材なのだ。
「僕たちの活動によってレザーが肉の副産物であり、革をとるために動物が殺されているわけではないことを、多くの方に知ってもらえたらとは思っています。でもそこに意識を向けすぎると面白いものを作れなくなってしまうし、製品をフラットに見てもらえなくなってしまう。
僕は創業当時、姫路市のタンナーさんで1ヶ月ほどインターンをさせていただいたことがあります。皮が革に生まれ変わる現場で、レザーづくりのノウハウを直接肌で感じることが目的でした。そしていつかは、屠殺場の見学もしたいと思っているんです。生き物の命をいただいてものづくりをしているという意識を、常にもっていたいですからね」
それどこの?──
〈コーネリアンタウラス〉のバッグを使っていれば、こんな質問を受ける機会が間違いなく多くなるだろう。なぜなら、パッと見ではブランド名がわからないけれど、持っていても置いていても、生き生きとした強烈なオーラを放っているからだ。
そのバッグには確かに、命と魂が宿っている。