【インタビュー】30年以上手仕事でデザインと向き合う帽子ブランド〈キジマ タカユキ〉が愛され続ける理由
アトリエメイドの帽子ブランド〈KIJIMA TAKAYUKI/キジマ タカユキ〉デザイナーの木島隆幸さんは帽子作りを始めて30年以上に。トレンドだけでは終わらず、時代とともに変化しても長年愛され続けるデザインを追求しながらも、真摯に向き合ってきたモノづくりの制作工程はずっと変わらない。 今回約3年ぶり3度目のインタビューでは、初めて同ブランドのアトリエにお邪魔し、改めてモノづくりへの想いから、帽子作りの工程、2020年秋冬コレクションの新作、今後の展望についてお話を伺った。
Ⅰ.約3年ぶり3度目のインタビュー
――ISETAN MEN‘S netでは今回が3回目のインタビューとなります。まずは改めて、帽子作りに携わるようになったきっかけについて教えてください。幼い頃からファッションに興味を持っていました。自分が興味を持ったアイテムやスタイルなどは積極的に取り入れてきたのですが、これといった一貫したものはなかったんです。ミーハー思考と言いますか(笑)。 服をやるとなると、ひとつに絞ることになる。それは自分には無理だなと。ストリートスタイル、パンクスタイル、クラブスタイルなどいろんなスタイルに変われることがファッションの醍醐味だと思っていました。そこで、帽子だったらいろんな表現ができるのではないかと思いました。帽子の世界に飛び込んでからは、一筋縄ではいかず…。そこで熱中したというか、帽子作りにハマって行きました。
――日本の帽子を語る上で避けては通れないモディスト 平田暁夫さんのアトリエで学ばれたそうですね。
平田暁夫先生は、フランスで帽子のオートクチュールを学んだ方で、そこで働かせてもらったというのは大きかったですね。例えば、フェルトの型入れは、ヤカンを使っているのですが、ハット製造に用いられるスチーマーよりもピンポイントで蒸気を当てられるというメリットがあります。先生のところでも同じ合羽橋の金物屋のヤカンを使っていました。オートクチュールの技法を学ぶということは、形も顧客の好みのものを作ることになりますから、作れるバリエーションも広がるんです。
Ⅱ.1つの帽子が出来るまで
――アトリエにて、代表的なフェルトハット作りの工程を教えていただきました。1.型作り
まずデザイン画を起こして、木型が該当する場合はそれを用いて、木型が該当しない場合は、縦横に伸ばせる紙100%の専用シートを用いて型を作ります。オートクチュールの場合は個人の頭の形に合わせて、細かく調整。型ができたら専用の白い樹脂で塗り固めます。
2.フェルトの型入れ
あらかじめ帽子の形になったフェルトに蒸気を当て、それを型に沿わせます。生地を痛めないように手で加減を調整しながら、成型していきます。〈キジマ タカユキ〉では注ぎ口が細いヤカンをボイラーの代わりに使用。
3.内側のリボン付け
素材がレザーの場合、ハットの内周に沿うようにレザーの輪を作ります。その後ハットの内側に、輪を縫い付け。キワの部分に針を落とすことで、2〜3mの遊びが生まれます。これによって、被ったときに頭にフィットするようになります。デザインによって、グログランテープを使用したりします。
4.外側のリボン付け
外周に沿って、リボンを巻いていきます。〈キジマ タカユキ〉では今のファッションに合うように、ふっくらとした仕上がりに。実は結び目のタックが上向きに入っていて、他とは違う仕様になっています。
Ⅲ. 2020年秋冬商品のスタイリング提案
――初めてアトリエにお邪魔し、改めて手仕事の重要さ、ひとつひとつの工程にかける熱意などを感じることができました。こうして丁寧に作られた2020年秋冬コレクションの25型が、メンズクリエーターズと三越伊勢丹オンラインストアに登場しますが、その中から厳選させていただいた5型に関して、ファッションに取り入れるとしたら、木島さんはどんな合わせ方をお勧めしますか。お伺いした内容から、メンズクリエーターズチームがイメージに近いものを選定しコーディネート提案します。
1.レザーのパッチワークハット
これは古着屋さんに置いてあるようなハットをイメージしているのですが、ベタに合わせて欲しくないですね。あえてスーツスタイルに合わせるなど、ひねった合わせがおすすめです。足元は革靴だとハマりすぎてしまうので、スニーカーなどがいいと思います。
― Styling by ISETAN MEN’S CREATORS ―
2.シープスエードのキャップ
細長くて幅広い、下向きのツバが特徴です。これはダサかっこいいと言いますか、あえて野暮ったいフォルムを楽しんでいただきたいと思います。上質なシープスエードを使っていますので、ドレッシーにも見せられる。どんなスタイルにも合わせやすいアイテムです。
― Styling by ISETAN MEN’S CREATORS ―
3.ラビットファーフェルトハット
― Styling by ISETAN MEN’S CREATORS ―
4.ファー付きパイロットキャップ
― Styling by ISETAN MEN’S CREATORS ―
5.スプラッターペイントのマウンテンハット
ラビットファーフェルトに特殊な溶剤を染み込ませて固く仕上げています。そうすることで、自分好みの形に変えられるんです。オーバーサイズにしているので、誰にでも似合うというのもポイントの一つです。スペーシーなスプラッターペイントがアクセントになります。― Styling by ISETAN MEN’S CREATORS ―
Ⅳ. 時代とともに変化しても長年愛され続ける理由
――〈キジマ タカユキ〉は、今や日本を代表する帽子ブランドのひとつだと思います。その時その時でトレンドを取り入れるバランス感覚もすごいなと感じています。帽子は、スタイリングの中で生きるデザインじゃないといけないと思っています。だから、その時々の流行りに合わせて、シルエットやディテールを変えていくんです。色や素材使いもそうです。
――インスピレーションはどこから得ていますか。
これは創業当時から変わらないのですが、〈キジマ タカユキ〉の帽子は洗えるんです。これはなぜかというと、例えば古着を着た時に帽子だけビシッとした状態だと違和感がある。だからくったりとしたものが欲しいと思い、自分でも洗ってみたことがあったんです、すると縮んでしまって残念な思いをした経験があります。だから洗っても形がしっかり残るものを生み出しました。お洒落をするときに多くの人が思っているんじゃないかなということを想像して、デザインや素材に反映していきます。
――お洒落な人は抵抗がないかと思いますが、帽子をかぶることに対して気恥ずかしさを持っている方も多いと思います。
自分には似合わないのではないかと思う方は少なくないと思います。そこは常に考えているところで、どうしたら手にとってもらえるか、どうしたら多くの人に似合うか、デザインは追求しています。
――例えばキャップしか作らないブランド、ニット帽が強いブランドなど、ワンアイテムに特化したところも多いと思います。〈キジマ タカユキ〉はワンシーズンでの型数もかなり多く、バリエーションもさまざまです。
これは私の”欲”というか、頭に乗せるもの、ハットと呼ばれるものはすべて網羅したいという気持ちがあります。今バケットハットが流行っていますが、もしキャップしか作れない職人だったら、我慢できないと思います。どの形においてもチャレンジしたい。そういう気持ちを持って、ものづくりに臨んでいます。
――木島さんご自身はどのようなスタイルがお好きですか。
ファッションに目覚めた頃はデザイナーズブランド全盛期です。ですが、型にハマってしまうのが嫌で、自分を表現できる古着の方が好きでしたね。ブランドものでも、そこのイメージとは違う着方をあえてやってみたり。型にハマらないというのは今のものづくりにも生きています。
Ⅳ.今後の展望・YOUTUBEチャンネル紹介
――アンサーイット(answer It)と呼ばれる、新しい取り組みも楽しみです。通常のコレクションであるインライン、クラフツマンシップを感じられるハイライン、そしてもうひとつ新たにアンサーイットというプロジェクトを立ち上げます。これはヴィンテージのアイテムを持ち込んでもらって、それを現代的にアップデートするという取り組みです。
立ち上げた理由のひとつは良質なフェルトが年々少なくなってきていること、もうひとつは眠っているハットの有効活用です。少し汚れていたり、被り心地が悪かったりするものを、リサイズ・リモデルしてアップサイクルさせます。昔のハットはいい素材が多いんです。すべて1点ものになりますし、〈キジマ タカユキ〉なりのサステブナブルなアプローチとも言えます。ゆくゆくは古着屋さんやブランドさんとも協業して、廃材なども活用していければと思っています。
――最後に、これからの〈キジマ タカユキ〉について展望を伺えればと思います。
「被り心地や使いやすさ」をデザインする
帽子は、洋服に対して進化のスピードが遅いと感じています。50年前から伝統の製法を守り続けている、というようなものづくりの姿勢には共感しますが、50年前の帽子が今のスタイルに合うかどうかはまた別の話です。やはり時勢やその時のスタイルにあった帽子を世に送り出していくことが大事だと思います。 ただ、こういう時勢に沿ったデザインの帽子を作ることができるのも、平田暁夫先生のアトリエで学んだ基礎があるからだと常々思っています。ものづくりの根幹の部分、ベースとなる部分はもちろんですが、被り心地や使いやすさをデザインすることを、これからも大事にしていきたいですね。
〈キジマ タカユキ〉公式YouTubeチャンネルでは、近日公開のアフターケア動画を皮切りに、さまざまなコンテンツを発信予定。
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Text:Ryuta Morishima
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