仕掛け人たちが語る「靴博で伝えたいこと」とは?|ISETAN靴博2020
これまでの紳士靴に加え、婦人靴も参加してより拡大した形で開催されるISETAN靴博2020。ここでは、メンズとレディース双方のキーパーソン4名が集まり、今回の見どころや、その背後にある思いを、男の靴雑誌『LAST』編集長の菅原幸裕が訊いた。
紳士靴売場から、催物場へ、そして世界へ?
──この『ISETAN靴博(以下靴博)』の歩みについて、まずは初めから関わってこられたおふたりからお話お聞きできればと。最初のきっかけは何だったんでしょうか?
福田隆史(以下福田):最初は、予算10万円でつくりたいものはないですか、とメーカーやデザイナーに投げかけて、集まったアイテムを紳士靴売り場で展示したのが、最初の靴博でしたね。
田代径大(以下田代):「究極のプロダクトアウト」ですね。マーケットインなものづくりへのアンチテーゼとして。
──最初の計画は2015年に入ってから?
田代:2014年からです。その時ツボさん(シューズデザイナーの坪内浩さん)がちょうど還暦だったんですよね。
福田:そう。実は発端は、ツボさんの功績を振り返りながら、「お疲れ様」の意味も含めたツボ博計画でした。最初の靴博を15年に開催して、16年も企画をしました。私はその後異動してしまったので、開催時には関わっていませんが。
田代:2016年のテーマは「禁断のコラボレーション」でしたね。
──そういえばLASTでもリサイクルの現場を取材しました。
田代:産業廃棄物処理のナカダイさんですね。靴職人のナオさん(横尾直)と行きましたね。
福田:リサイクルのマテリアルと靴づくりをどうコラボレートするか、という取り組みで。
──あれが2016年。そう思うと歴史がありますね。
田代:その後ちょっと間があいて、なぜ2019年に靴博が復活したんでしたっけ?
福田:私がイセタンメンズの紳士靴担当に戻ってきたから(笑)、というわけじゃなくて、「ISEPAN!」など、単一アイテムの催事が注目されていたんです。じゃあ、メンズでなにかできるものはないのかという話になり、メンズ館を象徴する一番のアイテムは靴だ、ということになって。私たちも靴博をまたやりたいと思っていたので、じゃあやりましょうと。当初からここ(紳士靴売場)で小さく始めて、いずれ催物場を使って、その後はセルフリッジズの「シューズカーニバル」とかと連動して、世界的にやろうというビジョンがあったので、一応、とんとん拍子です(笑)。
──英国のセルフリッジズですか?
福田:以前英国出張中にロンドンの百貨店セルフリッジズに行ったとき、「シューズカーニバル」というイベントをやっていたんです。ショーウィンドウは全部靴関連、観覧車が回っていてそこに靴が並んでいたり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンのハンドルに靴が置いてあったり。靴のフロアにはポップコーン屋台が出ていて、お客さまがポップコーン食べながらフロアを巡っている。文字通り靴というアイテムのカーニバルになっていて、ひとつのアイテムで、こんなことができるんだと。そういう原体験があるんです。
田代:前回の靴博は「靴のテーマパーク」がテーマでした。
福田:紳士靴売場の分身として、通常できないことをやってみました。でも前回は靴をどう面白く見せるかということだけになってしまった。
福田:先日昨年ご協力いただいた方たちにお集まりいただいて、座談会でご意見伺ったときに、みなさんの一致した見解としては、紳士革靴博になってしまったから、もっと女性と一緒に楽しめるようなコンテンツや、スニーカーなどがあったほうがいいということでした。それと靴だけではなくて、その前に足を知るみたいなことがあってもいいんじゃないかと。今回の靴博はそうしたご意見を反映した内容になっています。あとは、東京で通常買えないものが欲しいといったこととか。
田代:普段見られないものが見たいという声、結構多かったですね。
福田:それとビンテージが良かったとか。
すべての人に向けた「靴博」を
──と、ここまでが今年の靴博前夜の話ですが、実際に婦人靴と一緒に開催することになったのは驚きでした。
赤木謙(以下赤木):婦人靴としては、大きく靴にフォーカスしたイベントは、これまで全くありませんでした。
福田:紳士と婦人の領域を、1アイテムでまたぐというのも、過去なかったと思います。
──赤木さんの中で、婦人靴のこういう要素を靴博に盛り込んでいきたいといったことは、何かあったのでしょうか。
赤木:最初に企画書をいただいたときに、「靴が好きなすべての人へ」という、去年のコンセプトを見て、すごくいいなと思って。そのコンセプトであれば、レディースチームも一緒に靴が好きという同じ思いの人たちに向けて、何かできることがないかとスタートできるので。さらに、男性でも女性でもないジェンダーフリーということも、これをいい機会として取り組めたら面白いと、話が進んでいきました。
──なるほど、そこで『LAST(ISETAN靴博特別号)』誌面で、赤木さんが履かれていた大きいサイズのパンプスに繋がるのですね。
赤木:今日も持ってきました。
田畑智康(以下田畑):似合っちゃうのがいいね。
赤木:靴の場合、洋服と違うのはサイズに関してで、結構デリケートなんです。今のストリートのスタイルだったら、同じTシャツやロンTを男性がXLを着て、女性がSやMを着るのは当たり前ですが、靴の場合、23センチと28センチ同じデザインのものを男女が選ぶという考え方は、あまりできない。いわゆるLGBTQに関してだけではなくて、足のサイズが大きくて靴選びに困っている女性も今は数多くいらっしゃるでしょうから、そういったところに自分たちができることはないかという話をしていたら、同様のことを考えていたメーカーがたまたまいらっしゃったので、じゃあ、この機会にチャレンジしてみましょうということになりました。
福田:「靴が好きなすべての人に」というのは、今では紳士靴売場のコンセプトにもなっていますけど、昨年の靴博で提唱していましたが、今年の靴博が昨年から大きく変わった点は、もうひとつ、「すべての人に靴を好きになってほしい」というコンセプトが、プラスされたことです。
田畑:先の座談会でも話題となったのですが、靴が好きな人たちに、なぜその人たちが靴好きになったか、その瞬間は、という話を聞くと、すぽっと足が靴に入ったとき、サイズがぴたっと合ったときがきっかけですという方がすごく多くて。そういう体験をもたらす機会をつくるのが一番大事なんじゃないかっていう話が出て、私たちもそのように考えていました。
赤木:「YourFIT365」、婦人から始まって今は紳士でも導入している3D測定サービスもそうですが、今回、靴を好きになってもらうためのきっかけをつくりたいということで、「足を知る」といった内容をフィーチャーできたらいいねとみんなで話をしていたんです。
──その点において紳士靴の取り組みに「ミレニアルラスト」がありますね。田畑バイヤーがミレニアル世代は足がどうも違うらしいというところからスタートしたと伺いました。
田畑:本質的に若い人に合う靴をつくろうと思って立ち上げたのが、「ミレニアルラスト」プロジェクトです。ミレニアル世代は踵が小さくなっているとか、土踏まずを持ち上げなければフィット感を感じない、意外と開張足になっているからつま先部を広めにしたほうがいいといったことを、各メーカーの力を借りて具現化しました。
田畑:同じフィッティングコンセプトを伝えたとしても、各社それぞれ木型づくりの個性やファクトリーの職人たちの作風があったりするので、同じものが出来上がってこないこともユニークです。「YourFIT365」と「ミレニアルラスト」はセットだと考えています。足を正しく知ることで自分の適正サイズや、選ぶべき靴の性格が分かっても、その先にその足に合った商品がないという結果が一番、残念なわけです。間口をより多く作ることで、若い人がもう一度イセタンメンズに靴を買いに来てくれればと思っています。
シームレスに靴と出合える場所へ
(ここで、赤木がパンプスに履き替えて登場)
赤木:僕は普段割とスニーカーを履くことが多くて、サイズ選びは少しゆったり目を選び、悩むことはほぼ無いんです。それが、自分が実際にパンプスを履いてみて思ったのが、ジャストフィットの重要性。パンプスには高いヒールがあるから、傾斜もある。ゆったりめに履くと当然足が前方に滑ってつまり気味になるし、当然踵が抜けてしまいます。足長(サイズ)を合わすことができてもここでボールジョイントがちゃんと止まっているとか、ポインテッドトウだと小指が当たってしまうとか、パンプスの場合は繊細な木型のニュアンスがダイレクトに伝わってきます。
赤木:ヒールの靴選びは、ちゃんとジャストフィットしないと違和感を感じる。きっと多くの女性は困っているんだろうな、つらい思いをしているんだろうなということを今回体験したからこそ肌で感じることができました。なのでぜひ女性も男性も「YourFIT365」を体験していただいて、まずは自分の足やどんな靴が合いやすいのかを知っていただきたいなと思います。
──赤木さんが履いているパンプスは、どちらのものでしょうか。
赤木:これは〈fascination/ファシネーション〉というブランドの靴です。これは僕からメーカーにこんなことを考えていると相談したら、彼らもこれからはこういうものが必要だとお考えになっていて、たまたまタイミングが合って、つくってみようということになりました。
田畑:紳士物を扱っていると自分で履いて試せるけど、婦人靴の場合、バイヤーとして、そこの感覚が難しいね。
赤木:どれだけ展示会に行って、いろんな靴を見たところで私は履けないので、アシスタントメンバーや店頭スタッフをはじめ女性に意見を求めますね。
福田:靴博では逆に女性が「おじさん靴」を履く体験もできるようになると面白いかもね。グッドイヤーウェルテッドの靴、男の革靴ってこんなものだみたいなこと。相互理解を深めるためにもね。
──今回靴博に出展するD2Cのメンズシューズブランド〈RENDO/レンド〉では、靴博にてウィメンズの受注を予定していると聞きました。
田畑:〈レンド〉と、〈Berwick/バーウィック〉も23㎝の小さいサイズから展開する予定です。女性の間でそうしたニーズがあるのを、現状感じています。
田代:前回の靴博でもそんな声を聞きました。会場に女性がちらほらいらしていて、お話伺うと、実はちょっと「おじ靴」というか、メンズっぽい革靴がほしいんですよ、という。
田畑:あと、今回会場でGMTのガレージセールを開催しますが、そこでも海外の有名ブランドを販売予定です。
福田:今回は「シームレス」ということもテーマなんです。いろんなものの垣根をなくそうという。
──紳士と婦人の融合から始まって、プロパーとセール、新品とヴィンテージとか。どんどんシームレスの範囲が広がる感じです。
田畑:オンラインとオフラインの垣根とか。
福田:そうですね。さらにリペアとかリユースなども含めて。
田代:シームレスという文脈でいくと、今回、僕はメディアとして靴博と絡んでいます。新型コロナウイルス流行の影響もあって、オンラインでも体験いただけるようなコンテンツを福田さんといろいろ模索しています。VRなども検討していたんですが、今回はちょっと難しかった。でも、少しでも靴博の会場をお客さまにお届けできたらという目的で、「靴博チャンネル」として会期中はインスタLIVEもしくはYouTube LIVEで、配信する予定になっています。
福田:去年も、会場に来れなかったお客さまが結構いらっしゃって、地方でやってほしいという声もいただきました。そこで今回、会場に来なくても楽しめる、そして会場に来れない日でも楽しめるメディアをやろうと考えています。
Text:Yukihiro Sugawara(LAST)
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