【インタビュー】<サバイ>デザイナーが解説する「袴」からインスパイアされたワイドパンツ
<saby/サバイ>は、デザイナー橋本哲也氏が、2020春夏シーズンからスタートした新ブランド。7月23日(木)午前10時から29日(水)まで三越伊勢丹オンラインストアで期間限定ポップアップショップの開催にあたり、そのブランドの背景と今回展開されるアイテムについて、三越伊勢丹スタッフが直接ご本人にお話を伺いました。そこには橋本氏が大切にしてきた「日本人独特の感性」が潜んでいます。
「侘び寂び」に通じる日本人の感性をかたちに
松岡 2020春夏シーズンからスタートした<サバイ>は、どういう思いから始まったのですか?
橋本 もともと、古くから親しくさせていただいていた工場と、一緒になにかできないかを模索していたときに、この工場の得意なことを、そのままお客様に伝えることができないかというところが出発点だったんです。
松岡 D to C的な発想ですね。その工場の得意なことって何だったんですか?
橋本 それは「人」なんです。
松岡 …「人」?
橋本 はい! 社長以下、職人さんたちが、とっても人が良く、丁寧な仕事ぶりなんですよ。
松岡 なるほど…。
橋本 って、伝わらないと思うんです(笑)。服を作っている人たちのことって、着る側には伝わらないですよね。
松岡 デザイナーさんの思いとかなら、仕事で直接話しを聞いたり、メディアで知ったりできますけれど。
橋本 そうなんです。ファッションって、デザイナーばかり表に立って、その後ろにいる、実際に布を切ったり縫ったり、もっといえば生地を作る人、糸を紡績したり染色したりする人のことまで考えないじゃないですか。そういう人たちの思いを、着る人に届ける役割としてデザイナーがいる。そんなブランドをやりたかったんです。
松岡 だんだんわかってきました。
松岡 <saby>というブランド名は、どういう意味なんでしょう?
橋本 「サバイ」って読むんですけど、欧文のまま読むと「サビ(ィ)」じゃないですか。ずばり「侘び寂び」の「寂び」なんです。
松岡 日本語なんですね。
橋本 ブランドタグにもサバイってカタカナで書いてあるんですよ。
松岡 あ、これ「サバイ」って書いてあるんですね。確か、このデザインのキャップがありましたよね。
橋本 一瞬読めないかも知れませんがカタカナなんです。さりげなくアピールしてたんですが。
松岡 なにかのグラフィックデザインとは思ってたんですが、カタカナって和の感覚、すごく味がありますね。こういうのも侘び寂びっていうのかな。
橋本 日本人がもつ「侘び寂び」の感覚って、外国人にはなかなか伝わらないと思われてるじゃないですか、でもちゃんと理解する人もいるんですよ。たとえばこのwabi-sabiの著者でLeonard Korenというアーティストの作品でもある『WET magazine』は、日本のお風呂をテーマにしていて、お風呂をモチーフに作品を表現しているんです。
松岡 西洋には日本式のお風呂ってないですし、驚きですよね、きっと。
橋本 そうなんです。彼らからすると、とても珍しい文化だと思うんです。だからといって作品として表現するときに、お風呂そのままというのではなく、そこから派生する水のイメージだとか、ライフスタイルだとか、巧みに表現されているのは何故なんだろうと考えたら、彼らなりにお風呂という文化を、ちゃんと咀嚼して昇華してるんですよね。こんなにも異文化を自分のものにしてる感覚って、不思議だなと思いながらも、思い返してみると、これって自分たち日本人の洋服の感覚なんじゃないかって思ったんです。
松岡 洋服のスタイルも国によってそれぞれ違いますし、それを取り入れていく面白さがファッションにはありますよね。
橋本 僕が初めてファッションに出会ったのは、地元からほどちかい町田の古着屋です。そこで出会ったアメカジの古着が大好きで買い漁ってるうちにデザイナーになってしまったのって、お風呂という日本文化に興味を持って自身の作品にしてしまったアーティストの感覚に近いように思うんです。
松岡 たしかに橋本さんからすると、洋服は作品ですね。
橋本 だからこそ日本人が考える、洋服というものを表現したいと思っているし、日本人が大切にしたい美意識だとか、人と人との繋がり、目に見えない想いや奥深さを伝えたいというのが、<サバイ>のコンセプトなんです。
松岡 そこで、先程の工場への想いにつながるんですね。
橋本 工場は広島県福山市にあるんですが、土地柄デニムなどの厚地を縫うのが得意な土地なので、ボトムを中心にブランドの構成を考えています。そんな環境の中で企画したアイテムです。
松岡 こちらのワイドパンツですね。
橋本 実はこのパンツ、モチーフは「袴」なんです。
松岡 ワイドパンツって、いま若い人たちの間では一般的ですが、袴をベースにしたこのワイドパンツは、シンプルだけど和のテイストやディテールのこだわりが伝わってきます。
橋本 でも、そう言いつつも「袴」を全面に押し出しているつもりはないんです。ただ、この深いタックの入り方や、ベルトループの取り付け位置を低くすることでウェストが立ち上がる穿き方なんかに、袴っぽさを感じてもらえると思います。
松岡 橋本さんが考えるこの辺りの細かい計算がこのパンツには詰まっていますね。
橋本 和服って、洋服とは全然別物です。和服は巻きつけるように着ますが、ジャケットやシャツはボタンで留めるしセーターはかぶりますよね。でも唯一「袴」って、足を入れて穿く「パンツ」と同じ形状なんです。
松岡 そういう話を聞くと、なんだかこのパンツの見方が変わってきます。
橋本 僕自身、あまり口数が多いほうではないので、このパンツを通じて穿く人が自由に感じてもらえればいいと思っています。
「袴」からインスパイアされた<サバイ>のパンツ
松岡 今回、三越伊勢丹オンラインストアでは、<サバイ>のパンツをフィーチャーしています。それぞれについて教えていただけますか?
TUCK BAGGY < 11.5oz ICE BLUE DENIME >- LIMITED -
橋本 オリジナルのデニムパンツは数量限定です。11.5ozのデニムですが、甘撚りの糸を使うことでデニムのわりに軽い穿き着心地です。
松岡 ドレスパンツとカジュアルパンツの、ちょうどいいところといった感じがしますね。
橋本 この風合いは世界的に評価の高い日本デニムの産地でもある、備後地区ならではのものです。オフホワイトとアイスブルーのダブルフェイスになっています。見えないところに気遣うのも日本人的かな、と。
松岡 普通のホワイトデニムとは、ちょっと印象が違いますね。
TUCK BAGGY < HARD TWISTED YARN CLOTH > - LIMITED COL -
松岡 こちらも同じ型ですよね。素材は何ですか?
橋本 日本のテキスタイル技術は凄くて、コットンだけど強撚糸を使用しているからウールみたいな雰囲気でしょ。
松岡 やわらかくて、ドレープがきれいに入りますね。それに上品な光沢もあってカジュアルパンツなのに、大人っぽい雰囲気です。
橋本 先程のホワイトデニムと同じパターンで、こちらの素材は、ブラック、ホワイト、キャメルの3色で受注販売になります。
松岡 これが今回のためにご用意いただいたパンツですね。袴をイメージし、制作されているということもあり、広い裾幅ですが、不思議とシューズとのバランスは絶妙ですよね。カットオフ仕様も<サバイ>ならではのエッセンスが効いていて拘りを感じます。
BIG CHINO <Dickies>×<saby>
松岡 もうひとつ、こちらは<ディッキーズ>のパンツですか?
橋本 はい、<サバイ>の定番モデルであるビックデニム型をアメカジの定番である<ディッキーズ>に別注したらどうなるかなと思い、形にしました。
松岡 このパンツ、変わってますね。サイドシームがないですね。
橋本 あ、気づかれましたか? 通常パンツは4枚ハギで、片足の筒は2枚のパーツを縫い合わせて作ります。このパンツは一枚のパーツを折ったものを中央で縫い合わせているんです。
松岡 ウエスト部分も帯もない仕様ですね。
橋本 トラウザーの様なヒップラインをパターンで表現することで、素材はカジュアルなんだけどドレスの要素を取り入れています。ヒップ周りをコンパクトにすることで、バックスタイルもすっきり見えるようにしているんです。
松岡 サイドシームを無くしたり、ウェストをワンピース仕立てにする引き算のモノづくりは、イノベーティブでもあり、カジュアルに於いては革新的です。
橋本 ありがとうございます。日本人って、ごちゃごちゃ足していくより、引き算の美学みたいなものが得意だと思うんです。
松岡 単なる流行のワイドパンツではない静謐な感性というか、モノづくりに対する姿勢みたいなものを感じられるコレクションだと思います。
橋本 僕自身、流行りものだったり大量生産されたものより、ベーシックでシンプルだけど、そのブランドらしさがある服が好きなので。
松岡 先日の外出自粛期間に、家のなかのものを片付けていて思ったのですが、僕もシンプルだけど作り手の想いが感じられる服を長く愛していることに気づきました。橋本さんの想いが、たくさんのひとたちに届くことを願っています。
□7月23日(木)午前10時~29日(水)
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Text:Yasuyuki Ikeda
Photo:Tatsuya Ozawa
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