【特集】クリエイティブディレクター南貴之が、憧れのイラストレーターとの初コラボを語る
ファッションとアート、それぞれの分野で日本を代表する存在であるクリエイティブディレクターの南貴之氏と、イラストレーターである永井博氏がコラボレーション。純粋に好きなものを追求し作家と作品をリスペクトする南氏の姿勢が、タイムレスな価値をもつ「ありそうでなかった」アートなファッションを生み出した。
あえて意外性のある、シンプルな作品を選んだ理由
クリエイティブディレクター南貴之氏が手がける<Graphpaper/グラフペーパー>とイラストレーターである永井博氏とのコラボレーションによる、スペシャルアイテムが登場。
そこで今回は、このプロジェクトを通して邂逅したふたりにインタビュー。ディレクションを担当した南氏が永井氏にラブコールを送った理由、そしてどのようにしてファッションとアートがリンクしたスペシャルアイテムが制作され、どんなこだわりが詰まっているのかについて、話しを訊いた。
「永井さんが手掛けられてきた作品はもちろん、その作品を採用したミュージシャンの方々も僕は子供の頃から大好きでした。ウチの親父はジャズやAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)が好きで、決してポップスを聴くようなタイプでもなかったのに、なぜか大滝(詠一)さんなんかはよく聴いていたんです。もちろんその(『A LONG VACATION』の)ジャケットはとても印象的で、だから僕にとって永井さんは雲の上の人なんですよね。気軽にお会いしてはいけないと心に決めていたのですが……、今回の取り組みを通じてどうにかお会いできないかと考えたわけです(笑)」
南氏がそう語る通り、今回のコラボレーションは南氏から永井氏への熱烈なラブコールによって実現したものだ。
「彼のブランド(グラフペーパー)のカタログを見せてもらって、すごくシンプルな服ばかりだったので、最初は僕の作品は合わないんじゃないかと思ったんですよ。ただいろいろある僕の作品のなかで、特にシンプルなものを選んで使いたいと言ってくれた。なんだ、センスがいいじゃないかと(笑)。自分はシンプルなものが好きなんだけど、クライアントワークではヤシの木やクルマなどを望まれることがほとんどで、複雑な絵になってしまうことが多いですからね」
音楽業界で人気ジャンルとなっているシティポップと強く結びつくような、アメリカ西海岸を思わせる青空やビーチ、ヤシの木をモチーフとした作品でよく知られている永井氏。だがご本人は意外にもミニマルを志向し、また南氏が選んだ作品もシンプルかつ直線的であったのは、果たして偶然なのだろうか?
「永井さんのオフィスでたくさんの作品を見せていただいたんですが、とてもシンプルな作風のものがあることに驚きました。みんながイメージする永井さんの作品とは違うけど、僕はむしろこっちのほうが好きだな、と。僕が今回のコラボレーション向けにシンプルな作品を選ばせていただいたのは、理屈ではなく直感的な部分が大きい。でも、みんなが使ったことがあるような作品は避けたかったというのもあります。グラフペーパーの服と永井さんの作品の親和性をどこで持たせるべきかと考えたとき、構図や配色のよさで魅せるシンプルかつコンテンポラリーな作品がハマルと思った。これなら永井さんもグラフペーパーも、新しい顧客層を構築できるんじゃないかという感覚がありましたね。実はご本人も好きな作風だったというのは、うれしい驚きです」
好きなものを身につける、ファッションの本質的価値と悦び。
「自由に作品を選ばせていただき、そのデータを元に絵型を作って永井さんにプレゼンしました。『こんな感じでどうでしょう?』『オッケーです』と(笑)。まさかの一発オーケーをいただきました」
あまりにもスムースな展開に驚いたという南氏に、それぞれのアイテムのポイントを解説していただいた。
「TシャツやロンTに、絵画やグラフィックをプリントするのはよくあることだし、みなさん安易に作られたりもしてると思うんです。でも今回はグラフペーパーでこだわり抜いて作ったボディに、絵の再現性を極限まで高めた特別な技法を使ってプリントを施しました。そうすることで、永井さんの作品を一番良い状態で載せたかったんです。永井さんやその作品へのリスペクトを、きちんと表現しようと。だから普通に見えますけど、意外と『ありそうでなかった』プリントものだと思っています」
素材、シルエット、デザイン、プリントなど、あらゆる部分にこだわり尽くした、究極のプリントTシャツ&ロンTというわけだ。
「あとは絵柄をバーンと主張するのもありがちだと感じたので、あえて贅沢に裏地に使ってみたいというアイデアを最初からもっていました。皆が知っているベーシックなコーチジャケットの裏地全体が、永井さんの美しい作品だったら面白いな、と。僕は自分が着ないものを作らない主義なので、表地に総柄が入ったブルゾンは着ないなっていうのもありましたし(笑)」
すべてを南氏任せにしているように思えるこのプロジェクトだが、永井氏側に不安はなかったのだろうか?
「南さんはセンスがいいからね(笑)。実はコラボレーション自体はいろいろなブランドとしていて、それぞれのデザイナーさんの感覚に委ねて自由にやってほしいと思っているんですよ。大体作品をシンプルに見せるTシャツを作ることが多いですからね。どう料理してくれるのか、毎回楽しみにしてるんですが……。コーチジャケットの裏地に使うというアイデアは、昔の着物みたいでとても面白いと思いますね。なにかのインタビュー記事で、南さんがカシミアニットの重量へのこだわりを語っているのを読んだんです。質はもちろん、量とか重さにこだわるその観点がユニークだな、と。やっぱり重いですもんね、いいモノは(笑)。やっぱりこの人はすげーと思いましたよ」
青空と直線的な建築とのコントラストを好みつつ、それでも最近は青空より、グレイッシュな曇り空のほうが時代に合っている気がして描きたくなるという、永井さん。一見するとシンプルかつ上品で、着やすいのに実はしっかり趣味性やカルチャーが取り入れられている。そんなコーチジャケットをいたく気に入った様子だ。気がつけば、この日もブラックのコーチジャケットを身にまとっていた。そして「美しい作品の再現」を目指して、限界までチャレンジしたというプリントTシャツの出来栄えにも目を細める。
「僕はアートに注目が集まると、ずっと前から思ってました。いずれ“空間”ができると考えてたんですよ。人間というのは、音楽を聴いたり服を買ったり、文化的にレベルが上がっていくと、次はご飯だ、家具だとなる。するとそこで、家の壁にある“空間”の存在を感じるようになるんです。そこに何を配置するかとなったら、必然的にイラストなのかポスターなのか、いわゆるアートが欲しくなる。ファインアートとは違った文脈ですけどね。そのうち照明のブームもやってくるんじゃないでしょうか。でも今回の取り組みは、巷の’80〜’90sブームとか、アートブームとはまったく無関係。ずっとかわらず好きなものを、ただ純粋に表現しただけなんです。僕は世間の流行とか、まったく気にしない人なので」
そんな南さんに同調するように、永井さんが放った言葉が印象的だった。
「トレンドを作る人って、実はトレンドなんて気にしないんですよね。だって自分自身が作ってるものに勝手に人が寄って来て、それが流行っちゃうんだから」
美しいものは、タイムレス。ノスタルジーとは別の感情を刺激するなにかが、このコレクションには溢れているようだ。
Text:Junya Hasegawa(america)
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