「着られる服がない」をバイヤーが解決! Vol.8──服選びを邪魔するのは裄丈と足の長さ。
毎回、アスリートたちにメンズ館7階=メンズオーセンティック担当バイヤーが、最新のファッションアイテムをコーディネートする本企画。今回は初めてプロスポーツ選手とコンタクトすることになった。プロバスケットボールBリーグの強豪クラブ、川崎ブレイブサンダースを訪れた。
八村効果&田渡効果でいまバスケが空前の盛り上がりを見せている
八村塁のNBA1巡目指名や、人気テレビ番組「TERRACE HOUSE」に田渡凌が出演するなど、なにかと話題のバスケットボール界。3×3の盛り上がりや、オリンピック本戦へ向けての熾烈な代表争いにも注目が集まっている。2016年にプロバスケットボールBリーグが開幕し、それまでの混沌の時代から抜け出せたことで、選手の意識も技術も飛躍的に向上した。入場者数も飛躍的に増加しているのだ。
川崎ブレイブサンダースは1950年創部。今年70周年を迎えたBリーグでも歴史ある伝統のクラブだ。日本代表選手を数多く輩出しており、Bリーグ開幕以後、3年連続チャンピオンシップ進出。1月の天皇杯はサンロッカーズ渋谷に僅差で苦汁を舐めたが、今シーズン中地区では2位のシーホース三河を大きく突き放し、すでに勝率は7割を越え、他地区を含めどこよりも早くマジックを点灯させて優勝への名乗りを上げている。(2020年2月19日時点)
そんな常勝チームから、注目の選手3名をピックアップ。服の悩みを聞いてみた。身長は2m近く、手足が長く、足も大きいという共通点をもつ彼らのプライベートな服選びについても話しを聞くことができた。バスケットボールのユニフォームからくるイメージからか、体系的な“ハンデ”を覆い隠せるであろうルーズシルエットのストリート系ファッションが好みかと思いきや、皆普段から上品なきれいめカジュアルを着こなしているという。そこでバイヤー植松は、大人カジュアルに相応しいブランドを厳選してコーディネートすることにした。
Bリーグ初制覇を目指す、川崎ブレイブサンダースの3選手が登場
#3 林翔太郎 北海道→九州→川崎と渡ってきた若きポイントゲッター
北海道出身の林選手は身長194cmの長身シューター。高校ではインターハイに出場。東海大学九州時代には九州地区で優勝を果たしている。ユニバーシアード日本代表に選出され、U24アジアパシフィックなどの出場経験も。在学時に川崎ブレイブサンダースの特別指定選手としてチームに加入、神奈川へとやってきた。
雪国・北海道の出身らしく、特技はスノーボード。しかしBリーグのレギュラーシーズンは、スノーボードシーズンと重なる。「プロ選手でいる限り、スノボは諦めています」と笑うが、学生時代に雑誌などで見ていた川崎は憧れのチームだったと素直に語る。歴史あるクラブに請われて入団したことで、チームに貢献したいというプロの意識がいまは強いのだ。
普段のファッションについて聞くと、Tシャツよりも襟付きのシャツを愛用しているという。シンプルな服が好みだが、サイズが合わないことが多いため、袖丈さえあれば羽織るように着こなせるシャツが好きなのだそう。シャツの上はもっぱらニット。ジャケットはもちろんスーツを着る機会も少なく、大人のお洒落は勉強中。北海道、九州から川崎へ。東京はまだテリトリーのイメージがなく、買い物はもっぱら川崎のショッピングセンターを覗いて歩くという。
今日、用意した服は<Theory/セオリー>のセットアップ。ジャケットではなく、ジップアップのブルゾンと共生地のパンツというミニマルかつモダンなスーチングである。合わせるインナーはTシャツではなく、白のハイゲージニット。Tシャツやカットソーより大人っぽい雰囲気が出せるセレクトだ。足元は白のアディダススタンスミスで軽快にまとめてみた。
黒と白のモノトーンを、シンプルかつエレガントに着こなしている。「こんなにお洒落な服って着たことないので」としきりに照れているのは、先輩選手が一緒だからということもあるだろう。しかし学生時代から一流チームの目にとまった逸材、カメラの前にたつと堂々たる立ち姿を見せてくれた。練習時は先輩に気を遣う性格なのだろう。試合のときは今日のように積極的に自分を出していけば、きっと結果もついてくるに違いない。
#27 熊谷尚也 Bリーグ優勝経験を武器に川崎に新風を
熊谷と書いて「くまがえ」と読む。北海道出身の林選手とは真逆の九州・福岡出身。小さい頃から背の順はいつも一番うしろ。小学校3年生からバスケを始め、高校までは無名の選手ながら日体大に進学すると頭角を現した。卒業後は東地区の強豪、リンク栃木ブレックス(現・宇都宮ブレックス)に入団。2017年にはBリーグ優勝も経験している。その後、大阪エヴェッサを経て、昨年川崎へ。生え抜きの選手が多い川崎に新風を吹き込むことを期待されている。
スニーカーが好きでエアジョーダンをコレクションしているが、試合用ではなく、移動時用なのだそうだ。この日、自前のスニーカーは「FOG ESSENTIALS × コンバース チャックテーラー70」。カニエ・ウェストも愛用するラグジュアリーストリートブランドとコラボした、日本未発売のモデルだった。
レアなプレミアムモデルであるだけでなく、32cmという大きな足に合うサイズを見つけるのはさぞや苦労しただろう。「普段から海外の通販サイトをチェックしています。遠征時の新幹線やバスの中では、ほぼスマホで見てますね。価格が毎日変動するので、マメに見ておかないといけないんです」。
海外サイトではスニーカーだけでなく服も買う。国内のショップより大きいサイズが揃っているからだ。「でも試着できないので、届くまでは心配です。できることなら、やっぱり服は実物を試着してから買いたいです」。学生時代は東京にいたため、表参道や渋谷・原宿、伊勢丹メンズ館でも買い物していた。いま改めて川崎へ来たことで、昔なじみの店にも足を運びやすくなった。「でもやっぱりサイズは苦労します。いつも同じインポートブランドになりがちなんです」。
冬場はロンTにダウンジャケットを羽織るぐらいで、最近はあまりコーディネートを意識しないという。プロになってからというもの、サイズが合う服をあまり選べる環境がないからだそうだ。そこで今回、着ていただいたのは<Brooks Brothers/ブルックス ブラザーズ>。ブルゾンにケーブル柄のニットを合わせ、ストレッチ混のチノパンで、アメトラ風味のスタイリングもワンブランドで大きいサイズを展開しているからこそ可能になる。
「普段からきれいめのアメトラブランドは愛用していますが、ワンブランドでまとめれば、ジャケットのインナーに柄物のニットを効かせるといった合わせ方も、意識してコーディネートすることができますね。それにふくらはぎが太いので細いパンツは敬遠していましたが、これぐらい細身のチノならシルエットもスマートです」。
#24 大塚裕土 3ポイントシュート300本の名手
プロ10年目となる大塚選手は、今年1月、B1通算3ポイントシュート300本を達成した。林選手と同じく北海道出身だ。子供の頃は、バスケよりスキーやスノーボードが好きだったそう。「父親の友人でもあったバスケのコーチに無理やり連れ出されて。こんなに長くやることになるとは思いませんでした(笑)」。しかし小6で172cm、中学3年生で183cmあったというから逸材だ。
東海大学卒業後はJBLのリンク栃木ブレックスの下部組織である、当時JBL2のTGI D-RISEと契約。その後は宮崎、秋田でもプレーし、今年の天皇杯決勝戦で死闘を演じたサンロッカーズ渋谷にも在籍したことがある。昨シーズンは富山グラウジーズで58試合に先発出場、累計532得点という驚異の記録を引っさげ、熊谷選手と同じタイミングで川崎へやってきた。
幼稚園の頃から、ズバ抜けて身長があったと振り返る。中学生で180cmを超える長身ゆえ、思い返せば大人の服を着させられていたという。そのせいか、ストリートファッションよりメゾン系やデザイナーズ、ラグジュアリーブランドを愛用しているそうだ。「年齢的にもきちんとした大人の服を着ることはつねに心がけていますが、休日は家族で出かけることが多いので、適度にリラックスできる服選びを意識しています。ブランドで選んでいるわけではありませんが、服は海外で買うこともあります。向こうならサイズもあるので」。
今日の服は<MACINTOSH PHYLOSOPHY/マッキントッシュ フィロソフィー>でまとめてみた。周りからは、いつもの大塚さんらしさがあって、違和感はないと好評だった。コートをジャケット代わりに羽織るように着る姿も様になっている。普段から上品カジュアルを実践しているだけあって着こなしはスマート。お悩み解決とはならないかもしれないが、地方クラブに在籍していたときと違い、海外まで足を運ばずとも伊勢丹メンズ館で服を選べることを知って嬉しそうだ。
「トップスは裄丈さえ合えば着られますが、パンツ選びは本当に難しいです。ウェストに合わせるとドレスパンツはクリースが消えちゃうんです(笑)。最近はデニムも伸縮系で履きやすくなったのは本当にありがたい。カジュアルパンツもストレッチ系素材なら、クリース無しで履いても違和感ないかもしれないですね。」
これまで6つのクラブを渡り歩いてきたが、クラブによっては移動時にスーツを着るところもあった。もちろんスーツはオーダーがマストだが、革靴もいずれはオーダーしてみたいという。サイズの問題もあるのだが、ファッション意識はかなり高い。そして、チーム日本人選手最年長でBリーグ前の時代を知る世代としては、セカンドキャリアと今後のバスケ人生についても深く考えている。
「いまはまずレギュラーシーズンを勝ち抜くこと。次はアジアで1番のクラブを目指したい。もちろん引退後の人生をコーチや経営面で支えることも考えています。それはかつて仕事とバスケを両立させることが当たり前の時代を知るからこそ。クラブ運営が選手や試合に与える影響がとても大きいことを知っているからです」。
伝統ある強豪チームは、Bリーグから世界を目指す
植松 皆さん上品な大人カジュアルがお好きだそうですね。バッシュとか、ヒップホップ系のイメージでストリート系の服がお好きなのかとも思ったのですが。
大塚 今日は僕、イージーブーストを履いてますけど、これにクリース入りのパンツを合わせたりもします。
熊谷 僕はストリート系のブランドもチェックしていますが、ラグジュアリー系のブランドも着ます。サイズの関係で、どうしてもインポートブランドが多くなりますね。
林 僕は欲しい服があっても、学生の頃は服にそんなにお金を掛けられなかったのでハイブランドは、まだちょっと…。
植松 先日試合を観戦させていただきました!じつはバスケをちゃんと見たのは今回が初めて。学生時代、アメリカにホームステイした際、ホストファミリーの高校生の息子さんの試合を見て以来でした。
熊谷 最近はメディアでも取り上げられることが多くなったので、バスケという文字は見ると思うんですが(笑)。
植松 スポーツニュースとかでも取り上げられていますが、BSやCS放送はもちろん、Amazon Primeでも見られるし、Yahoo!のプレミアム会員なら「バスケットLIVE」のインターネット中継が見られることも知りました。
大塚 バスケットLIVEならB1もB2も全試合見られるんです。
植松 でもやっぱり生で観戦したら迫力が全然違いますね。これはハマる!と瞬時に悟りました(笑)。定期的に見に行こうと思って、今後のスケジュールもチェックしちゃいましたから。
林 シーズン中は毎週末が試合です。男子のBリーグ、女子のWリーグ、日本代表戦も見られます。シーズン開幕前の「EARLY CUP」は、レギュラーシーズンの前に開催される、地区別のトーナメントカップ戦なんですが、Bリーグの2019-20シーズンに参加する全36クラブが全国6地区に分かれて戦います。負けたら即終了なので、かなり熱いですよ。
植松 サッカーのJ1、J2みたいに、B1、B2の下にB3があって、さらに実業団もあって、こんなに裾野が広いとは思ってませんでした。そのなかでも川崎ってめちゃめちゃ強いチームなんですよね。
林 学生の頃から川崎の試合は新聞や雑誌でも必ず取り上げられてましたし、中継があれば必ず見てました。ずっと強くて歴史と伝統があるチーム。僕みたいな田舎者が、ここにいていいのかなって思います(笑)。
熊谷 チームに相応しい選手になればいいんだよ。
大塚 Bリーグのなかでは、もっとも伝統あるクラブだと感じますが、伝統を守りつつ、新しいチーム作りにも関わっていきたいと思っています。
植松 大塚さんは日本人最年長。川崎に呼ばれたのも、きっと他クラブでプレーした経験を買われてのことですよね。
熊谷 僕も大塚さんと同じタイミングで加入しました。川崎は昔から、学生選手から育てていくという文化があったので、僕たちが呼ばれたことは、新しい+αの要素を求められてのことだと思います。
大塚 新しいことにチャレンジすることは、いまのチームとしても目標にしていることです。
植松 Bリーグ以前から比べると、いろんなことが変わってきてると思うんです。元Jリーグのチェアマンだった川淵三郎氏を招聘して、プロサッカーリーグをお手本としたリーグとクラブの運営方式を導入したことで、地域連携や技術の向上が図られたことも大きな転機となりましたよね。
熊谷 Bリーグが全体的に盛り上がってることはとても感じます。NBL時代にも川崎とは何度も試合してますが、ホームゲームの入場者数は今ほどありませんでした。Bリーグになってからは毎試合チケットも完売するほど。変わったな、盛り上がってるなと感じます。
大塚 ほかのクラブでも同様です。以前は2階席なんてほとんど観客がなかったと思います。いまは平日の試合でも4000人入るそうです。選手にとってのモチベーションにも繋がりますし、日本のバスケットボールにとってもいい環境が築き上げられつつあることをすごく感じますね。
植松 学生のバスケとはまた全然違うのでは?
林 大学とプロは全然別物です。関東の事情はわからないですが、九州では大学の試合は無料でしたが、観客は友人とかコアなバスケファンぐらいしか入らないです。でもプロの試合はチケットを買って、クラブのファン、地域の人たちが応援に来てくれるので、熱のこもりかたが別次元。それに僕が入団した3年前より、今年のほうが断然、観客数は増えています。
植松 やっぱりそうなんだ! バスケって、他のスポーツと比べても観客と選手の距離が近いじゃないですか。1階席の最前列なら、タイムのとき目の前に選手が来る。応援の声も届きやすいから、選手の励みになるだろうなって思ってたんです。それこそ選手個人に声をかけたら返事が返ってきそうですもんね。
熊谷 試合の迫力が間近で感じられるスポーツ。迫力の臨場感は、ほかにない面白さがあると思います。
大塚 野球やサッカーよりも点数が入るところもバスケっぽい。技術も向上してきて、逆転劇や僅差の接戦もあって結構目が離せないですよ。
林 身長高い選手が、狭いコートを走り回ってるのはやっぱり見ていて迫力ありますよね。僕らベンチにいてもすごいなって思います。
植松 ホントにこれからも注目しています。最後に今年の抱負を教えて下さい。
林 レギュラーシーズンは中地区で優勝。チャンピオンシップでも気を抜かず、今年の天皇杯の悔しさを跳ね返せるよう、日本一を目指したいです!
熊谷 チームの目標としては、天皇杯で準優勝だった悔しさを忘れず、チャンピオンシップで優勝して雪辱を晴らします。選手、スタッフ、ファンのみんなが優勝したいという気持ちが強ければ成し遂げられるはず。最後に、みんなで笑えるチームをつくりたいです。
大塚 結果を残して、僕らが加入して夏からやってきたことが正しかったと、ファンや関係者に証明したいです。その後はアジアチャンピオンズカップ。そこまで、しっかりやっていきます。川崎は世界を見ています。
Text:Yasuyuki Ikeda
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