【特集】ドレスシューズ新時代、いま革靴の選び方が変わる!
1. 紳士服&紳士靴バイヤーが考える靴選びの新時代
紳士服と革靴との関係は変革の時代へ
「まずはじめに投資すべきは靴である」と言ったのは、稀代の服飾評論家・落合正勝氏である。靴は流行に左右されることが少なく、足は体型のように変化することがあまりないからだというのがその理由だ。100足の高級靴を所有し、そのほとんどが茶靴であったという氏のシューズクロゼットではすべての靴が、いつでも主が履いていける状態に保たれていたという。それ故、四半世紀前なら、この話にも説得力があったことだろう。
しかし以前より流行の移り変わりが早く、ドレススタイルよりカジュアルスタイルが世界的な傾向となっている時代。会社に行くのにスーツでなくてもいい、ネクタイすら不要という時代に革靴を履く意味は曖昧になり、その機会すら限られてくる。先の落合氏は「スーツには紐靴でなくてはならない」とも言っていたが、スーツに素足でスリッポンが許される時代には、革靴との付き合い方は大きな変革期を迎えている。
メンズ館地下1階=紳士靴バイヤー・田畑智康は、今春バイヤーに就任。入社以来14年、うち13年を紳士靴に捧げてきたが、その期間でさえ、時代の変化を肌で感じている。
「以前なら革靴はよりフォーマルなもの、より高級なものへと高みを目指す風潮がありました。しかし今、より履きやすく汎用性の高い靴を履きたいという声が多く聞かれます。いままで高価な本格靴を履かれていた方も、履きやすい靴のほうがいいよねという意識に変わってきているのです」。
革靴の選び方そのものが変わってきた
この日の田畑はスーツだが、タイドアップではなくタートルネックニット姿。足元はレースアップとはいえUチップのパラブーツ「シャンボード」だ。スーツにレザーソールの端正な革靴ではなく、コンフォートなラバーソールの靴を合わせるあたり、いまどきのビジネススタイルを象徴している。
「革靴って、重いとか硬いとか思われる人もいると思うのですが、じつは以前より軽量化や快適性は向上させたブランドやモデルが頻出しています。それにグッドイヤーウェルト製法の靴なら、中底のコルクが履くほどに足裏の形状に形成されて、自分だけの一足に育っていく過程も革靴を履く楽しみだと思います」
さらに伊勢丹メンズ館では、靴そのものの出来栄えだけでお客様におすすめするのではなく、あくまで履く人の足に合う靴選びこそがもっとも大切と考える。そのため理想的な靴選びを推進するための、靴選びをサポートする体制を強化している。
「木型も日本人の足型に合うものを厳選していますし、お客さまの足に合う靴を確実に選べるようにシューカウンセラーの社内資格を取得するスタイリストを売り場に多数置いています。足長、足幅、足高だけでなく、エジプト型、ギリシャ型といった足の特徴を読み取って、最適な一足を提供できるシステムは、来春、デジタルスキャンによるマッチングシステムの導入によってさらに強化する予定です」
経済力に余裕があっても、10万円を超える秀麗な高額革靴より3万円代でそこそこカッコいい履きやすい靴が選ばれることも少なくないという売り場の声を聞く。10万円の靴に見合うラグジュアリーなスタイルでなくとも、3万円代でもスポーティでコンフォートかつモダンなスタイルで、どこでもドレスコードとして十分に通用するのだ。以前なら、ネクタイをして行くべきだった場所は確実に減っている。
新しい服と革靴のスタイリングとは
それまでの服装意識に縛られない若い人たちが増え、働き方、生き方への指標が変わってきたことで、世の中の服飾意識に変化がみられることは誰もが体感しているはずだ。メンズ5階=メンズテーラードクロージングバイヤー・稲葉智大も、そう感じている。
「私自身、靴の選び方は変わってきました。以前より、お堅い紐靴を選ぶ機会は確実に減っていますし、靴の合わせ方の原理原則は今の時代のスタイルに合わないようにも感じています。さまざまなシーンで、“こうあるべき”とされてきたスタイルが、“これぐらいでOK”となっている時代に、前時代的な価値観を押し付ける必要はなく、誰もが新しいスタイルを模索しているのではないでしょうか」
そう話す、稲葉はダブルのブレザーにポロシャツで、パンツはトレンドのワイドシルエット。足元は素足にタッセルローファーで、従来のクラシックなスタイルとは一線を画している。
稲葉のスタイリングを見て、田畑がいう。
「誰もがスニーカーを履く時代に、だからこそ革靴を履くという選択肢があってもいい。たぶん稲葉のコーディネートには、スニーカーを合わせることもできるのだけれど、あえてレザーのタッセルローファーである理由があるはずなんです。上質な大人の足元に選ぶべきは、革靴であって、超高級ブランドではなくてもプライスとクオリティがバランス良く、そして履き心地もコンフォート。そんな革靴の醍醐味が味わえる靴を、提案していきたいですね」。
2. 紳士靴新時代を牽引する革靴5選
スーツにも合わせられる、いまどき革靴の最右翼確かな作りとコストパフォーマンスの高さで人気のシューズブランド。タッセルローファーはリブテープを用いないハンドソーンウェルテッド製法で、通常の革靴よりソールがやわらかで履き心地は良好。ダイナイトソールを採用していることで、雨の日のグリップ力も高い。
「細身のパンツとは合わせにくいのですが、流行りのワイドテーパードパンツと相性が良く、適度なヌケ感を足元に加味できるので、私自信、普段からタッセルローファーを愛用しています」(稲葉)。
「ジャラン スリウァヤはインドネシアのファクトリーなので、コストパフォーマンスに優れる靴というイメージですが、本場ノーザンプトン仕込みの製法が最大の特徴です。上質な素材を使いながら確かな製法、ラストも近年洗練されていることから、とても人気の高いブランドとなっています」(田畑)。
品の良い足元に、カジュアル革靴の大定番
英国とイタリア、本格靴の聖地の要素をいい塩梅でブレンドしているといわれるスペイン靴。なかでもマヨルカ島は、昔から靴職人が多く研鑽を積んでいる地。なかでもカルミーナは歴史が深く、家族経営ながらパリ・オペラ座、シンガポール・キャピトルプラザモールなど、高級店が軒を連ねる街に店舗を構えている。
「コインローファーって、アメリカントラッドのイメージでしょうか。カジュアル革靴の定番なので、デニムでもジャケットでも、どんなスタイルにも合わせられる万能靴は、流行に関係なくいつでも履ける靴だと思います」(稲葉)。
「ここのローファーは、ヒールが小さめで日本人の足に合うのが特徴です。ソールもラバーを貼っているので歩きやすいです。こういう、いい意味で履きやすい靴を作っているところがスペイン靴らしさ。伝統を重んじる英国靴ブランドでは、なかなかこうはいきませんので」(田畑)。
ON&OFF、オールウェザー型コンフォート靴
「いまの時代、レースアップシューズはちょっとボリューム感があるほうがいいですね。それというのもドレスなスタイルに薄手のレザーソールより、ラギッドなソールやラバーソールで、ちょっとハズす足元がトレンドだから。パラブーツは、ファッション業界人にも愛用者が多い人気ブランドです」(稲葉)。
「今日の私も履いていますが。シャンボードはパラブーツを代表するロングセラーモデルです。自社開発したパラテックスソールはクッション性が高く、アッパーのリスレザーも雨を気にせず履けるのが特徴。一足目のパラブーツとしてもおすすめできるモデルです」(田畑)。
コスパ抜群! ナポリ生まれのドレス靴
「ドレス靴は茶靴より黒靴がいまの気分。トゥキャップを切り替えたストレートチップやパンチドキャップトゥは、紳士の定番靴として持っておくべき靴だと思います。かつてはフォーマル用の靴、ビジネス用の靴でしたが、今時分はカジュアルなセットアップスタイルをあえて引き締める履き方がよいのではないでしょうか」(稲葉)。
「ナポリには数多くの靴工房があるのですが、なかでもレブロスはかつてイセタンメンズのオリジナルブランドを手掛けていたこともある信頼性の高いファクトリーです。靴底のステッチを覆うチャネル仕上げのレザーソールも美しい仕上がりで、細部まできちんと手が入っています」(田畑)
革靴のルックスに、スニーカーの履き心地を
「革靴のルックスにスニーカーの履き心地」で人気のシューズブランド。ファッショニスタとして著名な干場雅義氏が監修に関わり、技術面を「ヒロシ・ツボウチ」などで知られるシューズデザイナーの坪内浩氏が支えている。
「いま履くプレーントゥは、細身より丸み。ちょっとボリューム感あるフォルムが似合います。なかでもラギッドソールやラバーソールは新しいドレススタイルにマストな要素。ビジネスカジュアルには間違いない靴だと思いますし、よく見ると黒靴なのにコバの部分が茶色になっているというさりげないデザイン性も洒落ていますよね」(稲葉)。
「このプレーントゥはWHの3代目のプレーントゥです。丸みとボリュームある2代目プレーントゥ0006に、初代プレーントゥ0001のデザインを載せました。カップインソールの採用で足入れが快適なうえ、この分厚いソールはスポンジ仕様で、抜群に軽いです」(田畑)。
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Text:Yasuyuki Ikeda
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