Vol.12 CHRIS NAMAIZAWA | アート、ファッション…。大事なことはストリートから学んだ男が描く東京の過去と未来
- 11.02 Sat -12.10 Tue
- 伊勢丹新宿店 メンズ館2階 メンズクリエーターズ/アートアップ
伊勢丹新宿店メンズ館2階=メンズクリエーターズ内「ART UP(アートアップ)」において、今業界内外から注目を集めている気鋭のアーティスト、Chris Namaizawa氏の個展「MOUT EXHIBITION 2」を11月2日(土)より開催。
取材場所であるアトリエには、90年代からのファッション雑誌やカルチャー雑誌のバックナンバーがうず高く積まれている。というのもクリス氏は20年前、東京のストリートカルチャーから多大な影響を受けたことから、アーティストとしての原点を見出したというのだ。
そんなクリス氏に、紆余曲折を経てアーティストになった経緯について、また今回の展示について聞きました。
自信がなかった自分がファッションに興味を持って一変
──アーティストになった1つの要因として、東京のストリートカルチャーから大きな影響を受けたことが大きいそうだが、具体的にはどんなことがあったのだろうか。
「僕はハーフなので見た目がいわゆる”ガイジン”じゃないですか。だから中学や高校の入学式とかで名前を呼ばれただけで「ガイジンがいる!」みたいに周囲がざわついたり、制服を着て歩いているだけで指を指されたりしてそれが嫌だったんです。
でも東京のストリートファッションに出会ったことで、それを着ているときは僕の顔ではなく、着いているアイテムに注目をしてくれたりファッションについて話しかけられることが増えて、それまでとは会話の仕方が全然違ったんです。
それを機に自分に自信が持てるようになりましたね。もともと服が好きで目立ちたがり屋な面もあって、どんどん雑誌を買って情報を収集してファッションにのめり込んでいきました」
──だが大学卒業後、クリス氏が選んだ進路はファッションではなくIT業界だった。
「就職活動の最中に何となく自分はファッションでは食べていけないんじゃないかって思って。でもクリエイティブな仕事には携わりたいという思いはあったので、じゃあ広告代理店のクリエイティブ部門かなとか漠然と考えたのですが、でも大手広告代理店って最初は営業をやらなきゃいけないとかで。
当時はヤフオクが全盛期の時で、インターネット上には、着倒してよれよれになった服が定価以上で売れるっていう変な現象が起きていたんです。それを知った時に、ファッション業界そのものよりも、この不思議な仕組みの方にインターネットの未来を感じたんですよね。それでITの会社に入りました」
──入社した会社ではアパレル二次流通の子会社を任せられ、最終的にはブランドまで立ち上げる。
「大学4年生の時に、まだ内定者だった僕に会社の社長からアパレルの会社を立ち上げるんだけどやらない?って声をかけてもらって。そこから立ち上げメンバーとしての段階から参画できたんです。アパレルの二次流通の会社を立ち上げたんですが、二次流通って冬場はアウターが売れて単価が高いけど夏はTシャツしか売れないので、売上が伸びなくて。会社からものすごいプレッシャーをかけられて悩んでいた時、なんとかしたいという思いで安易に『ブランドを立ち上げます!』って言っちゃったんですよね。それでブランドを立ち上げました。
周囲のブランドの先輩方のおかげで、立ち上げてから早いうちに伊勢丹さんなど全国の百貨店・セレクトショップで取り扱ってもらえました。先輩のブランドがパリでショーを発表する時に一緒に自分のブランドの発表をさせてもらったおかげで、パリのコレットなど、世界の名だたるショップでも取り扱ってもらえるようになったんです。でもその時に、先輩デザイナーさんや海外のアパレル関係の人から、自分の服作りに対する姿勢とかをすごいダメ出しをされて。その時に、自分が会社員であるっていうことを言い訳にしてることに気づいて勉強を始めたんです。
ただその時はなぜか、ファッションデザインを勉強するっていうよりはアートの方にのめり込んでいきまして。それで自分でも描き始めたりしていくと、国内の賞で入選をしたりして、作品も売れ出してきて、勘違いしちゃったんですね(笑)、「これで食べていける!」って。で、そのあとアート活動のために会社を辞めて、家族を巻き込んで現代アートで大きなマーケットを占める、アメリカに移住しちゃったんです」
将来の夢は街中をギャラリーにすること
──勢いでアメリカへ移住したものの、アーティストとして生活するには厳しかった。
「アメリカの『Art in America』っていう雑誌に1年に1回全米のギャラリーリストが掲載される特集があって。僕はサンフランシスコに移住したので、カリフォルニアにあるギャラリーで自分に合いそうなところをピックアップしたら400箇所くらいあったんです。コンタクトを取ろうと全てにメールを送ったのですが、返ってきたのは1~2通。直接行っても門前払いだったりして、どんどん自信を無くしていきました。
そんな時、サンフランシスコには蚤の市やスリフトショップのようなものが結構あったので、なんとなく作品に反映できないかなって思いながらビンテージのアメコミとか雑誌を何冊か購入して、コラージュのようなことを実験してみてたんです。そしてうまくいかない時に憤りに任せて貼った紙をビリッて破いたら、ちょっとおもしろいなって思って。そこから自分の作品は紙を破いて表現するデコラージュの技法が始まっていきました。
アメリカには2年くらいいましたが、移民の国での生活を通じて、そこで初めてゼロに戻ったっていいますか、改めて自分のルーツは日本であり、東京であり、ストリートであると実感することができ、アーティストとして第一歩を踏み出すことができました。
──そして、時間の経過とともに、作風に変化が見られるそう。
「自分でブランドをやっていた時は大枠のコンセプトはあるものの、「点」でやっていた感覚があって、例えばこれが流行っているから取り入れようとか、ひたすら点を見つけては、それを発表するっていう感じだったんです。それがすごくしんどくて。アート活動では自分なりにあらゆる角度からストリートのフィルターで作品を発表してきました。表面的ではなくサンプリングなどの要素を取り入れたり、様々なものをミックスさせて、裏側にあるストーリーや歴史のレイヤーを重ねていきました。
最近では特に90年代のストリートカルチャーの雑誌を素材にすることが多くなってきました。今でこそ、情報はインターネットで手に入りますが、当時は雑誌の情報がすべてといっていいくらい、ストリートカルチャーの生命線でした。とにかく情報を得るために深夜のコンビニで働きはじめ、10日、24日といった雑誌の発売日には必ずシフトをいれて深夜に入荷する雑誌を1番に読んでましたね(笑)こういった自分の原点を素材に、再構築してアートとして表現できるところにアートのおもしろさを感じています。」
──今回の個展では、会場で作品を直接購入することができるが、そこにはクリス氏のストリートカルチャーに対する思いが垣間見える。
「アートって原画が1つしかなくて、しかも値段がどんどん上がっていくものじゃないですか。アート業界では、複製画としてシルクスクリーンやリトグラフにエディションをつけてというのがありますが、単に紙に出力してサインを入れてっていうものに僕は違和感を感じていたんです。
であれば、Tシャツやパーカーを支持体に複製画にして、そこにサインやエディションを入れることで、僕らしいアートとして昇華できるのではないか?街中でそれを着て歩いてくれれば、ストリート自体がギャラリーになるんじゃないだろうか?それって新しいストリートのカルチャーになるんじゃないだろうか?なんて妄想が膨らんでいき(笑)。
今回、アート作品としてのTシャツとパーカーを各種エディション8枚で販売もします。色やサイズも含めるとすべて世界に1枚しかないものになります。」
──最後に、アーティストとしての今後の展望を聞いた。
「ストリートとは関わっていたいなとは思っています。またファッションだけでもアートだけでもなく、ちょうど2つが交わる部分でもの作りができたらいいなって思ってます。ある種、新たなスタイルというか作品みたいなものを提案して、昔僕が藤原ヒロシさんやNIGOさんに憧れたように、次の世代に影響を与えられるような作品を生み出せたらいいなと思います。」
イベント情報
CHRIS NAMAIZAWA
個展「MOUT EXHIBITION 2」□11月2日(土)〜12月10日(火)
□メンズ館2階=メンズクリエーターズ/アートアップ詳細はこちら▶
Text:Kei Osawa
Photo:TAGAWA YUTARO(CEKAI)
お問い合わせ
メンズ館2階=メンズクリエーターズ
03-3352-1111(大代表)