靴仙人が伝授、知っておきたい革靴のキホン。

Q. いい革靴ってなんで高いのですか?
A.複雑な構造で、長い時間と手間をかけてつくられるからじゃ。

靴のパーツは「アッパー」と呼ばれる足の上を包む部分と、底面=「ソール」とに大きく分かれます。今日の多くの靴はそれらを接着して靴の形にしますが、良い革靴はそれらを糸で縫い付けます。立体的に仕上がり見栄えが良くなるだけでなく、履き込むうちに縫い糸に僅かな伸縮が生じる結果、足に自然に馴染んでゆくからです。
縫う方法は「グッドイヤー・ウェルテッド」と呼ばれるものと「ブレイク」または「マッケイ」と呼ばれるものが代表的です。前者は縫いを2種類かけるので丈夫で安定感に優れた履き心地になる一方、後者は縫いが1種類だけの分履き心地が軽くなります。どちらも縫いを正確にかけ、丁寧に靴をつくるには、靴のもとになる「木型」をアッパーに長時間入れて型をつける必要があり、また革や様々な細かいパーツにも高い品質が求められます。
良い革靴は、構造や工程が複雑なので一足つくるのに長い時間と多くの手間がかかる結果、価格が総じて高くなるのです。
Q. 革靴はどれを選べばいいですか?
A. ワシが今すすめるのはこの6つの形じゃ。
伝統に基づいたデザインが多いせいか、どれも同じに見えてしまいがちな革靴。ですが、ファッションの流行と同様に、時代によって大きなトレンドやニーズの変化があるのも事実です。好みや個性の違いなど、各自のライフスタイルに応じて選んで全く構いませんが、あえて今日的な感覚で選ぶとしたらお勧めはこれら6足でしょうか。



つま先や縫い目周辺に「ブローグ(親子穴とかパーフォレーションとも言う)」と呼ばれる穴飾りを施した靴の代表例で、つま先のそれが翼のようにW字状に付けられたものを指します。つま先上部に「メダリオン」と呼ばれる穴飾りが加わることも多いため、外羽根式であれ、写真のような内羽根式であれデコラティブな雰囲気になります。クラシックなスタイルでもあるので、スーツにも合わせられるものからカジュアルな印象のものまで、バリエーションは豊富です。

甲の上にU文字状の「モカシン縫い」ステッチを施した紐靴で、後述のローファーの紐靴バージョンと考えていいと思います。本来はフルブローグと同等かそれ以上にカジュアルな革靴として位置付けられますが、近年ではジャケット&パンツやスーツの足元に合わせる人も増えています。甲部のモカシン縫いにも様々な種類があり、中には手仕事でしかできない縫い方もあって、より高級で希少な靴として知られているモデルもあります。


Q.革靴の素材にはどんなものがありますか?
A. 革にはいろいろあるが、これらは覚えておいたほうがよい。
革靴の足の上を包む「アッパー」には様々な種類の革が使われています。圧倒的に主流である牛革であっても、自然な光沢のもの、強めに光っているもの、オイリーでマットなもの、起毛しているものなど、加工の違いによって表情は文字通り千差万別。まずは右の4種類を覚えておけば、選ぶ際に困らないでしょう。


カーフ(牛革、ブラックとブラウン)
本来であれば生後6カ月位までの仔牛の原皮を使った牛革全般を指しますが、慣用的には生後2年位までの比較的若い牛の原皮を使い、革の部位で最も丈夫で組織が細かく柔軟な「銀面」をそのまま活かして表面としたものをこう称します。あまり表面加工を施さずに仕上げるので、原皮のコンディションが良くないとそう名乗れない、牛革のエリート的存在。しなやかな質感で、適切なお手入れで表面に自然で美しい光沢を出せるのが特徴です。

スコッチグレイン

コードヴァン

スエード

レザーソール
厚手の牛革が用いられるソールの原点であり、様々な新素材が登場する昨今でも未だに最適なソール素材と言えます。特に耐熱性と自然な通気性に優れ、しなやかさとクッション性も実は良好です。耐水性やグリップ力では劣りますが、必ずしも重いわけではないので、取り扱いのコツさえ掴めれば快適性を一番長く楽しめます。

ラバーソール
Q.革靴の価値って何ですか?
A.履いて馴染んでくることで、その人のものになるということじゃ。


リーガル シュー&カンパニーではある程度履いて馴染んだ状態の靴を各サイズ用意している。どのように靴が変化するのを、あらかじめ理解できるやり方といえるだろう。ISETAN靴博では、この「履きサンプル」を体験できるリーガルシュー&カンパニーのコーナーを展開する。
写真は渋谷のリーガル シュー&カンパニーで試着可能な「馴染んだ靴の試し履きサンプル」です。革靴は長期間履いていくと、徐々にではありますが新品とは形状や質感が変化してゆきます。皺が入ったり、少し凹凸が生じたり、色味が微妙に変化したり、時には傷がついたり。
それらを通じ持ち主の足の特徴や癖が靴に転写され、履き心地も少しづつ良くなってゆきます。つまり新品の革靴はまだ半製品の段階に過ぎず、この段階では個体差の殆どない「あるメーカー・ブランドの靴」だったものが、次第に「自分の靴」として唯一無二の存在に変化するのです。
ただしそうするには僅かながら努力と注意も必要になります。まず適度なタイミングでのお手入れ、具体的には汚れを取り靴クリームで栄養を与えるのを継続的に行うことが大切です。また、不具合が見つかったら大事に至る前に修理を依頼することも重要でしょう。
高い品質の革靴は直しながら長い期間履くのを前提につくられているので、ソールを全面交換できるなど修理できる箇所も圧倒的に多いからです。逆に言うと、どんなに高価な靴であってもこれらを怠ると特性を十分に発揮できないばかりか、「自分の靴」にもなってくれません。
Illustrations:Toru Takizawa[SANDER STUDIO]
photo:Hirotaka Hashimoto, Takao Ohta
Text:Takahiro Iino
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