禁断の靴マニアの世界をちょっと拝見。奥深きヴィンテージ・シューズの世界。
紳士靴が成立した、20世紀初頭の靴の面白さ。──OLD HAT/オールドハット
「英国で紳士靴づくりが確立するのが19世紀後半、1880年代から1900年代。そしてオックスフォード、つまり短靴が成立するのが1910年代。そこから世界に広がっていきます。この頃のヴィンテージシューズがいちばん面白い」
このように語るのは、英国のヴィンテージクロージングを扱うショップ『オールド・ハット』の石田真一さん。彼がヴィンテージシューズの魅力に開眼したのは、当時靴店「トレーディングポスト」も営んでいた商社ライフギアを退職して、『オールド・ハット』をスタートした当初のことだった。英国から送られてきた商品の中に、ジョン ロブなど英国の古いビスポークシューズが含まれていて、さらにそれらが雑誌に取り上げられたからだった。以来、英国に買い付けに行くたびに現地の靴職人や、そのもとで修業する日本人職人たちと情報交換する中で、ヴィンテージの靴の価値に詳しくなっていったそう。古い靴のつくりの秀逸さや、高い技術などは、実際に手製の靴づくりを行う職人の意見が参考になった。
ジョン ロブ、ジョージ・クレヴァリーそしてフォスター&サン。ロンドンに現存するビスポーク靴店を起点に、それらの靴店に吸収された靴店を辿って、英国の靴づくりの体系や系譜を遡るのが石田さんのやり方。その過程で見えてくるのは、現在では単に職人技として残っているディテールが持つ真の意味だったりする。ヴィンテージを追究することはまた、今日営まれる靴づくりを深く理解することでもあるのだ。
日本にもあった、芳醇な革靴文化を保存すること。──japan-shoes-1870
インスタグラムに連日アップされる、古色漂う靴。そのハンドルネームにある「1870」とは、西村勝三が東京・築地に靴工場をつくり、靴の製造を始めた年。どのくらい大先輩なのかと思っていたら、取材場所にやってきたのは20代の若者だった。イノウエさんが収集しているのは、往年の日本製の靴。1950年代から60年代、場合によっては70年代ぐらいまでの、まだ大量生産の靴づくりが定着していない頃につくられた靴を150足以上所有するという。
当初は古いアメリカ靴を集めていた。だが、自分が履けるサイズのものはなかなか見つからない。そんな折、雑誌で丸善にてかつて展開されていた「マナスルシューズ」を見た。その希少性に、こちらのほうが面白そうと、古い日本の靴を集め始めたのだった。
当時の靴は手縫い、つまりハンドソーンウェルテッド製法とマッケイ製法の靴が多いという。いずれも小規模な靴店による靴づくりのため、グッドイヤーウェルテッド製法の機械が導入できなかったのではとイノウエ氏は分析する。ただそれゆえに、丁寧な手仕事が至る所に盛り込まれることとなった。
イノウエ氏は基本的には履く目的でこうした古靴を収集している。ただ最近は趣味というよりは、使命のようなものを感じていると語る。集めた靴に関しては、国会図書館などで調べて店の場所などを特定しているが、まったくわからない場合もある。かくして残しておかなくてはいけないという気持ちは強まり、イノウエ氏はまた新たな靴を探すのだった。
ブランドのルーツでもあるブーツを一挙紹介。──BUTTERO/ブッテロ
1974年にMAURO SANIによって、トスカーナでスタートした『ブッテロ』。「牛飼い」を意味するその名の通り、70年代にはブーツメーカーとして、乗馬ブーツやクラシックなブーツを手がけていたという。そんな同ブランドのレガシーを連想させるデッドストックのヴィンテージブーツをISETAN靴博にて展開する。ナチュラルな質感の革を使っていることも魅力だ。
ストックの「自社ヴィンテージ」を放出。──PADRONE/パドローネ
日本のシューズブランド『パドローネ』。クラフツマンシップ溢れる靴づくりで定評がある同ブランドの「自社ヴィンテージ」とも呼べるようなデッドストックを一挙放出。ニュアンス豊かな革と、適度なカジュアル感があるラストシェイプやスタイルの組み合わせが魅力。多彩な表情の靴をリーズナブルなプライスで提供する。
Photo:Satoko Imazu,Takao Ohta
Text:Yukihiro Sugawara