取引先を巻き込む熱


──尾作さんを一躍有名にしたM字カーブ(太ももとふくらはぎの膨らみに沿うシルエット)はどうですか。

小堀 基本構造は変わりませんが、仕上げをハンドプレスでフィニッシュしています。より尾作の設計思想が反映されるようになりました。こちらからリクエストしたわけではありません。古式ゆかしい工場ですからね。もともともっていた技術なんです。
尾作 ボタンもオリジナルなんですが、これもかれらの生産背景を知って採り入れたものです。

──というと。

小堀 ボタンを手付けする態勢があったんです。
尾作 じつは出来合いのボタンには満足していませんでした。現在のボタンはミシンを使うことを考えて穴が大きく、間隔も広い。のみならず、糸溝も深い。


──ナット素材で7色。ずいぶんがんばられましたね。

尾作 プラスチックボタンなどと違ってミニマムもそう大きくないから、ぼくらでもなんとかなるんです。
小堀 尾作は当たり前のことを全部やる、というのがモットーであり、かれの美意識はこのボタンに凝縮されているといってもいい。
尾作 ボタンとくればヒップポケットの玉縁幅も忘れちゃいけません。通常5ミリのところ、これは3ミリ。極細であってもD菅の仕上げも申し分がありません。ボタンと相まってヒップまわりのツラはまさにエレガントそのもの。
小堀 さすがに玉縁の工程は長野アルプスさんといえど、ひとりしかできないそうです。労力をとられる工程を出し惜しみせず「できるよ」とアピールしてくれる。このガチンコ勝負があったからこそのパンツです。

──たしかにちょっと話をうかがっただけでも現場の人々の前のめりっぷりが伝わってきます。尾作さんの取材はいつも元気をもらって帰るんですが、取引先も同じような気持ちになるんですね。

小堀 工場さんとがっぷり四つに取り組んだらどうなるか、というのが今回のプロジェクトのテーマでしたが、足繁く通い、伝えた熱はほとんど等身大でかたちにしていただいたと思います。

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