ぼくは最初から最後まで音楽人
尊敬するアーティストは、ジョン・メイヤー。世界的なシンガーであり、そのギターテクニックは誰もが認めるところ。2014年の来日時には尾崎自身も、日本各地を一緒に回って、傍らで薫陶を受けた。実際に「時間さえあれば、こもって曲作りに没頭したい」というほど、音楽理論や技術について研鑽を積んでいる。名立たるミュージシャンを輩出してきた名門バークリー音楽大学での短期プログラムもこなした。
「5歳くらいかな。幼いころから音楽に携わることができらたと漠然と憧れを持っていました。できればミュージシャンになりたかった。ギターにはずっと触っていたんですが、ちょっと曲が書けなくなる時期があって、その時にバークリー音楽院の門を叩きました。2週間の短期プログラムですが、この2週間で絶対曲を書いてやるぞって。それこそ、ジョン・メイヤーも習ったパット・パティソンという講師がいて、その方の授業も受けました。そこで言われたのが『Write fearlessly(恐れずに、書け)』。そして生まれたのが『Road』という曲で、ライブでもよくやりますね」
父と比べられることについては、とくに意識していない。「ぼくは自分のものさしで生きているから」と胸を張る。
「音楽のスタイルも違いますし、ぼくはぼくがかっこいいと思うことをしっかりやっていくつもりです。それに比べられることが悪いことだとも思ってないんです。憧れの存在でもあるので、”似てる”って言われるとむしろ嬉しいというか。ポジティブに捉えてますね」
ほかのアーティストと一線を画すのが、その経歴だ。大学院まで通い、社会貢献のための経営学について学んだ。音楽についてもしっかり学んでいるが、世界中で活躍する社会起業家についての造詣も深い。だからこそ、かれの音楽や詩世界には、素直な優しさと博愛的な力強さが同居している。
「高校の頃に、ジョン・ウッド(世界的な社会起業家で、途上国への図書寄贈活動「ルーム トウ リード」で知られる)の講演を利く機会があって、『ああいうおっきいことができたらいいな』って思ったんです。決してエゴイスティックではなく、社会に大きな影響を与えることができるんだと。それで大学へ進むわけですが、そこには世の中をよくしようと、本気で世界を変えたいと思っている人たちがたくさんいて、とても刺激を受けましたね」
もちろん真ん中にあるのは、音楽だ。
「ぼくは最初から最後まで音楽人だと思います。5歳から音楽家を目指していたわけですし。だから、社会貢献というのも何かしら音楽にまつわるものになるだろうと思っています。逆説的にいうと、音楽が持っているキャパシティを広げることが、そのまま社会全体の幸福に寄与するような。まだ具体的に「これだ」というものはないですが、例えばファンとアーティストの距離を縮める活動だったり、アーティストのアイデアが直感的に実現できるようなプラットフォーム作りだったり。将来的にはそんなことができたらいいなって思っています」
もしかしたら数年後、彼は世界中を駆け回っているかもしれない。でも傍らには〈マーティン〉のギターがあるだろうし、彼の周りは音楽と笑顔であふれているはずだ。
Text:Morishita Ryuta
Photo:Ozawa Tatsuya
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