日本人好みの物語もグッとくる

 
短期間でティーンエイジャーへと育て上げた手腕はさすがMBAを取得し、国際不動産のジョーンズ・ラング・ラサール社で活躍したウイリアムだけあるが、なかでもコレクションのあたらしさには舌を巻いた(ウィリアムは先進のビジネス・スキルを家業に生かそうと、くだんの会社に5年あまり勤めたたのち、<チャーチ>に入社した)。
 
ファッション業界ではすでにその評価は定まっているが、一言でいえばモダン・クラシックというお題のもっともすぐれた解を導きつつあるのだ。
 
ノーサンプトンといえば、ご存じのようにドレスシューズか、カジュアルならカントリーシューズと相場が決まっていた。古き良きそのスタイルが色褪せることはないけれど、芯地を省いたジャケットや、ノータイでデニムを合わせるスタイリングといったげんだいの装いを考えたときには少々物足りなさを感じていたのも事実だ。
 
<ジョセフ チーニー>が試みた、革やパターン、ソールの厚み、コバの張り出しにみられる変化は些細なようでそのじつ、従来のドレスシューズとは明らかに違う雰囲気を醸し出す力をもっていた。そのコレクションは、どこかモードの香りすら漂っていた。
 
「CEOに就任すると同時にデザインチームを発足しました。」
 

シューファクトリーには珍しいチームの存在もさることながら、見逃せないのはあくまで伝統に則ったうえでのデザインワークということだった。先の125ラストは2003ラストをベースに6184ラストのタイトなヒールカップを組み合わせたものだったし、1886ラストは現在の工場100周年を記念してつくられたもので、モディファイしたものをふたたびラインナップに加えている。モダン・クラシックという、ともすれば軽薄さを感じかねないベクトルにおいてそのような失態を犯さずに済んだのは、歴史がたしかな重石になってくれたからだ。無数のアーカイブのなかから時機を得て選び抜く感性もまた、賞賛されるべきものだろう。
 
インペリアルコレクションが本命だったとすれば、<ジョン ロブ>や<エドワード・グリーン>、あるいは<チャーチ>の二番手からなかなか脱することはできなかったかも知れない。しかしあれはOEMで培った地力を披露する一種のアドバルーンだった。そして真の狙いは、バックヤードのリノベーションがもたらす、かつてないジャンルの創造だったのだ。
 
「<ジョセフ チーニー>にはいろんなことができる伸び代があった。我が家に迎えたときはハイハイをはじめたばかりのベビーでしたからね。」
 
<チャーチ>が<ジョセフ チーニー>を傘下に置いたのは1960年代のことだが、とうじの社長がウィリアムの父だった。息子がふたたび買い戻したというのはどこか日本人好みの物語で、これもいい。

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□10月25日(水)~31日(火) 
□メンズ館地下1階=紳士靴
■価格:116,640円
■お渡し:約3か月~4か月後

Text:Takegawa Kei
Photo:Eto Yasunori

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