【工場取材】<ブートブラック>に磨き上げた新作、「アーティストパレット」が登場!(1/2)
「ブートブラック」はイギリスで靴磨きをするヒトの意となる。むかしの靴は黒の長靴しかなかったから、そのうち、靴の名称がそのまま靴を磨くヒトを指すようになった。名前負けしそうな商品名を冠したシューケア用品はリリースと同時にその名にふさわしいポジションを手に入れた。
勝因は原料の工夫にある。幾つものワックスのブレンド技術と製造時の微妙な温度管理による新たなレシピを誕生させたのだ。類似の商品がなかったことからもあきらかだが、高度な技術がなければ具現化しえなかったものである。
磨き方も変えた。靴を光らせるには下地をつくって、磨き上げていくという作業がいる。「ブートブラック」は作業それぞれに最適のパフォーマンスを発揮するベースとコートという異なるワックスを用意した(それひとつでふたつの役割を担わせるのが従来のワックスである)。そうして、だれもがかんたんに光らせることができるようにした。
ラインナップを一つひとつ増やしていくなか、満を持して登場したのが「アーティストパレット」である。その秀逸なところは、油性ワックスのカテゴリーに入る商品でありながら乳化性クリームの延長でつかえる手軽さにある。女性のスキンケアに置き換えれば乳化性クリームが日々の保湿を、油性ワックスが化粧を担う。モロッコ産アルガン種子から抽出されたアルガンオイルがその秘密をとくカギだ。このオイルがワックス特有の光沢据え置きで類いまれな保湿と浸透を実現してくれるのだ。
「われわれのラボにはさまざまな要望が寄せられます。そこから抽出、商品化にこぎ着けたのがアーティストパレットでした。成熟した靴文化に応えるもので日々、気軽に、その名のとおり画家のように色彩を楽しんでもらいたいという思いを込めて20色をラインナップしました。まったくのあたらしい試みであり、原料の選定から配合の案配まですべて手探りの状態。商品化までにじつに2年を要しました」(企画部 小高慎吾さん)
職人は大きな漏斗のようなものをかまえて、小さな瓶にめがけて流し込んでいく。迷いなく、縁ギリギリまで注ぐその繰り返しに無駄はなく、一滴の仕損じもないーー。
工場をのぞいて唸ったのは、白衣を着た何人もの研究員が詰めるラボもさることながら、その工程のいたるところで手作業が必要とされていた事実だった。くだんの作業には専用のマシンもあるが、ガラスという特性上、その瓶はほんとうにごくわずかだが個体差が生じる。一律にやったのでは見た目に多寡が出るからだ。二度注ぎの手間にも感服した。ワックスは揮発が避けられず、そのままだと中央にくぼみができてしまう。揮発を待ってあらためて注ぐことでフラットな表面が完成する。
ラベル貼りも手作業だった。そもそも特注の瓶が規格に合わないこともあるが、それはラベルの向きを揃えるためのひと手間である。
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