藤原ヒロシ×吉田親子 世界を舞台に遊ぶ年齢差を越えた男同士の交遊録
「HAPPY HOUR」会場には、SASHIKOアイテムを身につけた観客の姿もちらほら。藤原ヒロシ氏のトークの誘導は見事だった。公開トークショーだけあって、身内話の体裁を取りながら、しっかりと必要な情報を伝えていく。それは、こんなやり取りにも表れる。
克幸「この刺し子はインディゴ染めですね。昔の先人たちの知恵はすごいよね。虫を除けるんだよね」
藤原「インディゴって、昔の日本にも合ったんですか?」
克幸「それはもう、世界中にあったんです」
藤原「デニムはアメリカ発祥なのかと思ったら、そうでもないんですね」
克幸「ジーンズの歴史は200年にも満たないでしょ。でも藍染めは、もっと昔からあるんです。シルクは高級素材で貴族のものだったのだけれど、藍染め綿布は庶民のものだったでしょ。だから大切にね、使ってきた証なんですよ刺し子は」
トークショーの間中、吉田克幸氏、玲雄氏と藤原ヒロシ氏の交友歴の長さと親密さがひしひしと伝わってきた。
克幸「この刺し子は、染める人、編む人、縫う人、たくさんの職人がいるんです、何年もかけて命をかけて作っています。本当に有り難いことなんです」
藤原「その人たちに恩返しはできてるんですか?」
克幸「いや、これからです」
藤原「早くしないと時間ないですね」
克幸「そうなんです(笑)、そのとおりなんです」
藤原「プールで歩いてる場合じゃないですよ」
克幸「俺、最近、すっかり浅草から出なくなっちゃって…」
藤原「また一緒にどこか行きましょうよ。UFJとか行きます?」
克幸「(笑)」
藤原「プラハとかどうです?」
克幸「いいねぇ。昔のスパイ映画のような街だよね。オーストリアもいいよ、ウィーンとか。ヤバいホテルがあるんだよ。クラシックで、いい感じの」
藤原「ぼくはパークハイアットとかに泊まるので、克さんはクラシックなホテルに泊まってくださいよ」
克幸「海外では会ったことないよね?」
玲雄「NYで3人で食事してますよ」
克幸「NYか、俺9・11の前日までNYにいたんだよね。本当は当日のニューヨーク発サンフランシスコ行きユナイテッド93便(のちに当時多発テロによるハイジャックによってペンシルバニア州シャンクスビルに墜落)に乗るはずだったんだけど、予定を一日前倒して玲雄のいるSFに向かって免れたんだよね」
藤原「刺し子より、そっちの話のほうに興味がありますよ!」
………
その後、克幸氏が同時多発テロの被害を免れた秘密や、今後の<ポータークラシック>のショップ移転話など、時間を押して会話は盛り上がる。その全容は、<ポータークラシック>のWEBサイト(12月9日公開予定)でお楽しみいただくとして、閉会後の小さなエピソードでレポートを締めくくりたい。
藤原「それじゃ、克さん、プラハで待ってますんで!」
笑いながらそう言って、藤原ヒロシ氏は先に会場を後にした。
観客も続々と席を立ち帰路につくなか、克幸氏は来場者や友人、知人に深々と頭を下げ礼を尽くしている。すると、ひとりの青年が声を掛けた。「見ていただきたいものがあるんです」。背負っていた大きな鞄から取り出したのは、切り替えと刺し子の技術を多用したオリジナリティ溢れる自作の靴だった。それを手に取り慈しむように見ると、克幸氏は青年に語りかけた。
「これは素晴らしいものだ。ぜひとも続けてください。この技術を一番高く評価してくれる人とだけ、お付き合いをなさい。決して安売りしてはいけませんよ。今度ゆっくりとお話を聞かせてください」
トークショーの最中に克幸氏が藤原氏のことを、こう言っていた。「彼は有名人なのに、決して奢らないんです。でかいツラしないし、すごく優しい。芸能人でも有名人でも、一般の素人でも、同じように接するし会話するんです」。克幸氏もまったく同じだった。
PORTER CLASSICのTwitterには、こんなツイートもある。「自分が「高級品」じゃなくても、安売りはするな」、「公平である事が、人として凄い事なんだよ」、「いいか、必ず弱者の味方しろよ、あと臆病者を大事にしな」
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吉田克幸
1947年東京生まれ。国内有数の老舗鞄メーカー吉田カバンの創業者吉田吉蔵の三男として生まれる。チーフディレクターとして長年に渡り、数々の名品と呼ばれる鞄を世に送り出す。その影響は鞄業界に留まらずアパレル業界をつねに牽引してきた。2007年、息子の吉田玲雄とPORTER CLASSICを設立。ブランドを代表する「KENDO」シリーズは、国内のみならず世界中にファンを持つ定番アイテムに。キャリアを通じ、一貫して「MADE IN JAPAN」を掲げる。
吉田玲雄
1975年東京生まれ。高校卒業後、渡米。ロサンゼルス、ニューヨーク、サンフランシスコの大学で映画と写真を専攻。写真家ラリー・サルタンやビート詩人マイケル・マクルーアのもとで学ぶ。2003年サンフランシスコ・アート・インスティテュート大学院を卒業。06年ハワイ島ホノカア村で過ごした自身の経験をまとめた『ホノカアボーイ』(幻冬舎)を上梓。09年映画化された。07年、父とともにPORTER CLASSICを設立。「HAPPY HOUR」の企画、プロデュース担当。
藤原ヒロシ
1964年三重県生まれ。高校時代から新宿のディスコ「ツバキハウス」に通い、大貫憲章氏主催のクラブイベント「ロンドンナイト」の常連として、ファッションコンテストに優勝。そのときの商品としてロンドンへ。現地のクラブシーンを体感する。その後はNYにも滞在。帰国後は国内クラブカルチャーの先駆者的存在としてDJ等で活躍する。音楽プロデューサー、作曲家としても活躍し、小泉今日子、藤井フミヤ、UAらに楽曲を提供。のちにDJを引退し、ギターによるライブを開始。 11年YO-KINGとのユニットAOEQを結成。現在はシンガー・ソングライターとしても活動中。
Text:Ikeda Yasuyuki
Photo:Hishinuma Isao
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