【インタビュー】<ドレイクス>マイケル・ヒル|ロンドンの中心で手縫いされる<ドレイクス>のタイには伝統と革新が結ばれている
2代目当主マイケル・ヒルは生まれながらの"タイメーカー"だ
<アクアスキュータム>でスカーフの企画を担当していたマイケル・ドレイクと、<ターンブル&アッサー>でタイの企画を担当していたチャールズ・ヒルという親友二人が、1986年に興したタイを中心とするアクセサリーブランドが<ヒル&ドレイク>である。自社ブランドを生産する一方で、その高い技術とセンスによって、パリの<オールドイングランド>や<アニエス・ベー>のタイ生産も担当した。
その後、90年代に入り、チャールズは独立。マイケルひとりとなったところで、<ドレイクス>と名を改め、再スタートをきった。その後、ヨーロッパ、アメリカ、そして日本で、タイの定番ブランドとしてその名をとどろかせてきた。2013年にマイケルは引退。そのバトンを託したのが、チャールズ・ヒルの息子、マイケル・ヒルだった。
今回、イセタンメンズのために来日したマイケル・ヒルに<ドレイクス>の魅力を伺った。
「我々のタイは、ロンドンのハバダッシュリーストリートにあるオフィス兼自社工房で作られています」
世界的なタイブランドでありながら、都会のど真ん中に工房を構えるドレイクス。この地では、1977年、前身である<ヒル&ドレイク>のころからタイ作りに励んでいるという。
「伝統的なクラフツマンシップにのっとった、手縫いでのタイ作りが我々の誇りです。大剣の裏を見ると、その剣先が手で縫われているのがおわかりいただけるはずです。」
シャツ&タイ担当の佐藤バイヤーは、この手縫い部分(三つ巻き)を差して、巻きの部分をここまで細く、美しく縫うことを可能にできるブランドはあまりない、と驚く。
「タイ裏も一本の糸で、手縫いされます。ジャケットの袖同様、ここを手で縫うことでタイ全体が柔らかくなり、首にフィットしやすくなります。生地によって縫うテンションを変えるので大量生産には向いていませんが、フィット性を左右する重要なポイントです。生地へのプリントもインクジェットが一般的ですが、我々はハンドプリントにこだわっています。発色が全然違います。」
各所への並々ならぬこだわりを見せるほか、50オンス生地は、マンチェスター郊外で、手染めによって製品化されるという。また、<ドレイクス>を代表する生地にグレナディンというものがある。
佐藤バイヤーが着用しているのがグレナディン生地のタイ
「世界に6台しかこの生地を織る機械はありません。1923年生まれの織機によって、ゆっくりと織られた生地はほかにはない表情を見せます。」
一般的な織り機は140cm幅の生地を作り出すが、このクラシカルな織り機は80cm幅しか作れない。しかし、シルクに加えてコットンやウールなどの強撚糸も用い、“からみ織り”の一種であるこのグレナディンには唯一無二の表情がある。素材、作りに加え、デザインもドレイクスは独特だ。
「小剣を見てください。少しフレアさせています。これは貴重な生地を最大限有効に使うこともありますが、普段大剣で隠れている小剣にもさりげない表情をもたらせる狙いがあります。ノンシャランなお洒落を演出できるでしょう。」
父チャールズからタイ作りに関して何を学んだか、と質問してみた。
「小学生のころから父の工場に出入りしていて、常に隣でタイ作りのノウハウ、ビジネスの進め方を見ていました。クルマの助手席に乗るといつもシルク独特の香りがして、それはいまでも鮮明に覚えています。」
そんな父チャールズが創業者マイケル・ドレイクと始めた伝説のブランド、<ヒル&ドレイク>のタイがイセタンメンズで復刻した。
「現代ではなかなか作ることのできない組織や柄、色使いを当時のアーカイヴ素材をもとに生地から再現しています。数年前から伊勢丹メンズ館だけに毎シーズン10種類ほど展開しています。」
タイ作りに圧倒的な自信を見せる一方、輸出をスタートさせた最初の顧客が、<オールドイングランド>と<アニエス・ベー>だったことが<ドレイクス>の原点のひとつ、とマイケルがいうことからもわかるように、伝統と革新、クラシックとモードをバランスよく共存させる稀有なブランドが<ドレイクス>なのである。
左/ドレスシャツ・ネクタイ 佐藤巧バイヤー、右/<ドレイクス>2代目当主マイケル・ヒル氏
マイケル・ヒル
1977年にマイケル・ドレイクによって英国・ロンドンにて創業した<ドレイクス>2代目当主。伝統的な柄を基調としながらも、意表をつくカラーやモチーフをミックスさせた斬新なデザインが特徴の同ブランド。メンズのハイクオリティーなウール、シルク、カシミア素材のマフラーやスカーフ、小物のコレクションからスタートし、現在ではネクタイとシャツの英国に残る希少なファクトリーブランドとして、その地位を築いています。
Text:Ogiyama Takashi
Photo:Okada Natsuko
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