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TRUE IVY

「 現代に息づく アイビースピリット」

いつの時代も変わらずに、愛されているアイビースタイル。
今年はトレンドとして再び注目が集まっている。この流行を“準備”した立役者のひとり、
ジャーナリストのデーヴィッド・マークス氏に、アイビーの真髄を尋ねる。

1:シアサッカーのジャケットに、ボタンダウンシャツ。春夏におけるアイビーの定番の合わせだが、使い古された風合いに、アイビーの美学を見てとれる。
2:デーヴィッド・マークス氏(写真上)による著書「AMETORA」。英語版が話題となり、2017年に日本版(右)を上梓。

W.David Marx Interview

“アイビーとは、流行を超えたエリートの美学”

W.Daivid Marx デーヴィッド・マークス

アメリカ・フロリダ州出身。高校生の頃に、岐阜県でのホームステイをきっかけに日本に興味をもつ。ハーバード大学東洋学部を卒業し、ジャーナリストの道へ。自身が編集長を務める『Néojaponisme』も好評を博している。

 アイビーが再び盛り上がっている。ここ数年のファッションシーンといえば、ドレスはイタリアのクラシコスタイル、カジュアルでは英国のパンクシーンや90年代日本の裏原ストリートスタイルなどが流行し、“アメリカ”の文字を見ることは少なかった。しかし、どうやら、今季は違う。クラシックなアメリカンスタイルに軸足を置く、ラルフ ローレンやトミー ヒルフィガーは勢いのあるストリートブランドとのコラボレーションによって、再びブランドの威光を世界に示した。また、アイビースタイルのキーアイテムであるブレザーに特化したローイングブレザーズ、ラガーシャツが人気のマギル ロサンゼルスの流行など、ファッションとしてのアイビーがトレンドとして帰ってきた感がある。この動きの一翼を担っているであろう一冊の本がある。デーヴィッド・マークス氏による『AMETORA』だ。日本における“アメリカ”の存在を、ファッションの側面から考察し直したこの本は、2015年にアメリカで出版され大きな話題を集め、2017年には日本語訳が出版された。今回は、現在東京をベースにジャーナリストとして活躍する同氏に、アイビーについて、幅広く話を伺った。
「きっかけは、2010年にアメリカで出版された写真集『TAKE IVY』。この本は1965年に日本で出版されたものです。アメリカのアイビーリーグ(ハーバード大学やブラウン大学など、アメリカ東海岸の大学)のキャンパスを取材した写真集で、当時一世を風靡しつつあった石津謙介氏率いるVANのチームと雑誌「メンズクラブ」の編集部員らが手がけています。 スタイルとしてのアイビーは、アメリカでは一般的…といいますか、学生たちの普段着でした。それが日本ではお洒落のお手本となったんです」
 今ではアメリカでもヨーロッパでも装いに対しての伝統的な価値観が薄れ、ファッションがより自由になった。おもしろいことに、スタイルを唯一保存していた日本のアイビーが、結果的にクラシックなアメリカンスタイルを救うことになった。
「日本は洋服を輸入する段階で、スタイルを取り入れる必要がありました。50年代のアメリカではジーンズは日常に根付いたものでしたが、日本ではそれを憧れとともに輸入し、わざわざはいていた。そして、どう装うかという議論がなされ、「メンズクラブ」や「ポパイ」といった“教科書”的な雑誌が生まれることになったんです。こんなに詳しくスタイルを解説している雑誌はアメリカにはありません。当たり前のものだと思っていましたからね。だから、『TAKE IVY』の英語版が出た時にみんな驚いたんです。当時のメンズクラブなどは、現在アメリカの古本市場ではとても高値で取引されています」
 このように日本がアイビーを“保存”していく過程で、百貨店が果たした役割も大きいという。
「銀座にあるテイジンメンズショップなどは、一部の層が通っていた、尖った存在でした。流行を牽引したVANなどは百貨店にも多く出店し、アイビーの市民化を助けました」
 マークス氏はハーバード大卒。身をもって、アイビーを体感することができた。アイビーが今現在も愛される理由として「エリートならではの美徳」を挙げる。
「たとえば英国のサヴィルロウとくらべると、ずいぶんとくだけたスタイル。アイビーの根幹には、日本の学生でいうと“バンカラ”のように、気取らずに、格好つけないという美学があります。買った時には真っ白だったスニーカーがだんだん汚れていく、パリッとしたチノパンがはき込むうちに、くったりとして味が出てくる、そういったエイジングや自分だけのものになるという感覚を楽しむんです。以前は、アイビーリーグに通う学生の多くが、代々続く名家など、所得の高い層に属していました。成金は自分がお金持ちであると見た目で主張する必要がありますが、彼らはその必要がなかった。むしろあえてラフな格好をすることが、かえって余裕や威厳を醸し出せると思ったんです。これはVANの石津謙介さんも述べていますが、日本にもそういう風潮はありました。例えば、武道では使い込んだ道着の方が強そうに見える。茶道でも、道具を大切にするという教えが残っています。日本に伝わる、古いものを大事にするという考えは、実はアイビーと深くリンクするところでもあるんです」
 それでは今、改めてアイビーを装うとはどういうことなのか。
「今、60年代の装いをそのままトレースしてしまうと、コスプレになってしまう。時代や自分のスタイルに合わせて、アイビーをムードとして解釈し、楽しんでもらえればいいと思います。つまるところアイビーはスタイルではなく、文化ですから」

マークス氏が着用しているボタンダウンシャツ。衿は裏面をひっくり返して、お直ししたもの。擦り切れた衿裏に、長く愛するという姿勢を感じ取れる。

1. 英国のアイウエアブランド「サヴィルロウ」のアイウエア。カジュアルな装いに、知的なムードを授けるアイテムとしてアイビーでは重宝される。
2. ボウタイもレジメンタルストライプのものを愛用。プリントのネクタイは、今の時代を感じさせるハズシ役として機能する。
3. 古本屋やネットオークションで探し集めた“教科書”。今となっては市場価値も高い貴重な品。
4. 履き古したオールデンのローファー。こちらも今では希少となった、ホーウィン社のコードバンが使われた1足だ。