22世紀を見据えて
SUSTAINABLE FUTURE
バリエーション豊富な染め模様で知られる有松鳴海絞り。
若き職人は既存の手法にとらわれることなく、
モダンで実用性にも富んだ絞り染めアイテムをつくり出し、その技法を未来に継承する。
第9回
“風通しのよい”使い勝手の伝統工芸品を目指して
SUZUSANの4代目である父から、小さいときに「あと十年もすれば、有松鳴海絞りの職人はいなくなるかもしれない」と言われたときのことを、村瀬弘行氏はいまでも忘れない。高校卒業後は家業を継がずに、海外でアートの道を志した。たまたま持っていた端切れが、外国の友人の目には工芸を超越したアートに見えたことから、有松鳴海絞りを見直した。端切れが生まれた地であり、村瀬氏の故郷でもあるのが、古都のような街並みが美しい名古屋市有松の東端。SUZUSANのアトリエは、国道1号沿いにある。モダンな戸建住宅のような建物だ。
この地域では、生業でなくとも、かつて女性の多くが7歳になるくらいまでに絞りを会得したという。生活に密着しながら絞り染めの技巧が極められ、最盛時には300から500の技法が編み出されたと言われている。「一人一技法」が基本だった。完全な分業制をとるため、技法をもった職人が亡くなったり、廃業するとその技がなくなる。絞り染めの技法は、いまでは30余に減ってしまった。
模様が細かければいい、難しいテクニックこそ是、という価値観を覆そうと村瀬氏は思った。大胆な絞り染めは、当初父や地元の職人にいぶかしがられたこともある。しかし、使い手ありきの思想を貫いた。それを「“風通しのよい”使い勝手」と彼は言う。製品自体のオーラも、それを目にした人の視線もそこで留まらず、すっと風のように抜け、使い手に寄り添うものでありたい、と。伝統工芸であり、ファッションでもある─物事のとらえかたが多面的であることが村瀬氏のなかに常に上位概念としてある。
村瀬弘行 むらせ・ひろゆき
1982年、名古屋市生まれ。鈴三商店5代目、SUZUSANクリエイティブディレクター。英国の美大やドイツのアカデミーを経て、2008年にSUZUSAN e.K.を設立。ドイツのデュッセルドルフと有松を拠点に活動。
重要伝統的建造物群保存地区に指定されている旧東海道沿いの町並み。この近隣にSUZUSANのアトリエはある。
たたみシワをつけてから、染まってほしくない部分をビニールで覆う「帽子絞り」。熱に強いビニールハウス用の素材を用いる。これがなかった頃は、竹の皮を巻いていたという。
染料が入り込まないように、固く絞っている。職人の頭のなかには、このときすでに完成形がイメージできている。
分業制をとっていた有松鳴海絞り。SUZUSANはもともと絞りのための型紙を作成して絵刷りを専業に行う「下絵師」だったという。弘行氏はここの5代目となる。
染め色や素材によって多少の違いはあるが、約70℃の染料で染めていく。一定の温度を超えると、色のムラができやすいため、染料の温度管理には神経をつかうという。
ビニールで水防染をした部分のみ、ベース色のライトグレーが残る。
有松鳴海絞りにモダンな感性を添えて
SUZUSAN スズサン
糸で縛った部分やビニールで覆った部分に地の色が出て、染まった部分と絶妙なコントラストを描き出す。同じものが二つとない、ワン&オンリーの味わいだ。
ストール(左)37,800円(綿)(右)37,800円(綿)
メンズ館1階=シーズン雑貨・帽子