【特集】“伝わる”服を目指して 西口修平が手掛ける<ミラ・ショーン ミラノ>
大手セレクトショップ <BEAMS F>のディレクターとして、オリジナル商品の企画や多彩なコラボを仕掛けるとともに、Instagramフォロワーは15万人越え、ファッション誌をはじめとした各媒体で引っ張りだこな西口修平さん。そんな西口さんの「今の気分」が凝縮されたコレクションである<MILA SCHON MILANO/ミラ・ショーン ミラノ>について語っていただきました。
<西口 修平氏プロフィール>
ーー そもそも、西口さんが<MILA SCHON MILANO>を手掛けるようになったきっかけについて教えてください。
西口修平氏(以下、敬称略) ブランドホルダー側からお話を頂いたのがきっかけです。1958年にミラノでスタートした<MILA SCHON/ミラ・ショーン>は、歴史とともにお客さまの年齢層も高くなりつつあり、改めて若い人や幅広い層にアプローチすべく、私に白羽の矢が立ったという感じです。
ーー それ以前の<MILA SCHON>について、どのような印象をお持ちでしたか。
西口 上質なラグジュアリーブランドだとは認識していましたが、我々世代ですとそこまで凝り固まったブランドのイメージはあまり無かったですね。
ーー イメージが無い状態での依頼、引き受けるのに悩まれたりされませんでしたか。
西口 「時代を経ても変わらないエレガンス」というブランドアイデンティティをリスペクトしながら、様々なプリント柄や、テクスチャーのアーカイブもありますが、あまりそういったものに縛られずに、コレクションを構成しています。ブランド名も<milaschön>から<MILA SHON MILANO>として、ロゴも書体も変更しました。
ヴィンテージ+クラシック+モダン=西口テイスト
ーー そうしてローンチされたのが昨年の秋冬シーズン。コンセプトは「モダンヴィンテージカジュアル、モダンクラシックスタイル」として、西口さんが考える現代のミラノスタイルを具現化したコレクションだったのですね。
西口 僕らしい切り口でクラシック服のテイストをミックスしたり、今の時代に求められているメンズスタイルを考えてみました。ベースにあるのはクラシックとヴィンテージ。それを高次元で融合させながら、今の空気感を伝えられるスタイリングを表現しました。若々しいというとちょっと陳腐ですけど、クオリティの高いものを提供できるブランドができたと思っています。
ーー <BEAMS F>とは、どのようにご自身の中で差別化されているのでしょうか?
西口 <BEAMS F>は歴史もありますし、お客さまの年齢層もずっと広いので、ある意味コンサバティブにならざるをえません。Pitti UOMOや各サプライヤーのショールームプレゼンテーションで得てきた情報をリソースに、130ものブランドをセレクトしているのですから規模も膨大です。それに対して<MILA SCHON MILANO>は、そんなリソースを僕自身のフィルターを通して凝縮したもの。厳選に厳選を重ねて作り出しています。
ーー シーズンに4ルック展開するとお聞きしました。
西口 はい。膨大なリソースから4スタイルだけというのは、なかなか難しいのですが、そのぶん凝縮されたものに仕上がっていると思います。それに今季はブレザーやデニムなど、単品のアイテムを加えて幅を広げました。自分の中にあるコアな部分を、百貨店のお客様にも理解していただけるような表現方法を模索しているので、かなりこだわったラインナップになっていると思います。
ーー デニムにはかなりこだわっていらっしゃると伺いました。
西口 岡山のセルビッチデニムを使用しています。インディゴブルーはヴィンテージ並みにタテ落ちするんです。シルエットもオリジナルでパターンを引いてもらいました。デニムって穿いていくうちにその良さがわかるものですよね。見た目だけでは伝わらない、身につけて初めて気づく良さというのも、僕自身が洋服に携わってきたなかで大切にしていることだと思います。
BEAMS Fで培った見識を注いだ「神が細部に宿る服」
ーー それでは、今秋のコレクションの一部をご紹介していただけますか。
西口 今秋は「Stile campagne Urbane」と題して、都会的なカントリースタイルをテーマにしています。街に溶け込むような温かみがありながら、少し遊び心のある大人スタイルを提案しています。休日に街だけでなく、別荘に出かけたくなるような。都会に住む方が、ライフスタイルにおいて少しラグジュアリーな感覚を持ってアプローチできるような洋服たちです。
ーー ミラノの富裕層たちが、週末にコモ湖の別荘や、ホリデーシーズンにスノーリゾートへ遊びにいくようなイメージですね。
西口 これで旅行に行ってほしいというのもありますし、そのまま街でお買い物やディナーなど、都会のライフスタイルを楽しんでいただきたいというのもあります。色味や柄使いなど、温かみのある表現がされているので、街着として着られるカントリースタイルに仕上げています。
ーー ツイードやフランネル、スエードといった温かみのある素材が揃っています。
西口 コレクションは基本的に生地から入るんです。この生地を使いたいな、こんな生地がないかなというところからスタートするのですが、今年のトレンド的に英国的なものがあったりするので、ガンクラブチェックやシェパードチェックにウィンドーペーンを乗せて、ひと味加えたものを採用しています。
ーー 西口さんを語るうえで外せないヴィンテージテイストも伺えますね。
西口 ヴィンテージに見られるシルエットは、ある程度参考にしています。今のトレンド的にもヴィンテージライクなエッセンスがありますし、古着の要素は僕のリソースとして、とても大切にしています。たとえばダッフルコートのシルエットはヴィンテージコートのようにたっぷりと、着丈も通常のダッフルコートより10センチぐらい長くなっています。
ーー そういうところにヴィンテージの雰囲気を感じさせますね。
西口 でも素材は現代的です。伊ピアチェンツァのウールカシミア生地を使うことで、とても軽量に仕上げました。英国の本物ダッフルは、メルトン生地がとても硬くて重いのですが、ふわっとローブのような軽さを感じていただきたくてヴィンテージとモダンをミックスさせています。
ーー カラーパレットはグレー、ベージュ、ブラウン系というのもカントリー&ヴィンテージな印象でしょうか。
西口 ブラウン系はベージュからキャメルまでの、リュクスなトーンを選びました。ベースカラーはそれにグレー。差し色としてパープルや、ロイヤルブルーを選んでいます。キャメルカラーでは、このスエードのジャケットが特徴的だと思うのですが、こういう淡い色、汚れが気になりそうな色ってリッチな感じがしますよね。ラグジュアリーを象徴するような色を手がけたいなというのがありましたし、それでいて嫌味はなくキザな感じもないので、こういう色でスエードをやりたかったんです。
ーー 今季の注目色から厳選した色はカントリーライクでもあり、どこか都会的でもあります。
西口 その都会的に見せるポイントは、ステッチを表に出してない縫製です。ラペルのコバやポケットまわりなども、ステッチを隠すように仕立てています。こうすることで、全体的にマイルドに見えるというか、より洗練されてエレガントに見えるんです。
ーー スエードの粗野な印象はなくて、ドレッシーな印象です。スーツも英国のカントリー・ジェントルマンを思わせるグレーフランネルですが、パープルのニットを合わせているあたりも素敵ですね。
西口 このグレーフランネルは英国のマーリン&エヴァンスの生地を使ったもの。打ち込みがよく、型崩れしにくいいかにも英国的な素材です。ジャケットは昨シーズンの型紙をアップデートし、より曲線を多用して着心地にも配慮しています。
ーー こちらのスーツはパンツのディテールにクラシックな仕様を取り入れています。
西口 パンツはベルトレス&サイドアジャスター、ワンプリーツ&ワンダーツにして裾幅は20cm。主流のスーツに比べると、ボトムズシルエットはやや太いほうだと思いますが、トレンドのワイドパンツまではいかない。そのあたりの取り入れ方やミックスの度合いにはこだわっているつもりです。
ーー先ほどのスエードジャケットには、ケーブルのニットを合わせました。上から羽織るベルテッドのバルカラーコートも着丈はやや長めです。
西口 レザージャケットって、テーラード仕立てにしないと、どうしても着心地が落ちますので、パターンは相当こだわりました。着たときにたすきじわが出ないとか、肩が引っかからないとか、そういうところも型紙を何度も修正しています。ケーブルニットは今季のキーワードでもあるのですが、あえてモックネックにしています。首元にユルさが出るので、リラックス感がありますし、巻物をまいたりすることもできるので便利だし、とても気に入っているアイテムです。
ーー まさに「神は細部に宿る」を実践された作り込みとコーディネートですね。それってどこかビームスらしい考え方のようにも見受けられます。
西口 僕もこの畑に20年以上いますので、そうかもしれません。これまでも、そういうところを突き詰めてきたように思います。細部まできっちりこだわることで、洋服に詳しくない方でも袖を通したときに「何かいいね」と感じてもらえる。その「何か」は気づかれなくてもいいんです。仕立ての細かいことなど知らなくても、「他の服とは違う何かがある」と思ってもらえるものを目指してるっていうのはありますね。
ーー 型紙も縫製工場にもめちゃくちゃこだわっていらっしゃいますが、それはお客様には知る由もありません。それでも伝わるものがある服です。
西口 こういう服作りたいと思ったら、どこの工場で縫うかによって仕上がりは大きく変わります。パターンナーがどれほど洋服に詳しいかも大事です。僕が目指すヴィンテージディテールを理解してくれる人なら、やっぱりこのディテールは絶対外せないね、みたいなところで共鳴できる。その人の造詣の深さが、必ず洋服に反映されてきます。僕はできるだけそういう知識のある人と仕事をしたいと思っていますし、それがしっかり反映されているコレクションを、この<MILA SCHON MILANO>で実現できています。
- 開催期間:8
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館5階 メンズテーラードクロージング
Text:Yasuyuki Ikeda
Photograph:Tatsuya Ozawa(Studio Mug)
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