【インタビュー】草竹 賢(ALL GOOD FLOWERS)&中村 圭佑(DAIKEI MILLS)|メンズファッションの殿堂に突如出現した、“花壇”が教えてくれるもの
2月16日(水)に初お披露目となる一大リモデルによって、伊勢丹新宿店メンズ館 1階に新たに登場する花のセレクトショップ、<ALL GOOD FLOWERS/オールグッドフラワーズ>。百貨店のあり方、その役割をも拡張させる可能性すら感じるこのチャレンジングな新店の誕生を前に、<ALL GOOD FLOWERS>を率いる代表の草竹 賢さん、店舗の内装設計を手掛けたDAIKEI MILLSの中村圭佑さんというキーマン2名の同時インタビューが実現。ファッションがメインの大規模小売店に出店する意味、既存の花屋との決定的な違い、この新しい取り組みに込められた二人の想いなどについて、熱く語ってくれた。
ALL GOOD FLOWERSと、DAIKEI MILLSの出合い
<ALL GOOD FLOWERS>は、東京・青山という都会のど真ん中の広場でカフェ、ショップ、シェアオフィスなどが共存し、緑豊かな"PARK LIFESTYLE"を提案する「SHARE GREEN MINAMI AOYAMA」内で、グリーンショップ「SOLSO FARM」に併設する花のセレクトショップとして2018年に開業。“花のある心地よい暮らし“をテーマに、季節の草花をおしゃれに持ち運び、生ける材料と併せて紹介し、オリジナルのグッズや花器なども扱う話題のスポットだ。そんな<ALL GOOD FLOWERS>の初の単独店舗が、イセタンメンズに誕生するという。
内装を手掛けたのは、「SKWAT」プロジェクトなどで知られるDAIKEI MILLSの代表・中村圭佑さん。空間と用途に真摯に向き合い、彫刻的な造形と単純な平面を緩やかに結びつけるデザインで、CIBONE、avex新社屋など数々の名作「空間」を生み出してきた気鋭の設計家だ。<ALL GOOD FLOWERS>の草竹 賢さんがDAIKEI MILLSに中村圭佑さんを訪ねるかたちで、この日のインタビューは行われた。
草竹 賢さん(以下草竹) :実は伊勢丹さんに限らず、いろんなファッションビルさんなどから出店の要望はいただいていました。でも人員やタイミングの問題があって、ずっとお断り続けていたんですが……。今回はさまざまな要素がうまく噛み合ったので、常設店舗で挑戦させていただくことになりました。
ポップアップなどでは施設の方もお客さまも、僕たちらしさを求めてくださっています。だからその場所に合わせてスタイルを変更ことはないのですが、今回は常設。なおかつメンズ館ということもり、“そこ”はちゃんと意識した店づくりをしようと考えました。
そこで白羽の矢が立ったのが、DAIKEI MILLSの中村圭佑さんというわけだ。
中村 圭佑さん(以下中村):共通の知人である『SOLSO』の齊藤(太一)さんのご紹介でした。『SHARE GREEN MINAMI AOYAMA』は自宅からギリギリ徒歩圏内で、植物を買ってちょっとゴハンを食べて、それからコーヒーを飲める気持ちのいい場所。しかも平日なら混んでいないというのもあって、結構利用していたんです。そのなかで〈ALL GOOD FLOWERS〉は、あの施設全体とあまりにも自然に馴染んでいた。いい意味で違和感のないお店でしたね。
電話越しでも伝わる草竹さんの真摯な姿勢と人柄、そしてこれまで手掛けたことのなかった花屋というプロジェクトへの興味から、その場で依頼を快諾したという、中村さん。
中村:僕は大体そんな感じで。お金どうこうとかはあんまり気にせず、面白いことができそうか、相手がいい人そうかどうかで決めちゃいます。会社プロフィールとか出されちゃうと、逆に引いちゃうというか……(笑)。
草竹:そうですね。スケジュール的に余裕がなかったし、僕としてもお願いするしかないっていうのもあったし(笑)。実は、来年に向かっていろんなプロジェクトが控えてまして、それらもすべて一貫して中村さんにお願いしたいっていう気持ちがありましたから。長い目で見ていただき……、ぜひお願いします!と。
中村:はい。その場で決めちゃいましたね(笑)。
“花との触れ合い方を見つめ直す”というコンセプト
理想とするチームアップはできた。では草竹さんはどんなコンセプトを考え、中村さんはどんなアイデアとデザインで応えていったのだろうか。
草竹:僕はただ、『”花屋”というのを気にしないでほしい』としかお伝えしませんでした。ファッションや雑貨、インテリアを扱うような感じというか……、とにかく“新しいお花屋さんを作る”という風には、考えないでくださいと。
中村:僕はパンデミックの前から、もう世の中ではいろんなものが飽和状態だったんだと思っています。だから草竹さんに限らず多くのクライアントさんが、“既成概念を壊したい”ということを考えている。
一方、僕らはそういう“既成概念を壊す”ご提案をすることに長けているという自負があります。決して突拍子もないものを作るということではなく、既視感があるのに少しだけ違和感もあるというものを作り出すのが得意。
草竹さんからのご依頼も、そういう意味で楽しそうなプロジェクトだと感じましたね。コンテンツとしてやっぱり僕はお花屋さんが好きですし。
“既成概念を壊す”花屋とは、一体どんな店なのだろうか?
中村:一度“花屋”というイメージから離れてみるんですよ。花屋でありながら、花を扱うことを止めるというか……。要は、矛盾するものごとの、折り合いの付け方の集積なんです。
もちろんすべての矛盾を形にすることはできず、どこかのポイントに絞らなくてはならない。そこでまず、花屋のスタッフの動作、花の置き方、内装に使われる素材を見直すことから始めたという。
中村:でも、そういう小手先のスタイルを変えるだけじゃダメ。違うな、と。それではどこまで行っても、ただの“花屋っぽくない”店にしかならないと気づきました。そのときにふと、『僕たちは日常で、どうやって花と触れ合っているんだろう?』という、花の“原点”に対する疑問が浮かんだんです。そして最終的にたどり着いたのは、自分はほぼ毎日“花壇”の側を歩いている、という事実でした。
たしかに花壇は、公園や緑道はもちろん、駅前や商店街の入り口、マンションの共用スペースなど、あらゆるところに設けられている。毎日見ているのに、案外意識することは少ない、花との身近な接点だ。
中村:花屋は本来、花壇で摘んだ花を水に入れて、それを台の上に並べて売っています。その流れを巻き戻し、時間軸を逆転させることができれば、最もプリミティブな“原点”的光景になるはず。つまり、花壇に花が咲き誇っているような状態を店内に持ち込めれば、これほど花屋として不自然かつ自然なことはありません。既視感と違和感の融合って、そういうことなんじゃないかと考えました。
中村さんがなによりこだわったのは、デザインやスタイルではなく、視点だった。
中村:なにかをデザインをしようとすると、どうしても小手先の手法になってしまう。生活のなかでなにが良く見えて、なにが良い違和感が生じさせるのかという“視点”の大切さに気が付きました。このショップでやるべきは、新しい花屋のスタイルを創ることじゃなく、“花との触れ合い方を見つめ直す”ことなんだって。
花壇に花が咲いていたら、それは極めて自然な既視感のある光景だ。だがそれが花屋のなかだったら? 百貨店のなかだったら? それは違和感のある既視感、“既成概念を壊す”花屋と呼んで間違いないだろう。
花壇の“あり方”が、花屋としての”あり方”を示す
中村:多くの花屋って、接客はカウンター越し。だからスタッフとお客さんが対面なんですよ。でも対面って恥ずかしいし、苦手な人が多いじゃないですか。そう考えると、花屋だってスタッフと横並びで花を摘むように、一緒に選べたほうが心理的ハードルが低い。横並びなら同じ“視点”で見ることができるし、距離感もいいと思うんです。“花屋だけど、花屋じゃない”ように見えるポイントは、ほかにもある。この店に出現する花壇は黒く塗られた角材で囲まれ、壁面もブラックで統一される。これはイセタンメンズという売り場の環境を意識しながら、主役である花の存在感を最大限に活かすための選択だ。
中村:フロアを眺めてみると、“ガワ(側)”には鋼材が多く使われていて、強くて冷たい雰囲気ときらびやかな世界観がありました。そこに“違和感”を生み出すために、まずショップ自体の色を排除しようと考えたんです。だから黒を使っているというよりも、“色を消す”という意味で黒にしている。その上でさまざまな花の美しい色が、黒という無の背景によってさらに引き立つことを意図しています。
屋外の花壇をそのまま店内に再現すれば、それは“突拍子もない”印象を受けるかもしれない。だが中村さんは、90角の黒い無垢の木材を単純に並べていくことで花壇を表現。これは、いまという時代だからこその、モダンな花壇のあり方というものを示している。だがその真骨頂は、デザインと機能に驚きの拡張性が実装されていることだろう。
中村:花壇の周囲の角材は固定するんですが、花を収める部分にも角材がきっちり隙間なく入るように設計をしています。全面をフラットにすることで、ベンチのように使うこともできるんですよ。花の量というのは日によっても、季節によっても違いますから。花壇をベンチのように座れるようにアレンジして、コミュニケーションの場として利用してもらってもいい。ほかのテナントさんにとっても、いい休憩所ができるんじゃないかと(笑)。
もし仮に撤去することになっても、小さいピース(角材)の集積なので、移動や再利用は自由自在だ。
中村さん:今回は花壇の素材として角材を使用していますが、僕がこだわったのは“材”ではない。花壇としての、“あり方”なんです。
SHARE GREEN MINAMI AOYAMAと、伊勢丹新宿店メンズ館の違い
自然豊かな複合施設内の青山店と、“メンズファッションの殿堂”にオープンする伊勢丹新宿店。ロケーションや館の個性に大きな差のあるふたつの<ALL GOOD FLOWERS>で、どんな違いを生み出していくつもりなのか、草竹さんの考えを訊いてみた。草竹:青山店は場所柄若い女性やカップルのお客様が多いですし、ざっくりとした位置づけとしては、青山店が女性向け、伊勢丹新宿店が男性向けという感じでしょうか。花以外の商品についても男性が手を伸ばしやすいものを揃えようと思っています。
とはいえ、ポップアップなどを見ても女性のお客様もとても多いですから、“男性向け”というのはあくまで裏テーマぐらいのニュアンスですかね(笑)。
青山店の場合、観葉植物は併設のSOLSO PARKが扱っており、<ALL GOOD FLOWERS>としての展開はない。伊勢丹新宿店では切り花だけじゃなく植物も展開するというのも大きな違いだ。しかし、共通点もある。
草竹:花屋って、入るのに勇気がいると思うんです。特に男性は。だから青山店は、扉がいつも開けっ放し。店の前が公園のような場所なので、自由に回遊できるように意識しています。伊勢丹新宿店は館のなかではありますが、多くの方が通りすがる場所なので同じような回遊性をもたせたいと考えました。
草竹さんが花壇というアイデアに惹かれた大きな理由が、この回遊のしやすさだ。
草竹:カウンターを作ってしまうと、そこで流れが止まってしまうというか……。そういう作りではない方が買いやすくなるし、身近に感じてもらいやすいかなとは思っていますね。
お花がキレイに見えれば、その空間が気持ちいいなと感じる。じゃあなぜ気持ちいいのかって考えると、お花があるからじゃないか──。それならお花を買ってみようっていう(笑)。中村さんは逆の発想というか、いかにお花を“売る”かではなく、“買いたい気持ちにさせる”かを考えてくれたんだと思います。
単独店の花屋であれば、花を求める客を取り込めばいい。だが今回は、伊勢丹新宿店という大きな施設のなかの店だ。目的が“花”ではなかったとしても、通りすがりに出合うということだって起こりうる。花が創出する心地よい空間は、花を買いに来たわけでもないのに、つい買いたくなってしまう。そんな潜在需要を掘り起こすことが可能だ。
中村:1階の通路に面した場所で、人通りが多いところですからね。そういう”出合い”が起こる状況を作るということが、このスペースならではの正しい“あり方”だと思うんです。
さきほど世の中全体が飽和しているということをお話しましたけど、モノを売るっていう行為についても完全に飽和している状況なんだと思います。つまり合理性を追求しすぎたモノの売り方に、みんなが窮屈になってきているのではと。その状況を脱却できるような、いい意味での違和感を得られるものが求められる時代になってきています。
そんな時代に最も重要なのが、“体験”なのだと中村さんは言う。
中村:どうやって心を豊かにする“体験”を引き起こすか──それがすべてだと思いますね。
仮にその場でお花が売れなかったとしても、この景色や体験は印象に残ると思います。たまたま違う場所で<ALL GOOD FLOWERS>に再会したときに、『あ、そういえば』と思って買ってくれるかもしれない。ビジネスとしてスピード感はないかもしれないけど、僕はそれがこれからのモノの売り方だと思ってるんです。従来の売り方よりも持続性や継続性があるし、そっちの方が人を幸せにするよねって。
花がある暮らしの、ラグジュアリーな心地よさ
中村:花壇の話と同じで、人が気持ちいいとか、なんかいいなとか、幸せだなとか。そういう根源的な気持ちを生み出していかないとダメなんだと、みんなが再確認し始めてるタイミングなんだと思います。そういう意味で、空間自体もどれだけ酸素が吸えて呼吸できるか、みたいなことが大事になってきている。新しいモノやきらびやかなモノだけじゃなく、植物やヴィンテージのように長く生きてきた物を混ぜていかないと、窒息死しちゃうよねって(笑)。草竹:確かにそうですね。僕はそもそも“新しい見せ方”とかってあまり興味がなくて、今回のことも別に斬新だとは思ってない。こちらから『新しい売り方なんで来てください』っていう気持ちは、まったくないんです。お花を売りたいっていうよりも、楽しくなればいい(笑)。
面白いことがやれて、楽しい空間がつくれて……、その上でお客様に植物っていいよね、花っていいよねって思っていただける機会に繋がれば嬉しいです。若い方でも、おじいちゃんやおばあちゃんでも、メンズ館に入ってきた人が花壇を通り抜けてもらえるだけでもいいんですよ。
男性にとって最高級のラグジュアリーを提供する場であり続けてきたイセタンメンズ。しかしこの<ALL GOOD FLOWERS>の登場を契機に、ジャンル、ジェンダー、ジェネレーションを超え、いまの時代にふさわしい新しいラグジュアリーと真に豊かな暮らしのあり方を提案する場へと、進化していくのかもしれない。
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- 展開開始日:2022年2月16日(水)
- 展開場所:伊勢丹新宿店 メンズ館1階 プロモーション内
Text:Junya Hasegawa(america)
Photograph:Tatsuya Ozawa
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