【インタビュー】ブランド創設20年の集大成から、21年目の新境地へ──尾花大輔が語る<N.HOOLYWOOD>の現在地
コロナウイルスで大きく変わった世界を前に、デザイナーである尾花大輔氏がいま考えていること、2021年春夏コレクションに込められた思いを訊いた。
ショーが出来ない環境で、代替的なクリエイティブはありえないと思った
2001年に古着のリメイクとレディ・トゥ・ウエアのミックスからスタートし、今年で20周年という大きな節目を迎える<N.HOOLYWOOD/N.ハリウッド>。だがパンデミックの影響もあってか、その最新コレクションである2021年春夏はこれまでコレクションラインと呼ばれてきたラインを休止。ミリタリーソースのワードローブコレクションである<N.HOOLYWOOD TEST PRODUCT EXCHANGE SERVICE/N.ハリウッド テスト プロダクト エクスチェンジ サービス>(以下、エクスチェンジ)と、時代性を反映したドレスラインの<N.HOOLYWOOD COMPILE/エヌハリウッド コンパイル>(以下、コンパイル)のみに注力し、どちらもショーではなく映像とルック画像での発表という形式をとった。
この思い切った施策について、その真意をデザイナーである尾花大輔氏に尋ねた。
「実をいうと、昨年2月に開催した20年秋冬の際にも、ショー形式のコレクションをやめようと思っていたくらい。『そもそもコレクションってなんだろう?』と考え始めてしまっていたんですよ。
ショーというのはハイカロリーな割に、誰に向けてやっているのか疑問に思うところがありました。誰かに見せるために、ただ僕が感じたテーマに基づいたものづくりを追求して発表するという自己満足に、意味を見いだせなくなっていていたんです。
だったら好きなことをやりたいし、日常的に着られる服をつくりたいな、と。コンパイルは、テーマやドレスウエアという枠組みはあっても、自分たちがいま本当に着たいと思うディテールで構成されている。2020年秋冬ではそんなコンパイルだけでショーができるのか、『ショーだから』という変な力を入れずに成立させられるのかを追求してみた結果、自分自身、これまでで最も美しいと思えるショーができあがったんです。」
King Gnu・millennium paradeの常田大希氏によるチェロの生演奏でスタートしたその静謐で荘厳なランウェイショーは、「2年くらい前から”食わず嫌い”をやめた」という尾花氏にとっても、過去最大の実験だったという。
「僕は人とのコラボレーションというのがあまり得意じゃなかったんですが、いざ大希とのコラボレーションに挑戦した結果、いままで1番印象深い良いもの(ショー)ができたと思います。喉の奥につっかえていた魚の小骨が、スッと抜けるような感覚があって。『あ、何をしてもいいんだ』と気づいたんですよ(笑)。
その直後に、コロナが大流行。この”気づき”をぎりぎりパンデミックの前に得られたのは大きかったですね。それによってこの状況下での服づくりに素直に取り組めたのは間違いありませんから。」
つまりは今季の”コレクション”が映像、画像のみで発表されたのは、コロナによってランウェイショーが開催”できなかった”のではなく、あえて”しなかった”というわけだ。
自分の原点である、ミリタリーへの回帰と集大成
古着の大定番であるミリタリーウエアに軸足を置いたうえで、コアなテーマを尾花大輔氏らしい圧倒的な知見と熱量で”深堀り”し、モダンでウェアラブルなアイテム群へと昇華させてきた<N.ハリウッド>のコレクションラインは、シーズンを追うごとに進化し、深化していた。
だが近年の、「あえて”深堀り”しない」という創作過程の軽やかな変革を経て、今季はブランド全体で各ラインの解釈まで入念に再検証。その結論が、2021年春夏はコレクションラインを休止し、エクスチェンジをメインとして映像配信で発表するというものだったのだ。
それは戦争の記録映像のような体裁をとりながら、そこにファッション的なステートメントやストーリー性、派手な演出は一切見られない。あくまで淡々と、場所も年代も多様な資料のコラージュと、G.I.ジョーを思わせるモデルたちによる、ウェアラブルなルック画像が交互に表示される、スライド映写のような風情のものだ。
「ファッションショーじゃないからとか、いまだから、という特別な意図は込められていません。強いて言うなら、いつもはできていたインスピレーション・トリップができなかったというのはある。だからこそ、作業時間は豊富にあった。それもあり、手元にある溜まりに溜まった膨大な資料をしっかり見直したうえでのミニマルな表現ということでしょうか。
アトリエで眠ったままの古着たちを、丁寧に、それこそ1着ずつに声を掛けるくらいの気持ちでピックして、エディットするように心がけました。本来自分が得意とする、”単品”のアイテムとしっかり向き合うという作業を深めた感じですね。20周年というタイミングで、改めてミリタリーという”原点”に立ち返る──その意味についても考えました。」
まさに、原点回帰と集大成。そしてデジタルであること、映像形式での発表であることの新鮮さなど、テクノロジーを駆使することによって得られるはずのメリットをことさら強調した作品ではなかったのにも、尾花氏なりの理由があった。
「(発表時期としては先行していた)ヨーロッパのいろんなブランドを、反面教師にした部分は大いにあります。多くのブランドが、ショーの”代替品”を必死につくっているような気がしていましたから……。
ファッションショーというのは、ミュージシャンのライブと同じ。ひとつのショーを観ていても、いろんな人がその人の目線だけでしか観られない景色とか、その位置からしか撮れない映像など、オフィシャルとは別の視点があります。だからこそショーは特別なんです。」
会場にいる全員が、自分だけの景色を楽しめる──そんなショーでないのなら、世界中の人によりよいカタチで見てもらえるルック画像を選ぶというのが、彼にとっての”いま”の、結論というわけだ。
「すごく複雑なことをすごく単純に表現できるというのが、デジタル化の究極のありかただと僕は思っています。仕掛けはシンプルであるほどいい。機能に頼った映像は、too muchで好きじゃありませんね。」
”事実”に対してのエゴなら、むしろ共感してくれるはず
今季のエクスチェンジについて、「久しぶりに、”単品”で勝負しています」と語る、尾花氏。ひとつひとつのアイテムやディテールと真剣に向き合い、時代も国もマッシュアップ。脈絡がないようで、生地感やルック感などのつながりによってコレクションとしてのまとまりを創り出しているあたり、さすがというよりほかにない。しかし、あまりにも膨大かつ奥深いミリタリーウエアの世界のなかから、尾花氏が今季のエクスチェンジ向けにピックアップしたのは、一体どんなアイテムだったのだろうか。キーとなるいくつかのアイテムを、尾花氏自ら紹介してくれた。
「このコートのピンクがかったカーキ色のカモフラージュ柄は、おそらく1940年代の英国軍特殊部隊のもの。米軍と違ってヨーロッパ各国の軍隊については少々正確さにかける記録が多く見られます。だから、”おそらく”と言うようにしています(笑)。最近はあえて”深堀り”しすぎないようにしているんですよ。入り込み過ぎちゃうと、できあがったときに1ミリも着たくない服に仕上がってしまうときがあるので。
このピンク色のカモは米軍では存在しないすごく貴重なモノですが、そういう”知識”というより”感覚”的で、そして単純に『色がキレイだよね』っていう部分をもっと掘り下げていこうと。これまでなら古着に対しての”忠実さ”を追求してきたけど、僕らはデザイナーズブランド。オリジナリティが必要ですからね。このテキスタイルをベースに、ピンクがかったカーキの無地もつくったり、色目を合わせてみたり。そうするとコレクションに幅と奥行が生まれて、コーディネートもしやすいですから。」
そのほかにも、米軍のサープラスを参考に、サイズごとに色分けしたヴィヴィッドカラーのパッチがアクセントとなったカットソー、2019年末に設立されたアメリカ宇宙軍へのオマージュとして誕生した、オリジナルロゴ入りのトレーニングウエアなど、広範なミリタリーアイテムが洗練されたデザインと機能性をともなって集積された、充実のコレクションとなっている。
「根底にあるのは、日の目を見ることのなかったミリタリーウエアたちを、世に知ってもらいたいという思いです。僕はこれまで、『これ、どうやって着るの?(笑)』という”強め”のモノをたくさん買ってきました。そういうディテールが面白いモノって過去にもつくってきたんですけど、今季はそれが7割くらいという力業。さっきの話と矛盾しちゃうけど、僕の”エゴ”が出まくっています。
でもこれまでのエゴというのは、自分の脳内の気分やムードのようなもの。今季のように”事実”として存在しているものに対してのエゴっていうのは、わかりづらくても着づらいものでも、むしろ趣味として共感してもらえるんじゃないかと思います。
マニアックだって、売れなくたっていいから、とりあえず作ってみました。エクスチェンジはコレクションラインよりも、もっとオタクでギークな自分が出せるライン。僕のギークな部分といえば、やっぱり古着でありミリタリーですからね。」
機能的で、ウェアラブルかつファッショナブル。やはりこのシンプルにして究極の特徴こそが、時代もラインも超えて貫徹されている<N.ハリウッド>の真髄なのだ。
最後に2021年秋冬について尋ねてみると、尾花氏は一言「フタを開けてみるまでのお楽しみです」と言って、ただ微笑むのだった。
- 開催期間:1月20日(水)~2月2日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリー
*こちらの商品はLINEでのお問合せが可能です。友だち追加はこちらから
Text:Junya Hasegawa(america)
Photograph:TAGAWA YUTARO(CEKAI)
お問い合わせ
伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリー
電話03-3352-1111 大代表
メールでのお問い合わせはこちら