2020.01.30 update

日本の毛織物聖地・尾州が生んだウールTシャツの全容

現代の機能性素材は、天然のウールがもつ機能性を追求して進化発展を遂げてきたことをご存知だろうか。今日、ウールに匹敵する高い機能性を備えた素材は多彩だが、もともとウールがもつ機能には伸縮性、撥水性、清涼性や防臭・抗菌など様々なものがあり、実は日常着としては、最高レベルの機能性繊維といえるのだ。

そんな天然の機能性素材であるウールを使ったTシャツが、この春伊勢丹メンズにお目見えする。プロジェクトの発案は、日本の毛織物産業の聖地・尾州の三星毛糸。糸はオーストラリアメリノを使いながら、紡績・撚糸・染色・製編・縫製までを尾州の工場で完了するTシャツの企画立案は、3年前にスタートしていた。


三星毛糸の岩田真吾社長

天然の機能性素材ウールのTシャツを尾州で

「ウールのTシャツがあったら快適なのでは?」。三星毛糸社長・岩田真吾さんの想いを実現したのは昨夏、クラウドファウンディング「Makuake」上でのこと。「23時間を快適にするTシャツ」は、当初の目標金額100万円の8倍を超える金額を集めてサクセスしている。


「ウールは確かに機能的ですが、太い繊維は肌にチクチクと刺さることがあります。さらに洗えば縮むというウール特有の性質には、様々な化学薬品で加工しなければならず、地球環境にも配慮しなくてはなりません。これらの難題をひとつずつ解決するために、尾州の工場と職人さんたちの経験と智慧が集約できました」。

東京の商社やコンサルティング会社を経て、父の会社を継いだ岩田さんは、尾州生まれの尾州育ちとして、ロンドンやフィレンツェをはじめ世界各都市で開催されている「ツイードラン」を尾州・羽島でも開催するなど、地元の発展に力を注ぐ。「23時間を快適にするTシャツ」というキャッチコピーから、お風呂やサウナなど、服を脱いでいる時間以外は、仕事中でもプライベートでも寝ても起きても上質な着心地を提供するという若手後継者の覚悟を感じる。

 

守り続けたい尾州の伝統と技術力


三星毛糸は国内外、多くのアパレル企業から高く信頼されている尾州を代表する毛織物メーカーだ。尾州には、旧式のシャトル織機を稼働できる小さな機屋がいまも残っており、昔ながらの味わい深い毛織物を織れる世界でも希少な地域とされている。そのため国内の高級テーラーをはじめ、海外のラグジュアリーメゾンが絶大な信頼を寄せているのだ。









しかし地元はいま後継者問題や人手不足、海外製品との価格競争といった問題に直面している。岩田さんは、旧式織機を扱える職人に生地を発注したり、年老いた夫婦が2人で経営する機屋に技術者を派遣するなど、地元企業を支援する活動も進めている。

プロジェクトは糸の染色から

 


ウールTシャツに使う糸は、安定して高品質なメリノウールを産出するオーストラリアから買付け、地元の大手紡績会社サンファインの協力によって、スーパー140という極細のメリノウールを染色するところから始まった。色出しは何色もの繊維をミックスしたトップ色で表現されている。

「試作品の段階で、生地が仕上がってから染めてみたのですが、やはり杢調のほうがいいということになりトップ染めの糸を使うことにしました。通常サンファインさんでは、スーパー120までの原毛を使うのですが、無理をいって、より肌触りの優しいスーパー140でお願いしたものです。さらに洗っても縮まないよう、糸の段階で毛玉ができにくくなる加工と、洗っても縮まない防縮加工を施しています。この加工は生地を織ってからも行うことで、洗濯機で洗えるウール生地が仕上がるんです」。


ウールTシャツの生地は織物ではなく、伸縮性のあるスムース地と呼ばれるニットを使う。糸をTシャツ生地に編むのは製編会社、永良ニットだ。ここでは熟練の職人が丸編み機を使い筒状に生地を生産。このニットのゲージと度目(編み目の詰まり具合)を調整することで、適度に伸縮しながらも耐久性あるバランスを追求したのだそうだ。








「試作品はクルーネックの大きさやカーブの角度、縁をリブにするのか、それとも別布のパイピングと取り付けるのかなど細部まで吟味しました。僕が新幹線で東京へ商談への行き帰りや泊まりの出張でも2〜3日に実際に着て、シワにならないか防臭性はどうかなど、体を張って研究を重ねました(笑)」

102通りのサイズをパターンオーダーできるウールTシャツ

こうして完成したウールTシャツは、前回のMakuakeのものより素材も作りもアップデートされている。ネックの形状はクルーとVの2種類から、カラーはアイボリーホワイト・ライトグレー・オリーブアッシュ・ダークネイビー・ディープブラックの5色から選ぶことができる。しかしもっとも注目すべき点は、サイズパターンオーダーによる受注生産という点だろう。

Tシャツ 00000円

 

 
 


Makuake時にも採用されたのは、縦方向と横方向のサイズが選べるシステムだ。前回は縦3サイズ(S、M、L)、横3サイズを選ぶことで、大柄でも横M、縦Lにしてタイトフィットでコンパクトに着たり、小柄な人でも横L、縦Sにして肩を落としてルーズと着るなど自由に楽しめることだ。現在では、XLを加えたベースの4サイズ(Sに、ショート・ミドル・ロング丈を用意し、さらにサイズバリエーションが広がっている。


「日本のウールは世界でもトップクラスのクオリティを誇ります。誰もが聞いたことある世界的なラグジュアリーブランドも、日本製のウール生地を使っているのですが、そのことを知っているのは、ほんの一部の人だけなんです。今回のウールTシャツは、全工程を尾州の会社や工場に協力してもらって制作しました。長年培った尾州の技術力を結集して、繊細なウール素材を普段使いできるように加工しています。私たちは今回のプロジェクトで、尾州地区の活性化と、日本のモノづくりの技術を次の世代へ残すための一歩にしたいですね」。

Photo:Tastuya Ozawa
Text:Yasuyuki Ikeda

*価格はすべて、税込です。