2019.03.24 update

【特集】国産シューズ復権の立役者、<三陽山長>の真価


<三陽山長>にはデザイナーがいない。ほんのすこしまえまでノーサンプトンのファクトリーでも取り立てて珍しいことではなかったとはいえ、いまなおデザイナーに頼らずものづくりを行っているところは、少なくともそれなりに知られているブランドにおいては寡聞にして知らない。

そのような態勢が許されるのは、150年つづく近代シューヒストリーを手本としているからである。ストレートチップ、ブローグ、モンク、ローファー……。じつにオーセンティックで、奇をてらったところが微塵もない。それでいて、一目みて<三陽山長>とわかる、凛とした存在感がある。

今回は、あらためて<三陽山長>というブランドをひもときたい。指南役はブランド誕生以来、屋台骨を務めてきたマネジャーの猿渡伸平さんだ。



「ブランドを立ち上げてまもなく20年。革をみる目もそれなりに養われました。現在はタナリーの名にとらわれることなく、その年最高の革を仕入れている自信があります。それと、生産現場。われわれは20年変わらずひとつの工場とがっぷり四つに組んでものづくりに励んでいます。浅草のはずれにある工場はその存在を知らなければ通り過ぎてしまうほど(笑)、こじんまりとしています。しかし古き良き職人仕事が脈々と受け継がれる、稀有な工場です」

15周年の年にリリースされた「極み」はそんなブランドのひとつの到達点だった。べヴェルドウェスト、フィドルバック、ピッチドヒール、シームレスヒール、そして、カールエッジ。それらスペックはビスポークから生まれたものだが、靴好きでも耳慣れないのはカールエッジだろう。ヘリを薄く漉き、文字どおり巻き込んで縫製するその仕上げの美しさは、従前のものに比べれば一目瞭然である。



履き心地も格段に向上している。あらたに考案したフレキシブルグッドイヤーウェルテッドはハンドソーンウェルテッドのプロセスであるドブ起こしを採り入れることで返りの良さを手に入れた。中物にはおなじみのコルクではなくフェルトを選択。さらなる屈曲性を求めた結果だが、5ミリ厚のそれは耐久性の面でみてもなんら問題がない。

靴の顔となるアッパー・デザイン、フォルムはそのままに内面の充実を図る。愚直、という言葉がこれほどしっくりくるブランドは、そうはない。

<三陽山長>は下駄を履かせることなく、欧米の靴と比べても引けを取らない。

次の20年、その先の100年に向けた種まき



いま、浅草の街を歩くと、海外からの観光客に加えてクリエイター然とした若者と多くすれ違う。

日本の靴産業はかつて斜陽産業のひとつだったが、20世紀の終わりに風向きが変わった。昭和のビジネスモデルへの違和感から無数の若者が靴職人を目指したのがその転機だったが、この流れを後押ししたのが<三陽山長>だった。そうして育った若者は陰に陽に<三陽山長>を支えている。

さいきんの<三陽山長>は珍しくあれこれと仕掛けている(といってもどれも顔見世までにたっぷり時間をかけているが)。シューデザイナーの坪内浩やイラストレーターの綿谷寛とコラボレーションしたコレクション。あるいはアフターケアと真っ向から向き合ったシュークリームの開発や店づくり。20周年を目前に控えた<三陽山長>はブランドとしての厚みも増している。


<三陽山長>はいまも有形無形にかかわる業界の大御所、長嶋正樹が中心となって立ち上げた山長印靴本舗がルーツだ。国産の復権を掲げ、代官山の並木橋にオープンしたちっぽけなその店はそうそうにイセタンメンズの目にとまり、ただちに開催されたパターンオーダーは記録的な数の注文が入った。<三陽山長>はこれを引き継ぐかたちで三陽商会がその名をあらためたブランドである。

100年後のジャポニスムを目指して、というのが今年、<三陽山長>があらたに打ち出したメッセージだが、あながち絵空事には思えない。この一歩一歩踏みしめるように進むスタンスをみていると、この大風呂敷もきれいに畳んで回収してしまう気がする。


日本人のために作られた5つの定番靴



友二郎 71,280円
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<三陽山長>のアイコン


<三陽山長>を象徴するストレートチップ。木型はブランド誕生10年目という節目の年に完成させたR2010。創業時よりマスターラストに君臨してきたロングノーズのラウンドシェイプR202をアップデートした。二の甲を低く抑え、アーチとヒールを絞り込んだシルエットは数万人の足型から導き出された最適解だ。



勘三郎 97,200円
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職人仕事が堪能できる一足


友二郎とともにツートップを張るUチップ・モデルのマスターピース。わずか1.4㎜の断面を縫い合わせるスキンステッチは日本の職人仕事をアピールするアイコンになった。木型は友二郎同様、R2010を採用。



源四郎 73,440円
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もっとも美しいダブルモンク


R2010のラウンドシェイプに映える、重厚と洗練が高度な次元で融合したストラップをまとったダブルモンク。長らく続くダブルモンク人気を牽引する存在だ。

 


鹿三郎 73,440円

古き良きスリップオン


繊細に編み込まれたレザーメッシュが古き良きタッセルスリップオンを彷彿とさせる一足。艶やかなブラックカーフレザーと相まって、ジャケパンやスーツの足元に合わせて位負けしない佇まいがある。木型はR2010。


秀二 38,800円
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次世代のストレートチップ


ドレスシューズとスニーカーの融合を謳い、2017年秋にデビューした「優」シリーズをアップデートしたストレートチップ。履き口まわりにスポンジを、中敷に低反発性アーチサポートインソールを内臓し、ラバーソールのセメンテッド製法で仕上げたそれはまさにスニーカーのような履き心地がある。アッパーデザイン、ならびに木型は友二郎と同スペック。

Photo:Shimpei Suzuki
Text:Kei  Takegawa

*価格はすべて、税込みです。

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