いまも朝の7時には工房に入る。一日10時間か11時間は働いているんじゃないかな。途中、昼寝はするけれどね(笑)。
仕事終わりにはかならず水を張ったバケツに本底を突っ込んでおく。水分を含んだ革は複雑な足裏の起伏も忠実にコピーしてくれるからだ。面倒といえば面倒だが、意味のある作業は省いちゃいけない。
面倒な作業といえば、ハンマー叩きもそう。ハンマーは靴にとってもっとも大切な工具のひとつだ。釣り込んだだけじゃ、革はいうことを聞かない。叩いて叩いて、木型のかたちを覚え込ませていくんだ。これをやるとやらないとではまるで顔つきが変わってくる。
小さな工房のいいところはみながピンチヒッターになれるってことだ。先日も仕上げの職人が寝込んだから、わたしが代わりに1日中ハンマーと格闘したばかりだ。工房にやってきたユカに笑われたよ。「あなたがハンマーを振るっているときはいつだって鬼気迫る顔をしているわ」ってね(ユカ=村瀬由香。〈レ・ユッカス〉のデザイナー。イタリア在住でボナフェとは親子のような仲。今回の来日にも同行して通訳を務めてくれた)。
釣り込みは手かって。そりゃ、当たり前だ。革はそれぞれ性格が違う。それを見極めて釣り込んでやろうと思えば機械では無理だよ。こいつを手なずけることができるのは我が掌だけなんだ。
もちろんすくい縫いも手だ。釣り込み同様、木型の再現性を考えたときには手に一日の長があるからね。それだけじゃない。すくい縫いミシンは構造上、中底にリブと呼ぶテープを貼らなきゃならんが、あれのせいで屈曲性も損なわれる。
といって、機械をはなから否定しているわけじゃない。機械のほうが優れている場合はわたしも使う。出し縫いにミシンをかけるのはそういう理由だ。出しは履き心地にも見栄えにも干渉しないし、コストも抑えられるからね。
手裁ちも変わらぬスタイルだ。たとえばクロコダイル。一般に5足といわれるところ、わたしは6足裁つことができるから、プライスもよそに比べれば控えめなものになる。なぜそれだけ裁てるのかって? それは革のコンディションがたちどころにわかるからだ。適材適所、裁断することができれば無駄なく使うことができるだろう? これだけはわたしの聖域だったが、そろそろ後進に譲ろうと思っている。ライニングを18年やってきた職人でね、給料を上げてやるからこっちをやれと先週話したところだ。
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