Vol.09 TM Paint|コンプレックスも愛くるしく。B級の美学(1/2)
最後となる第9弾は、パンクやメロコアを中心とした国内外のミュージシャン、バンドのジャケットやライブのポスター、フライヤーなどを手がけるTM Paint。中目黒のカフェ、FRAMESにて開催されていたグッズなども含めた雑貨屋型アート展「THE-B-MART」にて話を訊いた。
イベント情報TM Paint ライブペインティング
□9月15日(土)11時~16時30分□本館6階=催物場/C-2柱
TM Paint
佐賀出身のアーティスト/イラストレーター。 国内外のアーティストの音源のカバーアート、ライブポスター、Tシャツなどを手がけ、 ロックフェス、アパレルブランドへのグラフィック提供、 VANSへのアート提供など、幅広く活躍する。オリジナルアートも製作しつつ、2017年より個展PEEPSHOWとは異なる、B級雑貨屋をイメージした雑貨屋型アート展「THE-B-MART」を始動。
上京後、パンク雑誌のデザイナーへ
「親が言うには、小さい頃からずっと絵を描いていたみたいです。中学生くらいの頃になると、英語の教科書に出てくる登場人物を自分なりにアレンジして描いてみたり。当時の友人に話を聞くと、その頃から今とタッチが変わってないって言われますね(笑)」
人懐っこい笑顔でそう語るTM Paint。その後本格的に目指すキッカケとなったのは、意外にも自身の親の言葉が大きかったという。
「絵を仕事にするっていう考え自体がなかったので、高校卒業したら普通に就職するのかなって思ってたんです。そしたら親から、『あんた今までずっと絵を描いてたんだから、そういう方向に進めば?』って言ってもらえて」
これを機に、大阪のグラフィック系の学校へと進学することに。「絵一本でなく、他のことも学んだほうが仕事に繋がる」との助言をもらい、デザインやレイアウトなどを学びながらも音楽に関わる仕事を模索していくことに。その後、就職が決まる前に勢いで上京。バイトをしながら、イラストやデザインを活かせる仕事を探し始める。
「ハイ・スタンダードの難波(章浩)さんが雑誌のQ&Aコーナーで、『バンドをやりたいんですけど、どうやってメンバーを探せばいいんですか?』っていう問に対して『ティッシュ配りをやれ』って答えていて。その通りバイトやったらバンド界隈の友達ができたんです(笑)」
しかし、そこでバンド界隈の知り合いが増えるものの、中々仕事には結びつかなかったという。そんなTM Paintの人生を大きく変えたのは、パンク雑誌『PUNK ROCK CONFIDENTIAL JAPAN』編集長との出会い。
「たまたま毎号買っていた『PUNK ROCK CONFIDENTIAL JAPAN』がデザイナーを募集していて、そこに応募したんです。その雑誌は僕が大好きなNOFXのファット・マイクという人が発行人を務めるアメリカの雑誌が基になっていて。その日本版だったんです。その編集長に気に入られて、面接したら即採用になりました」
そこで3ヶ月に一冊程度のペースで発刊される雑誌のデザイン、レイアウトなどを手がけながらも、自身の漫画コーナーも担当するなど、現在の下地に繋がる経験を積んでいくことになる。
「雑誌は僕が関わるようになって3年くらいで廃刊になっちゃったんですけど、その前から編集長が『お前も名刺を配った方がいいぞ』って言ってくれて。色々なところに配ったおかげか、少しずつ仕事ももらえるようになって。でも、一番大きかったのはNOFXのファットが主宰していた『ファット・レック・コーズ』のジャパン・ツアーのTシャツを作らせてもらったことですね。これももちろん編集長の伝手で繋いでもらったんですけど、その後も連続で作らせてもらえるようになって」
そこからパンク、メロコア・シーンでの知名度は拡大。国内外の様々なバンドの作品を手がけるようになる。また、今回の「THE-B-MART」で展示されている作品群からは、パンク以外からの影響源も色濃く見受けられる。
「元々アメリカの青春映画が好きで。それも冴えない青年が主人公だったりするやつ。だから、出っ歯だったり、歯の矯正、あとはそばかすとか。そういうコンプレックスを抱えているような人物、キャラクターが愛おしく感じてしまうんです。だからこの展示も『THE B-MART』って名付けていて。イケてる絵は、きっと他の人が描いてくれるでしょ(笑)」
自らのことを「ゴレンジャーだったらアオレンジャー」と語る通り、彼は主役ではなく脇役、それも少し外しの要素のあるモノに惹かれることが多いという。今回の「THE-B-MART」で展示されている作品も値段はかなり抑えられ、絵画やアートへ対する敷居の低さを意識しているようにも感じられる。
「ちゃんとやってる方には失礼かもしれないですけど、僕はB MARTに関しては買うハードルを下げたいと思っていて。キャンパスにプリントしている作品は、大量生産もできるし、なんならぶん投げて遊んでもらってもいいくらい(笑)」
そう語る彼の顔にはどこまでも純粋な表情が浮かんでいる。自身の活動における今後の目標について聞くと、2015年に開催された初の個展「PEEPSHOW」以来となる、「ちゃんとした個展」を開催したいのだという。
「前回の個展は、ファット・レック・コーズの25周年イベントに合わせて開催したんです。それまでにやってきたパンク界隈の仕事をメインに展示したもので、謂わばポートフォリオ的な内容だったんですよね。来る人もパンク好きな方ばかりで。それはそれでよかったんですけど、今度はもっと自分のオリジナルの作品をメインにして、もっと広がりを持たせられたらなって思います。作品で言えば、今後は平面じゃなくて立体の作品とかを作ってみたいですね。敢えて可愛くないもの題材に、可愛くポップに描きたいんです」
好きなバンドでも、何かひとつのジャンルやシーンを作り上げたパイオニアよりも、一歩下がったところに位置するバンドが好きだと語るTM Paint。普段なら中々日の当たらない日陰なキャラやモチーフを、愛くるしく表現する彼の作品は、きっとこれからも多くの人々の共感を集め、魅了していくことだろう。
NEXT>『SOUL CAMP 2018 at ISETAN』のライブペイントに向けて
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