【特集|名靴を愉しむ(4)】キーワードで読み解く<ALDEN/オールデン>の魅力。
今では数少なくなった「made in USA」の靴づくりに取り組む<ALDEN/オールデン>は、老舗タンナーであるホーウィン社の「コードバン」を主に用い、それぞれに特徴を持つ「ラスト(木型)」を駆使、素材・ラスト・デザイン・作りが生み出す圧倒的な個性は、いつの時代でも男の憧れだ。きちんと手入れをしていけば長く愛着に応えてくれるこの<オールデン>。イセタンメンズネットでは、その魅力を“キーワード”別に読み解いていく。
<オールデン>輸入総代理店ラコタの吉川雅也さん(左)とメンズ館地下1階=紳士靴のアシスタントバイヤーの宮下創太(右)
今回の対談には、<オールデン>輸入総代理店ラコタの吉川雅也さんとメンズ館地下1階=紳士靴のアシスタントバイヤーで自他共に認める"オールデン好き"の宮下創太が登場。最強のアメリカ靴<ALDEN/オールデン>の魅力を語り合う前に、吉川さんが、「これがマイ・ファースト・オールデンです」とテーブルの上に置いた“14年もの”のチャッカブーツのエピソードからスタートする。
1."タフに使える"<オールデン>の魅力とは
吉川 宮下さんは<オールデン>にはどんな印象、イメージをお持ちですか。
宮下 人気の高いチャッカブーツや定番の「990」、ロングウイングチップなどを見て思うのは、決して丁寧ではないですが、アメリカ靴らしい「タフさとユーティリティ性のある万能靴」といったところでしょうか。
吉川 私がラコタに入る前の20歳頃、靴屋に勤めていて、<オールデン>を扱っていたのですが、どのスタッフも口を揃えて「この靴は良い靴だよ」と言っていたのを今でも思い出します。
宮下 このチャッカブーツが吉川さんの初めての<オールデン>なんですね。
吉川 24歳のときに買ったコードバンでバーガンディカラー、バリーラストを使用したチャッカブーツ「1339」です。14年履いていて、ヒールは2回ほど交換しましたが、ソールは変えていません。<オールデン>のソールは履くと柔らかいのに丈夫に思えます。
吉川さんが愛用する"14年もの"のチャッカ―ブーツ「1339」
宮下 うねるようなシワが特徴的で、<オールデン>らしいエイジングですね。
吉川 多少の雨の日も気にせず履いていますが、手入れをしていけば長く着用できるのも<オールデン>の魅力。履いていくうちに虜になっていって、もう手放せません(笑)。
宮下 チャッカーブーツはオンオフ兼用で使える汎用性の高さも魅力。出張にもぴったりですよね。
吉川 さまざまな場所に行っていますが、2泊3日ほどの出張ならこれ1足で十分です。
宮下 たくさん歩くときは、私も絶対と言っていいほどグッド(グッドイヤー製法)の靴を選びますが、中でも<オールデン>は、足当りが本当に柔らかく歩きやすいです。
吉川 確かにスーツでもデニムでも、気がつくと履いていますね(笑)。
2.コードバンに限らず、意外と"足馴染みが早い"のも魅力の一つ
宮下 靴は一日中履くものなので、もちろん履き心地が重要ですが、<オールデン>は履きおろしからフィットして、馴染みが早いですね。
吉川 ブランドを代表する馬革のコードバンはもちろん、牛革の「クロムエクセル」や「スエード」も柔らかいので、<オールデン>の靴を履いていただくとアッパーはもちろん、ライニングやインソールの違いに気づいていただけると思います。
宮下 「ラスト(木型)」の考え方も独特というか、哲学のようなものがありますね。
吉川 私はもちろん一通りのモデルを履いていますが、<オールデン>はラストによって特徴が異なります。今回の短期連載では、そのあたりの説明もしっかりしていきますが、フィッティングの違いもその一つ。実寸通り履くと大きく感じるモデルもあります。
宮下 <オールデン>は足幅は平均的ですが、甲が若干薄く、踵(かかと)が小さくて日本人の足に向いているというイメージがあります。
吉川 確かにインクリーサー仕様の「ヴァンラスト」のローファーはつま先から甲でしっかりホールドしており、踵の食いつきがいいので、確かに日本人の足型に合いますね。
3・初購入時は、計測器でのサイズ測定が必須!その理由は?
宮下 <オールデン>は「デザイン×ラスト」の組み合わせを知っていくと、さらにいろんなモデルを履きたくなりますが、初めて購入される方は必ずフットメジャーで測定して、スタイリストと相談してほしいです。
吉川 メンズ館地下1階=紳士靴はもちろん、弊社直営店の『ラコタハウス』でもサイズ測定をいたします。
宮下 デザインとラストによっては、サイズが0.5cmほど前後しますね。
吉川 たとえば「モディファイドラスト」は、土踏まずを支える“アーチフィッティング”が特徴です。土踏まずをしっかり合わせて、つま先にゆとりを持って履いていただくと、快適な履き心地はもちろん、靴の寿命も長くなるので、正確なサイズでしっかりしたフィッティングを体感してほしいです。
宮下 理想とするフィッティングが、英国やイタリアなど欧州の靴メーカーと考え方が根本的に違いますね。
吉川 そうですね。ヨーロッパの靴はタイトフィッティングが多いですが、<オールデン>を同じようなサイズ感で履くと、アッパーの革のシワが入る部分が変わってしまい、靴全体のバランスが崩れてしまいます。ラストや革素材、デザインの複合的な要素でサイズは変わりますが、アーチが合うと気持ちよく履けて、革靴というよりスニーカーに近い履き心地が味わえます。
宮下 次回以降は、<オールデン>の最重要キーワードである「ラスト」と「素材」にフォーカスしていくので、ぜひ“マイ・ベスト・オールデン”を見つけてほしいです。
4.木型(ラスト)で選ぶ<オールデン>
履き味の違いに直結する4つの人気「ラスト(木型)」を比較。アメリカ本国では10以上のラストがあり、日本では、日本人の足に馴染みやすいラストを中心に展開している<ALDEN/オールデン>。「イセタンメンズでは特に人気の高いラストを使ったモデルを展開しています」と、メンズ館地下1階=紳士靴のアシスタントバイヤー宮下創太。<オールデン>の輸入総代理店ラコタの吉川雅也さんは、「<オールデン>はラストによってサイズ感とフィッティングが変わってくるので、ご自身の“推しラスト”をぜひ見つけてください」と力を込める。
ブーツ「1340」
トラディショナルな空気を持つ「バリーラスト」
宮下 ラスト(木型)編のトップは、やはり「バリーラスト」ですね。
吉川 バリーラストは1930年代ごろに完成された<オールデン>では比較的歴史の古いラストになります。アメリカの靴らしい武骨さを持ちながら、スタイリッシュに見えるのが特徴です。
宮下 履いてみると、甲部分がキュッと締まって、つま先にゆとりがあるので、とても履きやすいし、履き心地がいい。
吉川 武骨さを持ちながらしっかりとフィットするのはアメリカ靴の特徴ですね。見た目にボリュームがあるように感じますが、クセがないのでどんなスタイルにも合いやすいです。
シューズ「9751」
宮下 確かにバリーラストはドレス用のクラシックなラストで、ノーズが長いので、イタリアのスーツに<オールデン>のプレーントゥの黒などがピタッと格好良く決まります。
吉川 イタリアのエレガントな服にも合うのが<オールデン>の強みですね。
ローファー「99169」
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モカシン専用ラスト「ヴァンラスト」
宮下 これから夏に向かうシーズンに履きたいのがローファーですが、<オールデン>のローファーは「ヴァンラスト」です。
吉川 つま先が垂直に立ち上がっているモカシン専用ラストで、モカ(甲にあるU字型の意匠)がきれいに乗るように作られています。
宮下 デザインがシンプルな分、とてもドレッシーな印象を受けます。
ローファー「99166」
吉川 他のラストと比べて捨て寸は短めですが、それなりにゆとりを持たせ、履き口もゆったりとしているので、スリッポンながらさまざまな足型に合いますね。
宮下 ヴァンラストのローファーはオン・オフ兼用できる汎用性の高いモデルです。
土踏まずをサポートする「モディファイドラスト」
宮下 <オールデン>Vチップの代名詞で、自分も愛用しているのが「モディファイドラスト」です。
吉川 モディファイドラストは、誰が見ても<オールデン>とわかる独自のデザインで、長年人気のモデルです。
宮下 日本人の足型に合うラストで、別注も多くラインナップしますね。
吉川 ラストはもともとハンディキャッパー向けのもので、1930年代からあったものをモディファイして今の形に完成したのが63年。アメリカのメジャーメントを基本にした“アーチフィッティング”が特徴で、ハンマートゥなどにも対応し、汎用性が広い木型です。
宮下 下から持ち上げて土踏まずをしっかり作るラストなので、扁平足を直す効果もあるそうですね。
吉川 土踏まずと甲でしっかりとホールドし、つま先や踵はゆったりしているので履きやすく、リピーターが非常に多いラストです。
宮下 足幅のあるスポーツ選手や、足囲(ウィズ)がある人でも大丈夫です。
細くて小ぶりな木型なのにアメリカを感じる「ミリタリーラスト」
宮下 タンカーブーツに代表されるラストが「ミリタリーラスト」、正式名称は「379X」です。海外では見かけないラストとして靴好きには有名です。
吉川 弊社の代表の血脇が、<オールデン>にリクエストしてをして復活したラストで、代表モデル「タンカーブーツ」は世界的にも知られてきています。
宮下 タンカーブーツはVチップと同じく、誰が見ても<オールデン>だとわかるモデルです。
吉川 第二次世界大戦中に軍靴用として作られたラストで、戦後長く倉庫で眠ったままでしたが、94年に発掘し復活を遂げました。95年にデビューしたタンカーブーツにも使用され、土踏まずを緩やかに絞っていて、踵まわりが小さく、甲が低いので、足幅が細い方でも合わせやすいのが特徴です。
ブーツ「N5907H」
宮下 細くて小ぶりな木型なのにアメリカ感がたっぷりあるので、ラギッド好きな人にはたまらないデザインです。
吉川 自分も好きな木型ですね。つま先がゆったりしているのに、甲と踵まわりはしっかりフィット感があって、足が薄くなってきている日本人の20代にも受け入れやすいと思います。
宮下 クッション性とグリップ性に優れているクレープソールは雨の日も快適に履けるので、まさにオールラウンダーです。
5.素材(革)で選ぶ<オールデン>
コードバンをはじめ、クロムエクセルやユティカなど革の持ち味を解説。アメトラの王道スタイルに<オールデン>の「No.8(バーガンディー)」を足元に添えるのは定番中の定番の着こなしだが、「最近では革好きな人やエイジングを楽しむ人の中で黒を好む方も多く、バーガンディーと同じくらい人気を二分しています」というのは、<オールデン>の輸入総代理店ラコタの吉川雅也さん。メンズ館地下1階=紳士靴のアシスタントバイヤー宮下は、「ビジネススーツの足元はシックにまとめたいと、メンズ館では特に、短靴の黒が人気ですね」という。
<オールデン>
ブーツ「1340」
*写真は「1339(バーガンディ)」です。
「シェルコードバン」の魅力は、波打つようなシワとツヤ感
宮下 <オールデン>といえばホーウィン社のシェルコードバン(馬革)です。対談の最初に吉川さんが14年間履き続けているバリーラストのチャッカブーツを見せていただきましたが、他の革にはない波打つようなシワと深いツヤ感という「コードバン」の最大の魅力が凝縮していました。
吉川 コードバンの魅力は、「履きジワの格好良さ」に尽きます。コードバンはハリがある革で下ろしたては硬く感じますが、次第に馴染みしなやかになります。
宮下 コードバンは本当にうねりのような履きジワがきれいに出ますよね。
吉川 繊維が縦方向に密に詰まっており、貝殻のように硬いことから“シェルコードバン”というのですが、形状記憶に優れるため、馴染みがよく履きジワがくっきりと波を打つように大きく入ります。シワは基本2本ですが、足の形によっては斜めや3本入ることもあります。コードバンは、自分の足の個性がアッパーに表れる革ですね。
<オールデン>
左:シューズ「56201」
右:シューズ「9751」
宮下 店頭でコードバンをお薦めすると、「手入れが大変なんでしょう?」とよく言われます。
吉川 手入れは牛革と同じで、乳化性の靴クリームとワックスを使えばOKです。磨けば、革の中から光るような深いツヤが出るのがコードバンで、手入れが好きになりますよ。
宮下 コードバンは汚れ落としに注意したいですね。
吉川 コードバンはウエスタンブーツにも使われていたほど丈夫な革ですが、汚れ落とし成分の強いリムーバーを使うと傷める可能性もあります。自分はサフィール社のレザーバームローションを使って汚れを落としています。
<オールデン>
シューズ「29364F」
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コードバンよりタフに使える「クロムエクセル」
宮下 <オールデン>というとどうしてもコードバンが脚光を浴びますが、自分は「クロムエクセル」がどんどん好きになっています。革がクタッとしてくる感じが相棒感があって、自分だけにわかる表情が出てくるんですよね。
吉川 ホーウィン社のクロームエクセル(牛革)は、肉厚ですが油分が強いので柔らかく、足に馴染みやすい素材です。水も弾くし、アメリカではワークブーツによく使われますね。キズがついてもそのまま履き続けていくうちにどんどん味になっていきます。
宮下 <オールデン>の中でもカジュアル系のブーツに使うことが多かったクロムエクセルですが、最近はドレス系にも使うようになってきていますね。
吉川 革が馴染みやすくて、さらにこの「29364F」は、フレックスコンストラクションと呼ばれる<オールデン>独自のソールと相まって、とにかく履き心地がソフトです。
宮下 ソフトなんですが、タフなのもクロムエクセルの魅力です。
吉川 多少の雨や土埃も気にせず履けます。自分は出張のときよく履いていって、汚れや傷が入っても手でこすればすぐ落ちます。革が油分を含んでいるので乳化性クリームとワックスで磨くと、コードバンと似たようなツヤが出ますよ。
宮下 ある意味、万能レザーです。
<オールデン>
ブーツ「N5907H」
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二度と手に入らない「ユティカ」のタンカーブーツ
吉川 ホーウィン社が手がける「ユティカ」は、グローブレザーに近い質感で、厚みはありますが伸びがよく、油分が多いので水弾きもいいのが特徴です。着用するにつれ野球のグローブ同様、飴色に変化していく、アメリカ人が大好きな素材感ですね。
宮下 油分が多くて肉厚で、くたくたになる感じが革好きにはたまりません。でも、ユティカはもう手に入らないとか。
吉川 <オールデン>でユティカの取り扱いを終了するので、「ユティカ×タンカーブーツ」という組み合わせはもう二度と手に入りません。
宮下 手前味噌ですが、伊勢丹別注モデルは貴重です!
<オールデン>
ローファー「99169」商品を見る
季節関係なく売れている「スエード」
宮下 メンズ館地下1階=紳士靴のスタイリストと、「<オールデン>のスエードいいよね」とよく話をしています。独特の表情の豊かさがありますね。
吉川 表情が豊かなのがカーフスエードで、毛足が短いのがキッドスエードです。どちらもヨーロッパの上質な素材を用いています。
宮下 若い世代が今、オーセンティックなアイビースタイルを好んでいますが、ワンランク上のローファーとして<オールデン>を選んでいきます。
吉川 今やオールシーズンで提案できる素材となったスエードは足あたりがよく、手入れも楽なので、ぜひ一度履いてほしいです。
<オールデン>
左:シューズ「54416」
右:ローファー「99166」
上質なカーフに型押しする「アルパインカーフ」
宮下 では最後に紹介するのは、細かいシボが特徴的なアルパインカーフです。
吉川 通常型押しレザーは、安価な革を使用することが多いですが、こちらは上質なカーフを用いています。表面は一般的なものと同様、パリっとしたハリがあり、水分が染み込みにくいですね。
宮下 アルパインカーフはベースの素材が上質なので、ハリはあるのに薄くて足馴染みにがよく、ソフトに履けますね。
吉川 型押しはキズが目立ちにくいので、毎朝の通勤や雨天でも臆することなくお履きいただけます。もちろん、お手入れは必須ですが、やり方次第で質感の変化や陰影がつき、スムースレザーと同様にエイジングしていきます。
*価格はすべて、税込です。
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メンズ館地下1階=紳士靴
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