あたかも皮膚のようにフィットする、快適
Photo:Bettmann/Getty Images
紳士に必須なグローブ
ダンディの始祖ボウ・ブランメルは、「完璧な紳士は一日に6回手袋を替えるものだ」と豪語している。もっとも19 世紀初頭の紳士のマナーは、女性の前で素手を出すことを禁じていた。握手なども、我々日本人はわざわざ手袋を脱いで素手で交わすのが礼儀と考えるが、当時はむしろ手袋のままするのがエチケットだったのである。ブランメルならずとも、紳士はTPOに応じてさまざまな手袋を使い分けていたのだろう。
►for town and country│カジュアル
外縫いのペッカリーは丈夫なうえに、使い込むほどに独特な風合いが増す紳士の必携品。カントリージャケットやコートの胸ポケットに挿しても映える。
<メローラ>手袋 各38,880円
■メンズ館1階=シーズン雑貨・装身具
たとえば、昼の礼装(モーニングコート)には、バックスキンなどのグレー。夜の正礼装(スワローテールコート)には、キッドスキンなどの白。ビジネス(フロックコート)には、カーフスキンやシープスキンの黒、あるいはモカと呼ばれたスエードの黒、グレー、ブラウン。カントリーやタウン(ツイードジャケットやキャバルリーツイルのコート)には、ナチュラルタン、ダークブラウン、グレーのペッカリー。さらに防寒用として、裏ボア付きのラムスキンなどが挙げられる。
また手袋の色は、帽子と靴に合わせるのが基本的なテクニックと考えられている。ブラウンやタンの手袋には、帽子も靴も茶系統。グレーの手袋には、帽子も靴も黒という具合である。
►for business│ビジネス
指の縫製部が内縫いになったものは外縫いのものよりドレス度が高い。柔らかで手になじみやすいシープスキンの紺や黒はビジネスシーンで広範囲に活躍してくれる。
<マドヴァ>手袋 20,520円
■メンズ館1階=シーズン雑貨・装身具
►for business│ビジネス
アクティブな雰囲気をもつ外縫いのグローブをビジネスに常用する紳士も少なくない。ブラウンのシープスキンはそんな行動派の小道具として最適だ。
<マドヴァ>手袋 20,520円
■メンズ館1階=シーズン雑貨・装身具
複雑な趣味性を反映させて
筆者が初めて手袋をオーダーメイドしたのは、漫画でおなじみ、東京都北区赤羽だった。この土地には昔から銀座の老舗洋品店の下請け職人さんがたくさん暮らしていた。知り合いのお洒落な商店主からそんな手袋職人さんを紹介してもらったわけである。その職人さんは、まず筆者の手の甲の周囲を採寸。次に中指の先から手首あたりまでの長さを計測してから、チラシの裏側の白い紙の上に筆者の手を乗せ、鉛筆で外周をなぞってメジャーリングは終了。革はペッカリー、指の部分は外縫いで、という筆者の注文を、その職人さん「ペッカリーの在庫はグレーしかないよ。いつもは婦人用の肘が隠れる長さのキッドスキンで、指が内縫いの手袋ばかり作っているから、外縫いは面白そうだね」と、快く受けてくれたのである。
数週間後に完成した手袋は、親指と他の指を違う職人に縫わせたブランメルとまではいかないが、文庫本のページが手袋をしたままでめくれるほど手にジャストフィットしていて快適だった。しかもペッカリーは、汚れたら洗いが可能だから、その後20年ほど愛用できた。
►for motor sports│モータースポーツ
運転手の発汗や緊張感を緩和し、的確な操作を補助するドライビンググローブ。手首の寒さを緩和するモーターサイクル用、指先をカットしたクルマ用などが重宝する。
<デンツ>手袋
左:43,200円、右:51,840円
■メンズ館1階=シーズン雑貨・装身具
►for golf│ゴルフ
グリップしたときの指と手のひらの形状に近づけたグローブ。ペッカリー革を立体縫製しているから、使い込むほどにフィット感とホールド感は向上する。
<キャスコ>手袋(左手のみ) 12,960円
■メンズ館7階=紳士ゴルフクラブ・用品
筆者は、三冠王の落合や女性ゴルフの帝王アニカ・ソレンスタムなど、ベアーハンド(素手)でグリップの微妙な感触にこだわる職人気質のアスリートは大好きだが、さまざまなリスクを伴う都市の探索には、やはり上等で手になじむ手袋が手放せない、と思う者である。
文= 遠山周平
とおやま しゅうへい●1951年東京都生まれ。「思索なき多見に益なし」が信条。最近はファドと革新者、モダニズムとクラスウエア、テクノロジーとサステイナビリティをテーマに服飾評論を展開。著書に『背広のプライド』『洒脱自在』などがある。
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メンズ館1階=シーズン雑貨・装身具
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