イセタンメンズネットでは、テーラー山口が仕立てる1着のスーツが出来るまでの約3ヶ月にわたり密着取材を行いました。初めてのオーダー体験とは。正反対のスタイルである英国とイタリア・ナポリの仕立てでは、着心地やディテイルがどのように異なるのかなど、オーダーをお考えの皆さまにとって指南書となるような内容を取り上げていきます。

2月22日(水)更新

①生地選び・採寸



2月初旬、テーラー山口の元に訪れたのは、メンズ館5階=ビジネスクロージング/メーイドゥメジャーのスタイリスト 羽鳥幸彦。イセタンメンズに入社後、オーダーシャツの担当を経て現在はメジャーメイドにてスーツのオーダーを担当し、正にスーツ畑一筋。スーツへの情熱も大きく、お客さまからの信頼も厚いスタイリストです。仕事柄スーツは、約20着所有していると語る羽鳥が、とある“きっかけ”から今回山口にスーツオーダーの依頼をしに訪れました。

羽鳥 実は3年前にメジャーメイド担当になってから、スーツに対して容姿が追い付いていないと、感じるようになりました。身長も低くいので、年相応に見られることが少ないですね。30歳を目前に控え、年相応のスーツを着たいという気持ちが大きくなりました。また、結婚していて子供がいるのですが、今度卒園式に出席することになり、フォーマルにも適したスーツの必要性も出てきて…。私は毎日、ご来店くださるお客さまに合わせて、その日に着るスーツを選ぶようにしています。接客という仕事柄、人からの印象は非常に気にしています。さらに、お客さまの中でも人生の節目の大切なイベントや式典などに出席されるために、スーツをお作りになられる方も多くいらっしゃいます。そのお客さまの中にも、やはり印象を大切にしたいとお考えの方が多いですね。


羽鳥 そんな考えを巡らせているときに、山口さんのスーツと出会いました。サンプルを試着させてもらった時に、非常に軽やかな着心地で驚いたのを覚えています。私が普段着ているのは、肩パットがしっかりと入り、ウエストが強調されている、ブリティッシュのいわゆる構築的な“補強服”のようなものが多く、選ぶ生地も重いので尚更。
そこで、スーツの知識を増やし、ブリティッシュと逆を行くナポリの丸みを帯びた軽い着心地のスーツを体感してみたい、もっと「大人の印象」づけられるような装いを。と思い初のオーダーに踏み切りました。このような要望を伺いつつ、山口と共に生地選びと採寸を行いました。今回は、イタリア ドラゴ社の光沢があり非常に軽い生地を選択しました。


山口 羽鳥さんの要望について、今回スーツを作るにあたりナポリのシルエットと普段着ているブリティッシュなスーツと比較すると、いくつかのポイントが生まれます。ジャケットは着丈の調整、肩線はよりナチュラルに、胸にボリュームを足します。またパンツはしっかりとクリースラインがしっかりと落ちるようにすることで、落ち着いた印象に仕上がると思います。さらに、採寸について山口は基本の3サイズに加えて、肩幅・着丈・袖丈など最低限に留めているとのこと。これは、寸法に囚われ過ぎると型紙が引きにくくなり、仕上がりにも影響するからという理由から。これはナポリで学び、自分の中で解釈して今の方法に落ち着いたものだといいます。また、採寸をしながらお客さまのボディバランスに対するコンプレックスを見つけ出し、どこのポイントを足し引きすれば、より美しく品格ある仕上がりになるのかも見極めます。この時には大まかな仕上がりイメージをしています。

3月31日(金)更新

②裁断

メンズ館4階のテーラー、山口信人と、5階のスタイリストによる、初めてのオーダー体験を追ったこの企画。第2回目は、前回の採寸データを元に、型紙をお越し生地へ写し裁断するまでをご紹介します。


まずは、測った採寸を元に、型紙を作成します。以前は、生地に直接チョークで線を引き、裁断する「直裁」という方法をとっていましたが、現在では型紙を作成し残しています。



山口の裁断法のベースは、ナポリの様々なテーラーから学んだもので、いくつかの裁断法を彼なりに解釈し導き出したもの。さらに、型紙に線を引く際は、寸法にとらわれ過ぎず画家が絵画を描く時のように、滑らかで美しい線を引くよう心掛けています。これはナポリの師からの教えで、引いた線がそのまま服のラインとして影響が出てしまうためと話します。


また、使用する裁断バサミは、約100年以上も前にイギリスの「ウィルキンソン」社で作られたものを使用しており、「一生大切にしたいもの」だと語っています。

次回は、仮縫いされた状態のジャケットとパンツを実際にスタイリストの羽鳥が着用し、補正を入れ様子をお届けします。

4月19日(水)更新

③仮縫い・フィッティング


メンズ館4階のテーラー、山口信人と、5階のスタイリストによる、初めてのオーダー体験を追ったこの企画。前回は、型紙作成と裁断を行いました。第3回目は、裁断し終えた生地を体形により合わせるために、シルエットやディテイルの状態を確認するために、裁断した布を仮に縫い合わせて仕上げる仮縫いとフィッティングを行います。

この工程では、最終的な仕上がりに繋がる本縫いと同様の副資材を使用し、服を手縫いで仮組みしていきます。服に対して身体のバランスを確認し、補正を加えていきます。
補正を行うには大まかに2つの意味があります。まずは『体型補正』です。その人がもつ身体のバランスに服を沿わせるために、不用意なシワや余りなどを修正していきます。もう一つは、『美しく見せるための補正』です。視覚的な効果で、身体の欠点やなりたいイメージなどに近づけるために行われます。


山口が行う仮縫いには特徴があります。最初の仮縫いには袖の無い身頃のみの仮縫いでフィッティングを行います。これは補正によってアームホール(袖ぐり)の寸法が変わってしまうからです。しっかりと身頃の補正をとり、美しいラインに仕上げるためにも必要な工程です。
この仮縫いでは、先々の工程から仕上がりまでを見据えて行う必要があると言い、非常に手の抜けない作業だと言います。

表地と芯地を組み合わせ、手縫いで仕上げたジャケットとパンツを実際に着用していただきます。より体にフィットするように補正を入れたり、フィッティングやスタイルなど対する意見をここで伺い、お客さまとテーラーの間にある仕上がりイメージの精度を高めていきます。



山口:実際に仮縫いの段階で羽鳥さんに着用いただきましたが、いくつか補正を入れる必要があります。まずは、ジャケットですが、体型に対して右肩が下がり気味なので、右の後ろ見頃の肩をつまんで引き揚げます。さらに、羽鳥さんがイメージする大人らしい雰囲気に近づけるためにウエストにはあえてゆとりを持たせました。また、ポケットの位置もこの時に確認しています。パンツは、足が美しく見えるライン=クリースライン(パンツのセンターライン)が外に逃げ気味なので補正を入れました。


羽鳥:補正の前後がその場で確認でき、リクエストにもその場で応じてもらえるのがオーダーならではの醍醐味ですね。また、仮縫いフィッティングの時に袖が付いていないので、仕上がりのイメージがしにくいですが、山口さんなりの理由も伺うことができ、納得しました。


次回は、この工程を受けて、再度補正したものをフィッティングし中縫いに進みます。

5月1日(月)更新

④仮縫い・フィッティング(2)

メンズ館4階のテーラー、山口信人と、5階のスタイリストによる、初めてのオーダー体験を追ったこの企画。2回目の仮縫いフィッティングの工程についてご紹介します。



「本来であれば、この工程では袖のついたもので行いますが、この企画に合わせて袖を縫い付けていない状態で、仮縫いフィッティングを再度行いました。身頃は仮縫いフィッティングの段階で、約半分程度仕上がっています。」と山口。
今回の工程ではさらにポケット・ラペル・上衿が付き、お客さまにとっては、誂えるスーツへのコーディネートを考え出せるタイミングだといいます。


左:最初の仮縫いフィッティング時のシルエット、右:今回の仮縫いフィッティングを終えた際のシルエット

前回は、『体型補正』を中心に行い、スーツを身体に沿わせるための補正でした。
これに対して今回は『美しく見せるための補正』として、なりたいイメージへの雰囲気づくりや、細かな補正を入れていきます。ふんわりとした出来上がりイメージを、洗練し固めていく作業は、微細なディテイルにまで神経をはりめぐらすことで、見えてくるものがあると言います。


山口 ジャケットの補正では、羽鳥さんのなりたい「大人」を感じさせるシルエットに対し、少しコンパクトでスリムに見えてしまいます。その結果、身体に沿わせすぎて幼く見えてしまいます。
前回補正した肩とのバランスを見ながら、ウエストのくびれを残しつつややゆとりを持たせています。

羽鳥 前回のフィッティングと比較して、肩幅やウエストなどの補正も入り、自分のなりたい雰囲気に近づいているという実感を得られました。ジャケットのラペルの返りも非常に美しく驚きました。
ウエストに関して、自分が所有しているジャケットの中でも一番太く余裕がありますが、シルエットがしっかりと出ており不安は感じられませんでした。
いつも体に沿わせようと、コンパクトに作っていましたが、それがかえってなりたい雰囲気とは真逆だったんですね。この企画を通してシルエットの大切さも理解が深まった気がします。

補正箇所によっては、1cmに満たない場合もありますが、この僅かな差が仕上がりや着る人の印象を大きく左右することになると山口は言います。


山口 また、パンツのクリースラインに再度補正を入れ、しっかりと、まっすぐに、下へ、美しく落ちるようにしています。

羽鳥 パンツに関しては、ウエストに余裕を持たせ股上が深く履き慣れない感覚があります。しかし山口さんから「ブレイシーズを使ってパンツを釣り、股上を深く、脚の付け根にパンツがしっかりと当たるようにはくことで、しっかりと脚長効果が狙える」とアドバイスを受けました。
真っ直ぐ下に伸びるクリースラインの視覚効果と相まって、身長の低い私でも脚が長く見えるようになりました。

イージーオーダーでの補正では、脚を美しく見せるにも限界がありますが、フルオーダーの場合このように相談しながら、テーラーと直接やりとりすることで、美しいシルエットが実現できるのも、フルオーダーの醍醐味ですねと羽鳥は続けます。

次回は、この工程を受けていよいよ袖が付いた中縫いに進みます。

10月27日(金)更新

⑤中縫い


メンズ館4階のテーラー、山口信人と、5階のスタイリストによる、初めてのオーダー体験を追ったこの企画。今回は中縫いの工程に進みます。


第2回目・3回目と2度に渡り仮縫い・フィッティングを行い、体に沿わせ、なりたい「大人」のイメージに近づくようなジャケット・パンツの補正を行ってきました。
さて、今回はいよいよラペル・袖のついた、ジャケットに袖を通し全体的な完成度を確認していきます。実際に着用した状態で歩いたり、腕を左右上下に振り服の動きを見ていき、最終的な補正が必要かどうか見定めていきます。


山口 前回、羽鳥さんがなりたいイメージに近づけるようなシルエットの補正を行いました。最初の仮縫い・フィッティングから比べると、非常にスーツが馴染んできたなという印象を今回受けました。
ジャケットに関しては、しっかりと狙い通りに補正が反映されています。今回、動きを確認し、ややウエストを詰めて補正は終了にしようと考えています。
パンツについては、クリースラインが真っ直ぐ落ちるようになったので、このまま仕上げに入ります。


羽鳥 まずはジャケットの圧倒的な軽さ。選んだ生地もさることながら、着ているのを忘れるほど軽いです。さらに袖が付き、ここまでアームホールが小さい服を着たのは初めてです。腕が動かしやすいですね。というのも、これまでのジャケットは大抵、腕やヒジに引っかかってしまい、ここまで可動域は広くありませんでした。腕を下した時に、余計なシワも出ず自然な着心地です。また、背中のシルエットも美しく、後姿も決まりますし、襟ののぼりの吸い付くような感覚もたまりません。肩幅のボリューム、ウエスト、裾までのラインが華奢に見えず、嫌ななで肩のシルエットにならず、コンプレックスだった体系をバランスよく補正しているので、前回よりももっとイメージに近づいていると感じ、フルオーダースーツの可能性に驚きを隠せません。



パンツは、クリースラインが真っ直ぐ落ちていて、上から見ていて気持ちがよく見惚れてしまいます。後ろもヒップから裾までしっかりと落ちていて、ヒップの位置が高く感じられます。さらに、これまでイージーオーダーでは、脚を細く・長く見せるために補正を何か所も入れても落ちなかったラインが落ちていて、長年の悩みも吹き飛びました(笑)サイドからみるとやや太く感じられますが、正面から見るとクリースラインの効果もあり、決して太くなりすぎず美しいシルエットだと感じています。

11月3日(金)更新

⑥完成


「フルオーダーは初めてでしたが、新鮮で素晴らしい体験でした」というのは、メンズ館4階のテーラー山口信人が主宰する<LA SCALA/ラ・スカーラ>のスーツが出来上がった、メンズ館5階=ビジネスクロージング/メイド トゥ メジャーのスタイリスト羽鳥幸彦。「ここぞというときに着ていきたくなるスーツです」と胸を張ります。
 

「バランスの良いスーツですね」と褒められます

出来上がってもう3~4回着ていますが、着るたびに自分の身体に馴染んでくる感じがわかります。自分が担当しているメイド トゥ メジャーの同僚や上司は、「きれいなスーツだね。どこのスーツ?」と聞いてきて、いろんなところを触られます(笑)。お客さまからは「そのスーツはここで作れるのですか?」と尋ねられたり、お取組み先の方からも「バランスの良いスーツですね」と褒められるので、圧倒的に違いが伝わっているのを感じます。


ジャケットは、肩幅のバランスとウエストにかけてのシェイプがきれいで、そのラインに対してフロントカットがきれいに回っているので、なで肩が強調されていますが、男性らしいシルエットになっています。ラペルの甘い返りは薄い胸板をカバーするもので、袖もボディのバランスに合わせて細すぎません。


山口さんと話し合ったイメージ以上の仕上がりです

山口さんとのスーツ作りは、最初は緊張しましたが、話していくとプライベートな話や洋服の話に広がって、彼のキャラクターも好きになりました。自分の最初のイメージの「大人っぽく見られたい、こういうときに着たい」という思いをくみ取ってくれて、それ以上のものを作り出すのは、きっと別次元で見えているものがあるのだなと思います。山口さんと話していて気づいたのは、自分も改めて“スーツを着る意味”を考えられたこと。店頭で服を販売している立場としてとても勉強になったので、これからの接客に活かせると思います。


新しい着こなしのイメージが湧いてきて楽しい

<ラ・スカーラ>のスーツを着ていくとその良さがどんどん分かってきて、「違う生地ならどんな着心地になるのかな」とイメージが広がっていきます。また、自分はメイド トゥ メジャーで主にブリティッシュを担当しているので、持っている服がブリティッシュを軸にしたワードローブなのですが、この<ラ・スカーラ>のスーツに合う柔らかいイメージのシャツやタイが欲しくなりました。4階=インターナショナル ラグジュアリーの「ラ コルタ アルティジャーノ(職人集団)」編集コーナーにある<ボリエッロ>のシャツや<タイ ユア タイ>のネクタイが気になりますね。


既製服にはない魅力がたくさん詰まっています

スーツが出来上がってから、子どもの保育園に気合いを入れて着ていったら、まわりの反応が全然違いました(笑)<ラ・スカーラ>のスーツの良さを肌で感じたので、皆さんにもぜひおすすめしたいと思います。スミズーラは高価なものですが、自分が「こうなりたい、こう見られたい」を具体的にカタチで実現してくれるもの。既製服にはない魅力がたくさん詰まっていると思います。

また、<ラ・スカーラ>の魅力をより感じることのできるinstagramがスタート!1着のスーツが出来る様子を山口氏自らの目線で発信していきます。ぜひアカウント @sartoria_lascala をフォローの上ご覧ください。



<ラ・スカーラ>
■オーダースーツ 2ピース 1着:356,400円~
■納期:ご注文から約3ヵ月後
*ご予約方法:店頭またはお電話にて承ります。03-3225-1111(大代表)/メンズ館4階=インターナショナル ラグジュアリー 担当:山口 信人
*ご来店の日程をお伺いの上、ご来店いただきオーダーについてのご相談をさせていただきます。


*価格はすべて、税込みです。

お問い合わせ
メンズ館5階=メンズテーラードクロージング
03-3352-1111(大代表)