【連載|私の愛用品】Vol.3 太田陽介|13年目の<EDWARD GREEN/エドワードグリーン>
伊勢丹新宿店の看板セール「紳士ファッション大市」などの催事の企画・運営を担当するセールスマネージャー太田 陽介もそんな一人。でもちょっと変わっているのは、エイジングが楽しめる“皮革”フェチだということ。取材のテーブルの上には、3足の<EDWARD GREEN/エドワードグリーン>と、「まだ名刺がない入社1年目に買った(笑)」という<Whitehouse Cox/ホワイトハウスコックス>の名刺入れなどレザーアイテムが並びます。
紳士靴担当の時に、靴職人から言われたひとこと
イセタンメンズネットの愛読者の中にも、「高い靴だから、年に何回か、ここぞというときにしか履かない」という方は多いと思います。今回登場する太田もそういう考えだったそうで……。
入社3年目で紳士靴担当のとき、「ビスポークしたことがない人は、ビスポークを語るべからず!」と思い、フィレンツェの靴職人のホールカットのラウンドトゥを誂えました。仮縫いを経て出来上がったハンドソーンの靴は、おろしたてから柔らかくて、返りも良く、とても履きやすい。でも高価なものなのであまり履けませんでした。
次にその職人が来日した時に履いていき、「今日で履くの2回目なんです」と言ったら、ものすごくガッカリした顔をされました。「もっと履いてくれれば、もっと良い感じになるのに」と…。実際本人はすごく履き込んだ靴を履いていて、まさに“こうやって履くべし”という見本そのもの。それを見てから、考え方が変わりましたね。
デニムと古着とスニーカーの青春時代から、大人への目覚め
もともと凝り性な性格で、ミニ四駆ブームからコンピューターゲームにはまって、思春期はアイドル全盛期で、『BOON』などのファッション誌を夢中になって読んでいました。高校では剣道部に所属していて1年のときにインターハイの応援で京都に行ったんですが、新京極の古着屋で60年代の<チャンピオン>のヴィンテージスウェットを2万円で買って、スクールカラーの<ナイキ>エアフォース1も見つけて買って帰りました(笑)。
さらに、東京の大学に入ってから、『BOON』に<バブアー>が載っていて、「カッコいいな」と1年生のときに購入。オイルドの生地をデニムと同じ感覚で着込んで味出しを楽しんでいました。
2年生で<フェリージ>のバッグの革の良さと出会って、同じ時期に<White house Cox/ホワイト ハウス コックス>の2つ折り財布のニュートラルカラーが欲しくて、当時の伊勢丹「男の新館」に買いに行ったんですが売り切れでした。でも、担当してくれた店頭スタイリストは、<ホワイトハウス コックス>を扱っている新宿近郊のセレクトショップに電話して在庫を確認してくれて、「ここまでしてくれるなんて」と驚いたことを覚えています。
『BOON』や『Begin(ビギン)』を経て、雑誌『MEN’S EX(メンズ・イーエックス)』を買うようになって、ちょうどクラシコイタリアが全盛のころで、服飾評論家の落合正勝さんの連載などを読みながら、「これは凄い世界だな!」と。大学生の自分のライフスタイルとスーツは乖離していて、スーツはビジネスマンが着るもので、スーツ自体をカッコいいとは思っていませんでしたが、クラシコの世界を知ると、ディテールなどどこかデニムの蘊蓄(うんちく)と相通じるものがあるし、着流す感じがかっこ良く感じました。経年変化するものが好きなので、クラシコのスーツも長く着て味を出していくところに惹かれましたね。
伊勢丹入社前に、雑誌の切り抜きを手にヨーロッパ旅行へ
祖父と父親は美術史研究をしていて、自分もその血を継いでいるのかモノの背景などを調べるのが好きだったのと、それまでの人生経験上、「好きなことじゃないと一生懸命になれない」のを自覚していたので(笑)、2004年に伊勢丹に入社。
お客さまに、自分の好きなライフスタイルを発信できる立場になれるといいなと思いました。
伊勢丹に入社する前、雑誌から自分の好きなショップの地図を切り抜いて、それを持ってヨーロッパ5カ国を回りました。ハロッズやギャラリーラファイエットなどの老舗百貨店や、イタリアではローマ、ミラノ、フィレンツェにあるサルトの店を見たり。観光地そっちのけで、サヴィルロウで写真を撮ったり(笑)。入社後に着るシャツやネクタイもこのときに買って帰りました。
大学4年生のときに伊勢丹でアルバイトをして、当時扱っていたナポリ仕立て(国産)のスーツ2着購入。それを着て配属になったメンズ館地下1階=紳士靴で接客を担当しましたが、「売っている靴を履きたい」と、1足目に<グレンソン>を買いました。それももちろん今でも履いています。
それから入社した秋に<エドワードグリーン>の1足目を当時10数万円を分割払いで購入。ちょうど靴に対して「耳年増」になっていた時期です(笑)
<EDWARD GREEN/エドワードグリーン>の名作「ドーヴァー」
良いといわれる靴を履いてみないとわからない
皆さんもご存知のように、クラシコイタリアブームのとき、“男のコレクターズアイテム”としてクルマや時計と同じように靴にも注目が集まり、<トリッカーズ>ブームのような英国靴にフォーカスが当たりました。そのとき、「スーツと同じぐらい惹かれるアイテムだな」と思いました。昔スニーカー、今革靴ですね(笑)。
そう思っていた自分が紳士靴に配属になって、「良いといわれる靴を履いてみないとわからない」と買ったのが、1足目となる<エドワードグリーン>のモデル「ドーヴァー」、606ラストです。色は黄色みがかったライトブラウンの“エイコーン(どんぐり)”でしたが、我流のエイジング加工で今はこんな色になっています。
手に入れてうれしくて、初めて履く前に磨いてから履きおろしましたが、踵(かかと)とソールが硬くて硬くて(笑)。でも馴染んできたら、3足持っている<エドワードグリーン>の中でこれが一番履きやすい。今でも月に何度か履きますね。店頭で売っているものを履いていると、お客さまへの説明に説得力が出て、会話のきっかけにもなります。
キズが入ったときは落胆しましたが、これはこれで仕事の勲章
それから入社2年目に同じく<エドワードグリーン>の「グラッドストーン」ラスト202を買いました。ロングノーズ全盛のころのものですが、今はクラシック回帰がトレンドなので、また出番が増えそうです。
それから3足目は、府中店に勤務していたときに、「カドガン」ラスト888を購入。“何にでも履ける最強の靴”としてこの茶色のセミブローグを選びましたが、3足並べると新米な感じがしますね。<エドワードグリーン>は以上の3足を育てていこうと思っています。
メンズ館はイベントや催事の設営が毎週のようにあって、ドーヴァーにスリキズが入ったときはとても落胆しました(笑)。でも、海外ブランドのオーダー会などで来日する彼らの靴を見ると、それほどピカピカでもなく、本当に歩くための道具として扱っている。それを感じてからは、「キズがあってもきちんとケアしていけばいい。これはこれで味になって、一種の仕事の勲章」と思うようになり、高い靴を履いても気を遣うことがなくなりました。
バリバリ履いて、自分なりにケアして、それが味になっていく
靴の手入れは好きな方だと思いますが、決して教科書通りではありません(笑)。ブラシでサッと汚れを落として、クリームを塗って、ポリッシュする。至って普通にケアする程度です。
正直、入社早々に<エドワードグリーン>を買ったときは、知識過剰の状態で、当然履き込みも少ないし、気は遣うし、靴が浮いていたと思いますが、34歳になってやっと「今の自分の方が似合うな」と思えるようになってきました。若いときに買ってよかったなと思います。今買って13年履くと、47歳ですからね。
若いときに「高い投資だな」と思っても、永く大切に使うことで味が出て愛着が沸き、結果的に持ちが良い。
“本物”を買って着たり履いたりすることは大事だなと思います。去年、久しぶりにエイジングしていくためのクラフトデニムを買いました。いくつになっても穿いて楽しめるジーンズに育てていこうと思います。