2016.08.05 update

【イベントレポート】まずは隣人を楽しませる──モダンジェントルマンの教えをサプールに学ぶ

伊勢丹新宿店メンズ館にて開催中の「PITTI IMAGINE UOMO at ISETAN MEN’S」のスペシャルゲストとして、メンズ館を”パレード”したサプール。ある者は華麗にステップを踏み、ある者は気さくに肩を抱いて写真に収まる。店頭のスタイリスト、お客さま関係なく、手を取りともにダンスする。あの時間、メンズ館全体がハッピーなムードで包まれていた。


撮影:茶野 邦雄


既にご存知の方も多いかと思うが、改めて説明すると、「サプール」とは「サップ」と呼ばれる人々の集まりで、サップとはフランス語で「エレガントで高貴なムードを纏った集団」という一文の頭文字を取ったもの。
彼らの出自の背景には、コンゴ共和国が長らくフランスの植民地支配を受けていたことが、ひとつ挙げられる。仕立てのいい、パリッと清潔な「洋服」に身を包んだ西洋人は、彼らの憧れだった。やがてそこに、アフリカ特有の明るく華やかな美意識が結びつき、エレガントに身を飾りたてる集団が生まれた。

ちなみに、現在でもコンゴ周辺では紛争が続き、コンゴ共和国も平均月収3万円という経済状況だ。しかし、彼らは絶対に着飾ることをやめない。なぜか。それはファッションで世界を幸せにできると信じているからだ。サプール歴43年で、本国でも「大サプール」と慕われるムィエンゴ・セヴラン氏はこう語る。

「サプールは徹底して暴力を排除します。コンゴ周辺では内戦も続いている状況です。私の願いはコンゴ共和国だけではなくて、世界中すべての人がサプールになること。そうすれば、戦争なんてあっという間に終わってしまうはずです」


撮影:茶野 邦雄

この”教え”は彼のように長くサプールを続けてきたわけではない、若いサプールにも浸透している。今回来日メンバーの中では最年少24歳のマロンガ・ジョベル氏もまた、着飾ることに平和の願いを込めている。
「コンゴで”着飾る”という行為は『私は平和的な人間であり、暴力は望まない』というメッセージを、他人に向けて発信することなんです。争いが絶えない国ですから、すこしでも平和へ貢献できればと思っています」


撮影:茶野 邦雄


彼らは母国のみらず、世界の恒久的な平和を願っている。集まった観衆に対して、サービス精神たっぷりに愛嬌を振りまく様は、「世界を平和にしたければ、まずは周りの人から」ということを身をもってアピールしているようだった。ファッションは自由だ。そして、人が着飾ることの理由もさまざまだ。自らの気分の高揚、自分のためだけにお洒落したっていい。しかし彼らに習うと、自分自身のお洒落を楽しむことは、周囲の人の幸せに繋がると、考えることもできる。

現代経営学の父ピーター・ドラッカーは「企業の利益追求は、自動的に社会的責任の遂行を意味する」と述べている。社会性のあるジェントルマンならば、そう考えるべきだ。つまり、自分自身を飾り立てること自体が、なんらかの形で他人の幸福に寄与すると。身を飾り立て、周囲への気配りを忘れない彼らの存在が、これがこじつけではないことを示している。

Text:Morishita Ryuta

茶野 邦雄
1959年滋賀県出身。大学卒業と同時にフリーランスカメラマンとして活動開始。1984年に最年少で日本広告写真家協会(APA)の正会員に推挙される。1986年渡米し、NEW YORK YOMIURI PRESS社勤務。欧米各国で取材撮影を敢行。1991年沖縄に移住。現在沖縄を拠点に広告写真、サプールの写真をライフワークとしてる。
www.sapchano.com

アフリカ大陸コンゴの世界一おしゃれな紳士"SAPEUR(サプール)"写真展 THE SAPEUR
□2016年7月23日(土)〜8月31日(水)11時~19時
□プラザハウスショッピングセンターフェアモール3F ライカム アンソロポロジー(沖縄県沖縄市久保田3丁目1番12号)
■入場料:500円(中学生以下無料)



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03-3352-1111(大代表)