2016.04.18 update

【インタビュー】<ernest/エルネスト>エンリコ・メッツァドリ|クラシコの第二世代


<エルネスト>はパルマのファクトリー、<ジャンフランコ ボメザドリ>が手掛ける1ブランド。ジャンフランコの娘婿、エンリコ・メッツァドリが2012年に立ち上げた。

「若いころは保険会社で働いていましたが、妻と結婚して義父・ジャンフランコの会社に入りました。それまでもファッションは大好きでしたから、好きな仕事に就けて喜ばしく思っていましたが、モノづくりに関してはまったくの素人でしたので自分がブランドを立ち上げるとは思ってもいませんでした。
元サルトの義父が長い修業を経て身につけた技術について、私が直接教えてもらったことはありませんし。義父も教える気はないようで、仕事についてとやかくいわれたことは何一つないんです。そんな義父でしたから、その背中を見て自然と覚えていったというのが実際のところです。
仕事に対する情熱、向き合い方、お客様にはつねに正直に向き合うことなど、精神的な部分で学んだことは数限りなくあると思います」

以前、ジャンフランコにインタビューしたとき「エンリコが自分のブランドを始めたことで、いつの日か会社を譲ることを意識した」と話していたことを覚えている。彼を信頼していると語った義父の目は穏やかで、義理の息子を深く信頼していることが伺えた。そして今、インタビュー席の傍らで、あの時と同じ目でジャンフランコが静かに座っている。オーダー会に合わせ義父と義理の息子とで来日したのだった。


「<エルネスト>は2つのテーマから始まりました。それは、誰も見たことがないチェック柄と誰も着たことがないストライプ柄です」。

ディレクターのエンリコ・メッツァドリが、いたずらっぽく言うのを、隣で義父のジャンフランコ・ボメザドリはやはり静かに聞いている。やはり彼の仕事に全面の信頼を置いているのだ。



「素材にはこだわりがあります。他のブランドが使わない、変わった素材を使いたいと思っていますが、エレガントではないものやブランドのイメージに合わないものは使えません。たとえばチェック柄はスコットランドのタータンチェックをベースにしながらも、地色と格子のコンビネーションが面白いものを選んでさらにオリジナルでアレンジします。ストライプはイギリスのスクールストライプにユニークなものが多いようです。これをイギリスで織ると固く目の詰まった生地になってしまうのですが、イタリアの生地メーカーで織ることで、しなやかなものが出来上がります。ネップ糸を使うこともありますし、起毛素材も毛足が長いものなどを別注しています」


ユニークな素材選びを、OEMで培った高い技術力で独自のスタイルに完成させた。今季のテーマに「アフリカ」を掲げたのもクラシックメゾンとしては斬新だ。昨年、16S/Sのコレクションを発表したピッティ・イマージネ・ウォモの会場では、ブース内で木皿に穀物を盛り、民俗人形を配置して独創的なプレゼンテーションを行っている。こんな提案をするブースはピッティ会場で見たことがない。

「アフリカの大地の色、森の色、空の色、そして街の色をイメージしたカラーパレットは、綿密なマーケティングに基いて発信したものです。現地そのままの粗野なアフリカではなく、洗練されたものに置き換えることでクラシックの新たな可能性も探りました。プライベートでアフリカを旅したとか、スタイルの提案とかではないですが、発想がユニークだったこともあって多くの人達に注目されたという点では正解だったと思います」


赤茶けたオレンジ、鉱石のようなグリーン、肥沃な大地の色を反映した色が並び、手仕事で施したような民俗柄もエルネストの今季を象徴している。クリエイティブでユーモアにあふれているが、しっかりとエレガンスも讃えている。この日、エンリコが着ていたネイビーのジャケットも、それを象徴している。不思議な柄だが、近くに寄らなければそれとわからないその柄。どのようなものなのですか?と尋ねてみると、モチーフはクラゲだという。

インタビュー取材の傍らで静かに聞いていた義父のジャンフランコが初めてくすりと笑った。つられてエンリコも、楽しそうに笑う。インタビュールームにイタリアの家庭の団欒風景が浮かんだ。

エンリコ・メッツァドリ
1964年、パルマ生まれ。85年にジャンフランコの一人娘と結婚し、義父の会社に入社しファッション業界へ。営業畑を歩んできたが、2012年に旧知の友人であるヴィンチェンツォ・レッジャーニ(リミニのセレクトショップ、ラチェルバのオーナー)とともにエルネストを立ち上げた。エルネストのレディスのデザイナーは妻が務めている。昨年、自身がディレクターを務めるもうひとつのブランド<パイデア>をローンチ。


Text:Ikeda Yasuyuki
Photo:Ozawa Tatsuya

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