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紳士之歳時記

文=林 信朗
text by Shinro Hayashi

[はやし しんろう] 服飾評論家。雑誌「メンズクラブ」の編集長や「ジェントリー」の創刊編集長を経て、服飾評論家に転身。現在は、雑誌やカタログ、WEBなどで活躍。学生時代にアメリカへ留学した経験や、編集者時代に培った海外に関する知見に裏付けられた原稿執筆にも定評がある。映画やお酒、シガーといった、メンズファッション以外の分野の造詣も深い。

シャンパーニュが似合うサーファー

1978年、1本のハリウッド映画が世界の若者の目をサーフィンとカリフォルニアに釘づけにした。ジョン・ミリアス監督の『ビッグ・ウエンズデー』である。1960年代初めから70年代半ばにかけての、ミリアスの実体験をもとにした青春物語とサーフィンの映像は、海と砂浜と音楽と共に生きるサザン・カリフォルニアの若者たちのライフスタイルそのもの。そこには大人が構築した社会やシステムにはない自由と心地よさがあったのだ。
 この映画が世に出て以降、サーフィンとともにカリフォルニア・サーファーのスタイルもまたアメリカン・ファッションの欠かせぬ柱となっていった。
 東海岸を代表するアイビー・ルックとの比較でとらえるとオモシロイ。アイビーは、まず大学が舞台。服の素材はオックスフォードやツイード、フランネル。デザインもブレザーなどどこか英国的質実剛健さがある。季節感でいえば秋冬だ。一方カリフォルニア・サーファー・スタイルは、砂浜とビーチタウンがステージ。素材では、綿ジャージーやシャツのレーヨンなどソフトでリラックスしたもの。デザインもTシャツや短パンで、どことなくハワイ調。そうなれば季節は、春夏に決まっている。
 どうだろう、おわかりだろうか。カリフォルニア・サーファー・スタイルの売りは、大人予備軍、社会人予備軍の制服と言ってもよい体制派アイビールックへこれでもかとアンチしているところにあるのである。
『ビッグ・ウエンズデー』公開から既に40有余年。北はサンタバーバラから南はサンディエゴに至るコースト沿いのビーチタウンを訪れると、「大人化」したサーファースタイルをいくらでもみかける。花柄のプリントやVネックTシャツ、サーフシャツやショーツ、足元はスニーカーやレザーサンダルなどの定番を身につけ、昼間っからお洒落なカフェでバブリー(シャンパーニュのことをこう呼ぶ)をっている大人は、元サーファーなのだろうか、早期退職者なのだろうか、ともかくヤケにさまになっているのだ。
 そういえば『ビッグ・ウエンズデー』でも主人公を励ますボード屋「ベア」の髭面オヤジがえらくカッコよかったのを思い出した。服負けしない人生キャリア、存在感。そういうものを持った大人が着るとサーファースタイルは、ちょっとイイ感じに凄みが出てくるのだな。

[はやし しんろう] 服飾評論家。雑誌「メンズクラブ」の編集長や「ジェントリー」の創刊編集長を経て、服飾評論家に転身。現在は、雑誌やカタログ、WEBなどで活躍。学生時代にアメリカへ留学した経験や、編集者時代に培った海外に関する知見に裏付けられた原稿執筆にも定評がある。映画やお酒、シガーといった、メンズファッション以外の分野の造詣も深い。