【インタビュー】<CFCL>高橋悠介が2021年の世に問う、幸せな服の可能性
2021年春、<CFCL/シーエフシーエル>という新ブランドが誕生した。そのコンセプトづくりや組織の設立と運営、そしてデザインからパターンワークまでを手掛けるのが、約6年間にわたって<ISSEY MIYAKE MEN/イッセイ ミヤケ メン>のデザイナーとして辣腕を振るってきた高橋悠介氏だ。
ニットのみで構成されたソリッドなファーストコレクションが、いきなりバイヤーやメディアに絶賛され話題となっている。そのキーマンである高橋氏に、ブランド誕生の経緯と新時代の“ものづくり”への思いを訊いた。
チームとして目指す服づくりを、ブランド名で示したい
日本にモードファッション、さらには文化としてのファッションを根付かせた<イッセイ ミヤケ メン>は、惜しまれながらも20-21年秋冬シーズンで長年の歴史に休止符を打った。そして2021年春、奇しくもその<イッセイ ミヤケ メン>のデザイナーを2013年から約6年間務め、自らの理想とするファッションと社会の関わりを追求するべく独立した高橋悠介氏が、新ブランド<CFCL>を立ち上げることとなった。
<CFCL>とは、いったいどんなブランドなのだろうか? 独立してブランドを設立したきっかけ、そしてその<CFCL>が掲げる理想やファッションのあり方について、高橋氏自ら語ってくれた。
「三宅デザイン事務所に10年勤務し、<イッセイ ミヤケ メン>のデザイナーを6年務めさせていただきました。若い頃に憧れたパリ・コレクションという最高峰の舞台で得た経験は、とても大きなものでしたね。
でも毎シーズン新しいものを提案しなければならないこと、もっと言うと“ショーのためのテーマ”というものへの違和感が、日に日に大きくなっていたんです。発表したいものがあるから発表するというのが、ショー本来のあるべき姿だと感じるようにもなりました。
常にファッションを文化して捉えるという、一生さんの理念やデザイン哲学に共感し尊敬していましたが、自分なりのスタイルも確立し、『自分ならこうしたい』という思いもどんどん強くなってきていました。ファッションをやる以上いずれは自分のブランドを、常に考えていましたから、思い切って独立することにしたんです。新たな家族が誕生し、社会に貢献したいという思いが湧き上がってきたのも、大きかったと思います。」
晴れて自身のブランドを立ち上げた高橋氏だが、Yusuke Takahashi というデザイナー名を前面に押し出すシグネチャーブランドの体裁はとらなかった。訊けば、<CFCL>というブランド名は、「Clothing For Contemporary Life」──つまりは、「現代生活のための衣服」という言葉の頭文字なのだという。
「デザイナーがブランドに自分の名前をつけるのは、そのスタイルや美的感覚を投影している服づくりをしているから。僕は自分の美意識を表現するためではなく、社会のために服をつくりたいんです。
僕は建築が好きで、以前からレム・コールハースという著名な建築家の事務所『OMA』や、ニューヨークの『MOMA』などのネーミングに惹かれていました。それらのほうが“コーポレーション感”があるし、ロゴとかブランドとして認識してもらいやすい。デザイナーが前に出過ぎるのは、よくないと思っていましたから。
なぜならデザイナーは、1人では服を作れません。アシスタントやパタンナーさん、サプライヤーさんに工場さんなどがいて、初めてできるのが服づくりじゃないですか。ブランドというものがデザイナーの私物ではないことをアピールしたかったし、なにをするための、どんなブランドなのかを明確にしたかった。だから僕の名前ではなく、僕らが掲げるスローガンをブランド名にしようと考えたんです。それにクロージングの”C”は、クリエーション、コンサルティング、カフェなど、さまざまに解釈できる。将来的にいろんなことができそうですしね。(笑)」
シャープで、ソフィスティケートされたニットウエア
では<CFCL>が意味する「現代生活のための衣服」とは、具体的にどんなものなのだろうか。「ジェンダーフリーで着られるシャツやパンツなどのベーシックアイテムに、女性を美しく見せるスカートやワンピース。すべてがニットウエアで構成されています。ニットならではの快適性と、ソフィスティケートされた上品なデザインを融合することにより、寛ぎの時間からビジネスミーティングまで、さまざまなオケージョンに対応できるようにしているんです。」
シンプルな無地を中心とした色展開も、長く着られることを考えてのもの。そして組織やブランドに属するだけに留まらない、<CFCL>を選ぶような人自身の輝きを、服が邪魔してはいないという考えからだという。
「デザイナーが“スタイル”を示す、既存のものづくりに対するアンチテーゼが、プロダクトにフォーカスすること。スタイルというのは模倣されやすいという大きな問題がありますからね。スタイルブランドではなくプロダクトブランドというのが、<CFCL>のアイデンティティであり、ビジネス戦略なんです。」
確かにオリジナリティのあるプロダクトを圧倒的なクオリティで製品化すれば、コピーされる心配は少ない。そのオリジナリティを生み出すため、ニットウエアというプロダクトに特化するという選択をしたというわけだ。とはいえ、世にニットを専売特許とするブランドは少なくない。しかし高橋氏には、そんなニットで唯一無二のオリジナリティを確立する自信があった。
「一般的にニットには、ハンドクラフトやリラックスといった、“ほっこり”したイメージがあります。僕が大学で美術を学んでから通った文化ファッション大学院大学でも、モード志向の学生はニットにあまり興味がなく、ニットに取り組む学生作品の多くはほっこりしたデザインが多い印象でした。
それにモードやドレスといったカテゴリーで着られるニットがあるブランドって、実は数えるほどなんです。ミーティングにも、ディナーにも行けるシャープでソフィスティケートされたニットウエアというのは、世の中的にとても新しい。ここには、クリエーション面でもビジネス面でも、チャンスがあると考えました。」
<CFCL>は、多様化した現代生活のあらゆるシーンにフィットするニットウエアというわけだ。絶妙な高さで首元を隠し、エレガントなルックスに仕上げてくれるモックネック。シャープで構築的な印象をキープできる、パーマネントな袖のクリースラインなど、デザインと実用が両立したディテールも説得力十分。
そしてそのものづくりの根幹となっているのが、高橋氏が学生時代から注目し、装苑賞を受賞する要因ともなったコンピューター・ニッティングによるホールガーメントというテクノロジーだった。
ホールガーメントを軸に実現する、未来の服づくり
ホールガーメントとは、コンピューター制御の編み機に糸とデザインプログラムをセットするだけで、編み機からほぼ完成状態のニットウエアが生み出されるという技術。身頃と袖をつなぎ合わせるというような縫製工程を一切必要としないので、デザインの自由度が高く、時間、手間、コストが劇的に抑えられる。さらにカットロスも発生しないという画期的なものだ。
高橋氏は学生時代からこの技術に着目し、大いなる可能性を感じていたという。
「僕は4年制の大学でテキスタイルと美術を学びながら4年生のときから文化(服装学院)のオープンカレッジに通い始めたので、縫製やパターンといったファッションのスキルがほとんど身についてなかったんです。文化では縫製のクオリティも評価対象だったので、よく怒られていましたね。『縫製できない学生』というレッテルを貼られていました(笑)。
そんななか、講義でコンピューター・ニッティングを知ったんです。機械はあるけど、モード好きはニットをやらないし、誰も使わない。しかも縫製せずに製品ができあがるから、先生が縫製の評価をしようがない(笑)。それがすごく面白いし、圧倒的なオリジナリティになると思ったんです。」
高橋氏が三宅デザイン事務所に入るきっかけとなった装苑賞を受賞した作品も、このコンピューター・ニッティングにテグス糸を融合するというアイデアによるものだった。「いつか自分がブランドを立ち上げるときは、この技術を武器にしようと、ずっと温めていました」と語る高橋氏は、他の学生にスタートで遅れをとったかと思いきや、実は彼らの遥か先をいっていた。その秘められたアイデアは10年以上の時を経て、<CFCL>というブランドとして見事に結実したと言えるだろう。
「ホールガーメントは縫い目がないから、着心地を損ねず軽やかに仕上がります。それに糸を編んでいく単純な工程だけなので、編み時間を短縮でき、コストも抑えられる。オリジナリティを発揮しやすいうえに、利益も出せる生産方式なんですよ。
プリントや刺繍などの加工をしない限り、工場間の輸送によるコストも二酸化炭素も発生しません。実際に着用する際には、シワになりにくいし、洗濯機で洗うことだってできるイージーケア。<CFCL>のデザインは、そういう”背景”からスタートしているんです。」
カットロスを無くせる、移動が最小限といったホールガーメントの生産工程における特長は、社会のために服をつくり、社会に貢献したいという高橋氏の思いに完璧に合致するものだ。
「わざわざ外国で生産して日本まで運んでいたら、時間も輸送費も掛かるし、燃料を消費してエコではないですよね。でもホールガーメントなら、機械と糸とプログラムさえあれば、誰が操作してもまったく同じ製品ができあがります。つまり、人件費の安い外国で生産する必要がない。地域経済を盛り上げるという生産者としての責任にも向き合う必要がありますから、<CFCL>も完全にメイド・イン・ジャパン。
サステナブルな社会というのは、自然環境だけではなく、労働環境も含まれる。ホールガーメントには、ものづくりの未来を感じています。」
すべての製品に、再生ポリエステルを使用しているという<CFCL>。再生素材の選択肢は少なく制約は多いものの、「制限があることで逆にデザインがしやすくなった」と高橋氏はあくまでポジティブだ。
「カッコいい服が、いい服であるとも言い切れない時代です。見え方は同じでも背景のストーリーが重要。デザインするだけではなく、会社の経営、サプライヤーや従業員との関係構築、物流など含めた、トータルでのクリエ―ションが必須なんです。そしてそれは、組織に属していてはできないことでした。
グレタ・トゥーンベリさんしかり、Black Lives Matterしかり、いまは個人の力で世の中を動かすことができる。小さく始めても、大きく変えることができる。だからむしろ、インデペンデントであることは僕たちの強みであると考えています。」
- 開催期間:1月27日(水)~2月9日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリー、本館3階 センターパーク/プロモ―ション
*諸般の事情によりイベントが変更・中止となる場合がございます。予めご了承ください。
►営業時間変更のお知らせ
今回行われるプロモーションに合わせて、「GARTER HALF SLEEVE T」「GARTER LONG SLEEVE T」の伊勢丹新宿店別注カラーが登場。
Photograph:Junya Hasegawa(America)
Text:Tatsuya Ozawa
お問い合わせ
伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリー
電話03-3352-1111 大代表
メールでのお問い合わせはこちら