大人のリアル・スタンダードな着こなしに欠かせない、清潔感と上品さを備える〈ATON/エイトン〉が、男女問わず幅広い層に人気が拡大している。同ブランドを主宰するディレクター・久﨑康晴氏が生地づくりからこだわるコレクションでは、一見ベーシックながら袖を通せばわかる心地のよさ、美しいシルエットを体感できる。
今回は、伊勢丹新宿店メンズ館で行われるポップアップイベントを前に、久﨑氏のアトリエを訪れ、デザインや素材へのこだわり、そして同イベントのために用意された別注アイテムについてお話を聞いた。
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「シンプル」や「上質」の裏に潜む、素材への確かな拘り。
高校生の時からベーシックな洋服が好きでしたね。ただ、自分でイメージする素材と違うなって思うと、生地屋で買ってきては、持っている洋服をバラして、型紙を作って自分で縫って着ていたんです。今考えるとド素人が作った服ですが、カタチよりもとにかく生地が好きで…。気づけばテキスタイルデザインの道に進むようになってましたね。
昔から生地開発のために、積極的にヨーロッパを中心に海外へも足を運びました。現地では職人と話したり、昔の資料を見たり、世界中の工場や産地を巡るなかで、その工場が持っているポテンシャルを最大限活かすためには?なんて考えたりするのも大好きで、テキスタイルは面白さ、奥深さというのもどんどん高まっていきました。
私自身はファッションデザイナーというより、プロダクトデザイナーに近い感覚かなと思っています。「世界一美しい本を作る男」として有名なゲルハルト・シュタイデルや、インダストリアルデザイナーのディータ-・ラムスには特に影響を受けていて、「いかに機能的に、無駄がなく、シンプルに、でもどこか強い」というのが僕の服づくりの基本ですね。
たとえば、コットンの風合いの良さを出すためには、洗いざらしのパサッとしたコットンの方が気持ち良いんですが、それだと見た目にカジュアルなので、ちょっとツヤがあって美しい佇まいとの両立を考えます。また、普段の生活の中で脚を組むときに、ボトムスがどんなシワならカッコいいかってことも考えるんです。それは本のページをめくるときの感覚や、ラジオのつまみの形状を考えるのと似ていて、自分が考えたシルエットや素材のレシピ通りにできるのかをチューニングするのが好きですね。
〈エイトン〉では糸から作って、編むテストをして、何度も洗って、「コレだ」と思える製品を作って、まず自分たちで着てみて、半年や1年は生活の中でどうだったのかを検証するなど、ものすごくいろんな研究をしています。4~5年経っていてまだ世に出ていない製品も多くありますね。
初めて取り組んだ「黒染め」はストーリーにも魅了された。
〈エイトン〉は、Tシャツを軸にした商品展開を行っています。「一枚のTシャツが、国籍や性別、世代を超える
濃度の濃いことができたら……」というのがそもそもの出発点だったんです。
ユニセックスでのサイズ展開は、〈エイトン〉を始める前から考えていたことで、その背景として女性が着られることを意識して作られたユニセックス服がほとんどなかったので、新しいユニセックス服のカタチとして、レディースとメンズのいいところを合わせたものを研究し、その過程で、メンズの面白みを再認識しました。ユニセックスのポイントは分量感です。
今回、伊勢丹別注として作ったフーディーとプルオーバーのスウェットシャツは、インドで手摘されたスビンコットンを和歌山のニッターで通常の倍以上の高密度で限界まで編み上げた素材を、京都の染工場で染色しています。
〈エイトン〉では天然染料染めをずっとやってきましたが、メンズ館の雰囲気をイメージしたときに、真っ黒の新鮮さを残していたい方と、少しすすけた黒鉄色が好きな人の両方がいるなと思って、今回は視点を変えてこの「京都黒染め」にトライしました。
「京都黒染め」では、程よい艶がありながらきれいな黒であることを表現したかったのと、そのルーツを探っていくと、鎌倉時代以降に武家社会になって、身を隠したり、守ったりする「戦闘服」が進化して、黒の染料で染めると生地の摩擦抵抗が大きくなり、刀が通らないよう“鎧”のような機能があったからで、そのストーリーの面白さに惹かれたことも一つですね。
また、スビンコットンという天然繊維を使うのは、身体に心地良く、寒暖があっても柔軟に対応してくれるという魅力があるからです。また化学繊維と違って思い通りにならないところが面白いんです。フードの立ち方や、袖の分量感などもぜひ着て味わって欲しいですね。
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリー
Photograph &Text:MITSUKOSHI ISETAN
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