2020.02.03 update

vol.15 松井信之 × 髙臣大介 | ファッションデザイナーとガラス作家で魅せる静謐でクリエイティブな世界

伊勢丹新宿店メンズ館2階=メンズクリエーターズ内「ART UP(アートアップ)」において、東京が誇る気鋭の注目ブランド<Nobuyuki Matsui/ノブユキマツイ>のデザイナー・松井信之氏と、北海道在住のガラスデザイナー・髙臣大介氏による展示“「What inspiration comes from」Nobuyuki Matsui x Daisuke Takatomi ”を2月5日(水)より開催。

昨年の『楽天ファッション・ ウィーク東京(以下、RakutenFWT)にて披露した二人のインスタレーションは大きな反響を呼んだ。本展示では、<ノブユキマツイ>の2020年春夏シーズンテーマである「水鏡」と連動し、当時の雰囲気を彷彿とさせる二人のクリエーションを同時に展開する。

イベント情報
「What inspiration comes from」Nobuyuki Matsui x Daisuke Takatomi
  • メンズ館2階=メンズクリエーターズ

髙臣さんのガラスが生む音や光が<ノブユキマツイ>の服の魅力を高めている(松井)


左:ファッションデザイナー・松井信之氏 右:ガラス作家・髙臣大介氏

ーーお二人が出会ったいきさつから教えてください。

松井:髙臣さんと出会ったきっかけは、用賀に『エリプス』っていう小さなギャラリーがあるんですけど、そこで髙臣さんの作品を僕が拝見したことが始まりで。そしてまた、そのギャラリーの方がすごくユニークな人なんですよ。

髙臣:そうそう。良い意味で、バカを突き詰めるとこうなるんだろうなっていう(笑)。誤解して欲しくないのは、その人はすごいちゃんとしているんですよ、めちゃくちゃ真面目ですし。でも本当にバカといいますか…(笑)。

松井:僕もその人から「良い意味で本当にバカなやつがいる」っていうのを聞いて、作品も素敵だしぜひ会ってみたいと思ったので、髙臣さんの工房がある洞爺湖の方にお邪魔したんです。それが一昨年くらいのことでね。



ーー松井さんは髙臣さんの作品のどんな部分に魅せられたのか。

松井:アートと自然ってすごく密接な関係があると思っていて、一概には言えないんですけどアートっていかに自然らしくさせるかというか、人工物と自然の融合がアートである気がしているんです。その中でも髙臣さんの作るガラス作品の流動的な形やガラスが奏でる音に惹きつけられてしまったんです。この感覚から服を作ってみたいなって思いました。

髙臣:ありがとうございます(笑)。



ーーRakutenFWTで共作したことは、高臣さんにとっても大きな刺激になったそう。

髙臣:めちゃくちゃテンション上がりますよね、ファッションショーなんて初体験だったわけですから。ただあくまで主役は<ノブユキマツイ>なので、その中で何ができるかなっていうことを最大限に考えつつも、あまり考えないようにするというか。色々考え過ぎても最終的には現場で決まっていくものだと思っていたので、どんなことでも対応できるようにしっかり準備だけはして、あとは成り行きでみたいなところはありましたね。気持ち的にも今までとは全く違う感じで、かなり気合いが入りましたし楽しかったです。

ーー松井さんは、心理学を学ぶために渡英するも、現地でいろいろと経験する中で一番楽しかったのが服作りだったことから、アートスクールに編入しデザイナーの道を歩み始めたという。当時服作りは未経験だったが、持ち前の強い好奇心で乗り越えた。

松井:DIYもしますし、バーナーを使ってガラスの溶接もしたりしますし、いろんなものを自分で作ることが好きなんです。なので、アーティストさんとコラボをする時とかは絶対に現地に行って、どういうふうに制作されているのかっていうのを見ることがすごい好きで。この前のRakutenFWTでは髙臣さんのインスタレーション『野傍ノ泉池(のぼうのせんち)』から、インスピレーションを受けました。あのガラスの流動的な形や音色をどうやってインスピレーションとして落とし込めるかなって。で、出てきたワードをすくい上げていって、自分のコレクションとしてやる時に出てきたのが『水鏡(すいきょう)』っていうテーマだったんです。

 



ーー「常に刺激は求めています。ただ高臣さんも同じだと思いますよ」と、松井さんは続ける。

 

松井:面白いことを発見するのがすごい好きではあるので、そういう意味では毎日楽しいです。例えば落ち葉を一つ見ても「お、すげえ綺麗な落ち葉!」みたいな(笑)。実は僕は、髙臣さんも同じような感覚を持っていると勝手に感じています。SNSでアップされているガラスの反響している光や、瞬間的な美しさのある影とかを拝見して、共感できる部分がたくさんあるので。

 

髙臣:その通りです(笑)。

 

今回の展示で大事なことは<ノブユキマツイ>の服をいかに引き立たせるかということ(髙臣)



ーー髙臣さんは、ふとしたことがきっかけでガラスデザイナーの道へ。

髙臣:たまたま見かけたガラスを綺麗だと思ってしまったんですけど記憶が曖昧で。綺麗なものを見た印象はあるんですけど、何だったのかは覚えていないんですよ。そのときぶらぶらしていて日本各地に行っていて、たまたま見かけたのが”透明な何か”だったんです。それがガラスではなかったのかもしれませんが、とにかく綺麗だなと思って自分で作ろうと思い、始めました。

 



ーー作品を作り始めたてと現在では、作品の出来栄えに違いは特にないとよく言われるそうだが。

 

髙臣:昔、ガラスの学校に通っていて、今でも同期のやつがたまに見に来てくれたりするんですけど「お前はやっていることが全く変わらないな」って、呆れ気味に言いますね。ただ自分の中では、まだ具体的にはわからないですけど、積み重ねていっている何かはあるんじゃないかなって思っています。

 



ーー二人は、今回の伊勢丹新宿店メンズ館での展示のオファーが来た時はどんな気持ちだったのだろう。

 

松井:僕の中で洋服を作るにあたっての一番の課題が生産背景だったり、自分が作るものをどういう風に今の市場に当てはめていくかっていう作業で。自分でビスポークをやっている分にはそれはいらないと思うんですけど、レディートゥウエアをやる上では、そこはしっかり考えなければいけない。そんなときにアートという枠組みの中で僕ら二人がやっていることに共感していただけたことがすごく嬉しかったですし、本当に光栄です。

 

髙臣:さすが<ノブユキマツイ>っていう感じですね。正直、僕の中ではメンズ館というのは敷居が高くて、まさか自分のガラスが飾れるなんて考えたこともなかったですから。



ーー今回の展示ならではの見どころはというと。

松井:これは僕の意思なので髙臣さんに聞かないとわからないことなんですけど、洋服ってアートになり得る、またなり得ないっていう議論がすごいなされているんです。その中で洋服はアートとして人間に一番近くなれるものだけど、アートではないと。個人的にはアートって崇拝するというか、そういう立ち位置なのかなって漠然と思っていて、そうすると実際に着ることができたり身近すぎるとアートになり得ないのかなって。今回は髙臣さんの作品と一緒にアートとしてやりたいと思っていたので「持っていけるアート」じゃないですが、ガラスの音色が綺麗だったり反射が綺麗だったりとか、会場に来ただけで何かを持ち帰ってもらえるような展示や空間にしたいですね。そこで僕の服を見てもらうことで、より服の素晴らしさが伝わればいいなって思います。

髙臣:前回のRakutenFWTで見せたファッションショーというのは、僕の中でもものすごく印象深いものだったので、もしあれを見た人が、今回の伊勢丹での空間を見た時になんか違うなって思わせないようにしたいなっていうのはありますね。もちろん規模感を真似るのは無理ですけど、そこは上手に見せられたらいいなって思います。今回の展示を含めて今後、僕はいかに<ノブユキマツイ>というブランドをサポートしていくかを考えています。やっぱりここでの僕の活動は<ノブユキマツイ>の服ありきなので、いかに服や世界観を上手に見せるかっていう。ガラスで器を作る時もそうですけど、必ず中に入るものを考えながら作るので、それと一緒なんだなってこの前のショーでも思ったんですよね。自分がそういうことをするのが好きだっていうのもあるんですけど。

イベント情報
「What inspiration comes from」Nobuyuki Matsui x Daisuke Takatomi

 

Text:Kei Osawa

Photo:TAGAWA YUTARO(CEKAI)

 

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