多様化するモダンジェンツを魅了する、幅広いコレクション
年間を通じて旅行や出張に出ていることが多く、「1年の8〜9割を海外で過ごす」というほどのジェットセッターであるロバート・タテオシアン氏。クリエーション面でのインスピレーションも、旅の過程で出合った人物や現地のカルチャーやデザインから受けることがほとんどで、それらをファッショントレンドと融合させながらデザインをすることが多いのだとか。
「伝統的な美としての生花や寺社仏閣、博物館などは常に興味深く、日本を訪れるたびにチェックするようにしています。ジュエリーは光の当たり方によってどう見えるかということが大切なので、お台場の『チームラボボーダレス』なども刺激的で参考になりますね。私は日本の伝統工芸である漆器の棗を愛好し収集もしているのですが、その一方でスーパーモダンなグラスウェアなどにも惹かれるんです。両極端な要素を融合し、さらに自分らしいツイストを加えることこそ、私のデザイン哲学の根底にあるのだと考えています。過去のコレクションでは、金沢の漆器や加賀水引をカフリンクスに使ったこともあるんですよ」
そんな伝統と最先端の両方に意識を向けながら革新を続けるロバート氏が新たに手掛けたのが、2016年に他界した建築家・ザハ・ハディド氏とのコラボレーションだ。
「30周年を見据えて、なにか特別なものを企画したいと思っていました。25周年では世界的なミュージシャンであるエルトン・ジョンとの協業が実現した。30周年ではさらにアート性を高めたジュエリーを目指して、建築家であるザハ・ハディドにアプローチしようと考えたんです。彼女の作品はとても素晴らしいと思っていましたからね。そこで個人的に彼女のスタジオを訪れ、直接コラボレーションを打診したんです。残念ながらコレクションの完成を見ることなく彼女は亡くなってしまいましたが、「ぜひとも実現したい」というザハ本人の強い遺志によって、プロジェクトを遂行することができました」
建築をジュエリーにする──単純にミニチュア化すれば済むように思われるかもしれないが、人が身につけて生活するジュエリーと、超巨大な建造物である建築のデザインアプローチは、根本的に異なるものだ。
「デザイン自体はザハのスタジオが手掛けていますが、ジュエリー化するにあたってのプロセスは我々が行うという、完全な共同作業となりました。前例のない大変繊細で複雑な作業で、職人たちはとても苦労したと思います。ザハ・ハディドの偉大な遺作として、楽しんでいただきたいですね」
さらに大きな話題となっているのが、タテオシアンがこれまで手掛けてこなかったカジュアルシーン向けのニューアイテムだ。
「スニーカーのシューレースにつけるアクセサリーとして、“シューリンクス”という新たなカテゴリーのアイテムが登場します。現代は装いの仕方も変わっているので、フォーマルな場面ではカフリンクス、ジャケットにジーンズというカジュアルな場面では、スニーカーに“シューリンクス”というアクセントを施し、アクセサライズすることをご提案したいと考えています」
そしてアクセサリーというフィールドを飛び越える画期的なアイテムとして注目されているのが、タテオシアンらしいラグジュアリー感を備えたアパレルだ。
「カジュアル化とドレスダウン化という世界的なトレンドを意識して、前回のピッティ・ウオモではTシャツのコレクションを発表し、ポジティブな反響をいただきました。プリントなどではなく、シルバーとゴールドの糸で刺繍を施した特別感のあるコレクションです。現代の男性は、皆がスーツにネクタイをしているわけではありません。あなたもネクタイはしているけれど、カジュアルなセーターを着て、バギーパンツというスタイル。今回のイセタンメンズのトランクコーディネート販売会でも、レザージャケットにナロータイを合わせているけど、ネクタイピンがほしいというお客さまがいらっしゃいました。そういうミスマッチ感も、今という時代性なのだと思います。伝統的な価値観なスタイルに固執していては、ブランドを前進させていくことはできないと考えています」
時代性を的確に捉え、進化を続けるタテオシアン。創業デザイナーであるロバート・タテオシアンは、次なる30年についても明確なビジョンをもっているようだ。
「お互いまだリタイアしていなければ、また29年後にインタビューをお願いしたいですが……(笑)。まずは今やっていることを継続していきたいと思っています。その上で、変化は必ず起こるものですから、それに対して柔軟な対応をしなければなりません。具体的な施策としては、ゴールドなどのプレシャスな素材を使ったコレクションをさらに充実させ、ラグジュアリーな顧客層を拡大することを目指しています。さらにウィメンズコレクションにも力を入れていきたいですね。また“ラグジュアリーTシャツ”に代表されるカジュアルなコレクションは、すでに大変好意的な反応をいただいています。ここからクロージングにまで広げることはありませんが、シューリンクスを購入してくださるような顧客を入り口に、これまでご縁のなかった層にも積極的にアプローチしていきたいと考えているんです」
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・【インタビュー】ロバート・タテオシアン|男の人生を豊かにしてくれるもの(2016年2月27日公開)
・【インタビュー】<タテオシアン>のカフリンクスで辿る、唯一無二の一点モノの魅力(2019年3月25日公開)
Photo:Natsuko Okada
Text:Junya Hasegawa(america)
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