【第9回】J.M. WESTON/ジェイエムウエストン
リモージュから数キロ離れた川のほとりにある、サン・レオナール・ドゥ・ノブラのタナリーバスタン。手前に見えるのが、レザーを埋めて寝かす穴だ。
ブランドのなかでも一二の人気を誇る、通称「ゴルフ」。キルトとライニングにマーブル紙柄が配されている。質実剛健で知られる一足に、時代の気分が高次元で融合している。
シューズ156,600円
職人技の結集が生むのは美しく頑強な足元
その名の印象から英国ブランドと思われることも多いが、ジェイエムウエストンは1891年創業の、れっきとしたフランスブランドだ。創業者エドゥアール・ブランシャールが、革なめしと加工技術のあったリモージュ地方に靴の製造工場を設立したことから、その歴史は始まった。当初は伝統的な靴づくりがなされていたが、ブランシャールの息子ユージェーヌが渡米し、最先端であったグッドイヤー製法を習得してきたこと、さらにユージェーヌがパリの社交界の顔であったジャン・ヴィアールと出会ったことにより、品質と美しさを兼ね備えた、現在のスタイルを確立した。
ブランドを象徴するパーツは、なんといってもソールだろう。自社のタナリーでは、皮のタンニングから仕上げまでを行うことができるが、それらの工程を一度にできるソール用レザーのタナリーはフランス国内でもここだけ。高品質の牛皮を選び抜き、なめしには、フランス産の栗の木などすべて植物性素材を使用。皮の毛を取り除くところから始まり、濃度の違う水槽への漬け込みに10週間、さらに土の中に8~12カ月埋めて寝かす。こうして約2年もの歳月をかけることで、他に類を見ない強度と耐久性を生み出している。
タナリーではベジタブルタンニングを行っている。濃度の低い水槽から、徐々に濃度の高い水槽へと移し変えていき、トータルで10週間皮をタンニング液に漬け込む。こうすることで、革の耐久性が高まるという。タナリー自体はジェイエムウエストン社が買収する前から存在しており、その歴史は200年以上!
もちろん、職人技が取り入れられているのはソールの仕込みだけにとどまらない。ジェイエムウエストンの工場では、いまだに150以上の工程の多くが手作業で行われている。革のカッティング作業を担当するジャン=ジャック・サール氏は、この道40年というベテランだ。「たとえばパイソンなどの素材は、いかに同じような柄部分が合わせられるかを考えつつ、それでいて貴重な革を少しでも無駄にしないよう、配置を選んでカットしなくてはならない。その全体のハーモニーを生み出すのが非常に難しい」と語る。
革のカッティングを行うジャン=ジャック・サール氏。型紙に合わせて素早く革を正確に美しくカットする技術は職人ならでは。
手作業の合間に用いる機械も、多くは昔から使っているものばかり。100年以上経っているものも珍しくない。「昔から製造方法はほとんど変わっていないから、機械もまだまだ現役なのさ」と、働く人たちは皆胸を張る。また、工場には生産ラインの製品だけでなく修理に出された靴も多く並んでおり、長く愛される存在であることがよくわかる。
(左上)手作業でインソールにアッパーを縫い合わせるノルウィージャン製法。麻の紐をロウで固めて頑強にした糸を使い、一目ずつステッチを確認しながら進めるという、非常に根気のいる作業だ。(右)インソールに合わせて、アッパーをピンで留めていく。手作業の工程は、習得するのにどれも最低3年はかかるという。(左下)最後にソールのステッチ部分に熱いワックスを入れてシールし、機械で滑らかに整えて完成。
そして今シーズンからは、アーティスティック・ディレクターとしてオリヴィエ・サイヤール氏を迎え、初のコレクション「コレクション パピエ」が発表された。クラフトペーパーや古い紙の資料からインスピレーションを受けたという斬新なデザインは、新生ジェイエムウエストンの大胆なる変化を予見させるにふさわしいものとなっている。
オリヴィエ・サイヤール●ジェイエムウエストン アーティスティック・ディレクター。ガリエラ宮パリ市立モード美術館の館長も務めた経験をもつ世界的に著名なキュレーター。2018年1月より、同ブランドのアーティスティック・ディレクターに就任。
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