【特集|インタビュー】ストリートの"今"を形に──自社工場ならではの<カツユキコダマ>のものづくり
2月21日からは、伊勢丹新宿店全館をあげてのプロモーション「花々祭」に合わせて、メンズ館地下1階=紳士鞄にてポップアップを行う。今年最初のポップアップを行うこのタイミングで、デザイナーの兒玉勝之氏に話を聞くことができた。
──初めて「カツユキコダマ」という名前を聞く方もいらっしゃると思います。改めてブランドのテーマや大事にしていることについて教えてください。
一番大事にしているのは、バッグがもつ佇まい。英語だとAppearanceですね。パッと見たときの美しさというのは大事にしています。バッグそのものがもつ美しさに加えて、そのときのトレンドだったり空気感まで表現したいですね。見ただけで<カツユキコダマ>のバッグだとわかってもらえるようなデザインを心がけています。
──ブランドを立ち上げてから瞬く間に人気ブランドの仲間入りを果たしたという印象があります。
実は立ち上げ当初は試行錯誤の連続で、とても苦労しました。2012年の1月にパリの合同展示会「トラノイ」でデビューしたのですが、その時は加工を駆使してアートなアプローチをしました。でも見向きもされなかったですね。次のシーズンは逆にミニマルなデザインで、縫製も極力省いたバックを作って行きました。でもそれも見向きもされずに…。
で、3年目の時ですね、今では定番となったバックパック「パック1」の原型となるバックを持って行ったら、これが注目されて、すぐにミラノのショールームでも世界中の多くのショップからオーダーが入りました。当時はモードを好むような大人の世代がストリートスタイルに流れ始めた頃です。大人が持ってもカジュアルになりすぎない、ラグジュアリーな味付けができる、そんなバッグはなかったですからね。そこでうまく波に乗れたかなと。
──トレンドをキャッチするというのは常にアンテナを張っていないと難しいことだと思います。デザインのインスピレーションはどこから得ているのですか。
一言でいうと旅ですね。特に海外のファッションウィーク。その時期には公式プログラムに加えて、いろんな展示がありますので必ず足を運びます。そこではバイヤー、デザイナー、エディターら世界中のクリエイターが集います。いつも非常に大きな刺激をもらいますし、そこでトレンドを察知し、デザインに反映させるといった感じです。デザイン画を描くのは一日二日ですが、そこに至るまでのリサーチなりインプットなりというのは時間かけて行っています。
──<カツユキコダマ>というブランドの強みはトレンドとデザインの両立にあると思います。このクオリティバランスはどのように維持されているのでしょう。
自社工場を持っているのが最大の強みですね。少ロットで面白いことができるし、トレンドの変化にもすぐに対応できます。見本を作って、外部の工場に発注して、出来上がりは半年後、そういう感覚だと今のファッションの流れの速さには追いつけないですから。
──自社工場というのはすごいですね。どういった流れで自社工場をもつに至ったのですか。
もともと伊勢丹でも取り扱いのあるバッグブランドで営業やMDをやっていたんですが、7~8年経った頃デザイナーがいなくなってしまって。じゃあ僕がやりますと言ってデザイナーを始めました。36歳までは営業で、それからデザイナーといった感じです。
バッグ作りについてはデザイナーのそばで見て培ってきたものがあったのですが、難しく、なおかつ一番大事なのは生産体制を整えることだとわかっていました。はじめは、中国でも韓国でも、バングラディッシュの工場でも作りました。
もちろん日本の工場でも試したのですが、なかなかうまくいかず。やりたいことをやろうとすると『コストがかかりすぎる』『うちでは作れない』などと言われてうまくいかなかった。これは自分たちでやるしかないなと思って、今は工場長をやっている立ち上げメンバーの一人がミシンを1から学び、自分たちで作り始めんたんです。渋谷のオフィスの一室を工房にしてブランドがスタートしました。
最初に伊勢丹でポップアップをやった時は、4日間で在庫がなくなってしまって、作って即納品、作って即納品を繰り返して、大変でしたが嬉しかったですね。今は台東区棚橋に工場を移して、人も増えて生産体制も整いました。
──「カツユキコダマ」ではクロコダイルやエイなどのエキゾチックレザーも人気ですね。これも加工は自社工場なのですか。
もちろんです。どちらも高価な素材になりますので、緊張を強いられる作業ばかりです。特に裁断の工程が重要になります。裁ち方を間違うと膨大なコストロスにもなりますし。例えばエイ革にはスティングレーハートといって、白い軟骨が2つがあります。それ削って大理石のように輝かせるのですが、裁ち方を間違うと左右の高さがちぐはぐになってしまい、売り物にならないんです。そこは工場長が一つひとつ手作業で行っていますね。外注すれば倍とは言いませんが、価格が跳ね上がります。そうすると誰も得しない。これも自社工場ならではの強みですね.
──「ジュンハシモト」や「アタッチメント」など、コラボレーションも魅力の一つです。
メンズ館では年間4回ポップアップを行なっているので、デザイナーの目に触れる機会も多くあります。そこで面白いと思ってもらったのが、<ジュンハシモト>と<アタッチメント>ですね。彼らは洋服屋であってバッグの専門家ではありません。それぞれが培ってきた経験を生かして、ものづくりを行うのはこちらとしても刺激になります。
──今回のポップアップはどのようなものになりそうですか。
ここ最近では、バッグそのものに一点もののペイントを施したり、チャームやバッジなどでデコレーションしたりと、自分らしさを求める流れが加速しています。今回の目玉は、「Be yourself.Just for you(あなたらしさを、あなたのために)」というテーマを掲げたカスタマイズ。
ラグジュアリーブランドもこぞって取り入れている、イタリアのスタッズサプライヤーである<ランポーニ>のスタッズを用意しました。全12種類あるのですが、それをお客様の好きな場所に打ち込めるというサービスです。一つ一つの単価が高いので、日本のブランドで取り入れているところは珍しいと思いますね。さらに今回は特別に、1月にパリで展示したばかりの来秋冬の商品も先行販売します。
──最後に、今後どのようなブランドにして行きたいか、<カツユキコダマ>の未来について教えてください。
例えば「パック6」を作った時、パリでの発表後納得がいかなくて、帰国した後に10回以上作り直しました。ミリ単位での調整を繰り返して、自分の思い描いた通りのバッグができた時は嬉しかったですね。そしてお客さんの反応が良かったりすると、さらに嬉しい。美しくないとお客さんに響かないんですね。あからさまに数字に出ます。だから納得がいくまで作り直すんです。
来週展示会なのですが、今週やっと展示できるアイテムが仕上がりました。そこは時間をかけて、同じラインのアイテムでも磨きをかけています。例えば、同じミュージシャンのヒットソングでも最初のライブと10年後のライブだとアレンジが違うじゃないですか。それと同じように新アイテムを作りながらも、今のラインのブラッシュアップも欠かさずにやっていく。美しさにこだわりながら、ものづくりを続けて行きたいですね。
Photo:Natsuko Okada
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