ファッションディレクター 大住 憲生×バイヤー 佐藤 巧

1980 年代にナポリのサルトリアとして、ネクタイづくりを開始したウルトゥラーレ。そのオーダーが日本でもたのしめるようになった。


左:ファッションディレクター
大住憲生
おおすみ のりお●『Six』(ダイヤモンド社)のスーパーバイザー。森と都市のつながりを創出する株式会社モア・トゥリーズ・デザイン取締役、大学非常勤講師をつとめる。 

右:シャツタイ・洋品雑貨 バイヤー
佐藤 巧
さとう たくみ●ドレスシャツ、ネクタイのバイイングに携わり8年。年4回ほど欧米に買い付けに赴き、日本人に合うシャツ・ネクタイをつくり上げている。

ネクタイのオーダーメイドはカスタマイズ志向から


これまでも年に数回、海外からデザイナーなどを招聘したトランクショーで、ネクタイのオーダー会を開催していたものの、常設となるのはこれが初。服とは違い、サイズやフィッティングの悩みが少ないように思えるネクタイで、オーダーメイドにはどんなニーズが潜んでいるのか──。

大住 まず<ウルトゥラーレ>を選んだ理由を教えてください。
佐藤 過去の実績や知名度からいえば、<ドレイクス>や<マリネッラ>などのブランドが妥当だと思いますが、今回はカスタマイズできる選択肢の多さに注目しました。三つ折りのタイプだけでもキュプラ裏地、共生地裏地、裏地なしの3種類、“セッテピエゲ”と呼ばれる七つ折りのタイプも共生地裏地、裏地なしの2種類あります。そのほかにも十枚折りと十二枚折りのタイプがあり、こちらは共に裏地なしとなります。
大住 十枚折り以上で裏地があると、重すぎるんでしょうね。折り目もつきにくいでしょうから。
佐藤 そうですね。あとは三つ折りの共生地裏地を使ったもので、裏から見ると折り目がカーブを描いたようなユニークなカッティングのモデルがあります。これは小剣裏にボタン付きのものと、大剣裏にサンゴのチャーム付きのものがあり、合計で9バリエーションのなかからお選びいただけます。


小紋柄生地やイニシャル刺しゅう用の糸の色まで選べ、自分だけの一本がつくれる。

大住 ボタンやチャームの種類も選べるんですか?
佐藤 チャームは、カーブを描くモデルには通し穴の大きさの関係上、コルノ(角)のモチーフだけですが、七つ折りから十二折りについては、生地の折り目の付け根に取り付けるかたちになり、コルノに加えてハートなどのモチーフも選べます。ボタンはクローバーやてんとう虫、馬蹄などがあります。基本的にはイタリアのラッキーモチーフが中心。あとはイニシャルなどを一文字彫ったボタンをつくることもできます。
大住 長さや大剣幅に関してはどうでしょうか?
佐藤 長さは既製品だと日本人の平均身長を考慮した145 ~146cmが主流なのですが、オーダーでは144~ 155cmからお選びいただけます。大剣幅も現在は8cmが中心ですが、こちらも7~ 10cmまでお選びいただけます。トレンドに敏感な人は、クラシック回帰の流れから8.5 とか9cmを選ぶ傾向にあります。
大住 僕の場合、ネクタイであまり主張したくないので、大剣幅は普通がいいですね。経験上、ネクタイは多少厚みがあって、ハリがあるけれど、柔らかさがあったほうがいいと思っています。ウルトゥラーレのオーダーだと三つ折りで裏地が共生地というのが、適度にボリュームがあってよさそうですね。ちなみに素材のバリエーションはどれくらいありますか?
佐藤 一般的なシルクや季節によっては、ウール、リネンなど、常時100 種類以上は用意がありますので、シーズン性を提案できるようなバリエーションは十分揃っていると思います。


オーダーメイドの基本は、定番を自分好みに誂えること



装飾のチャームやボタンまで選べるのは、ネクタイのオーダーとしてはかなり珍しいといえる。

大住 選択肢がたくさんあると迷いますね。
佐藤 たしかに、オーダーではありますが、定番的なものを選ぶ人が多いのは、そんな理由からなのかもしれません。
大住 オーダーメイドはオーソドックスのものからはじめたほうがいい。初めてのオーダーは気持ちが入りすぎて、あれもしたい、これもしたい、になってしまいがちです。するとビスポークではなく、一方的なものになってしまいます。で、とんでもないものが出来上がってしまう場合もあります。
佐藤 個人的な話になりますが、私はシャツをオーダーする際、白を基本にしています。白はトレンドにもなり得る一方、定番としてなくならない。いつまでも着られますから。
大住 私はそれに加えてブルーを誂えるんですよ。ブルーは時代の気分に応じて濃淡が変わったりするので、その変化をたのしめるのがいい。流行を超えた存在であり、流行であったりもする。その行きつ戻りつの感覚が好きなんです。同様に、私がネクタイをオーダーメイドでつくるなら、ネイビーでしょうね。
佐藤 ネイビーだけで濃淡10 種類以上はあります。あと、フォーマル用のシルバータイなどをオーダーするのもおすすめですよ。


三つ折りのタイプだけでもキュプラ裏地、共生地裏地、裏地なし(各24,840 円)の3種類が選べる。また、いわゆる“セッテピエゲ”と呼ばれる、七つ折りのタイプも共生地裏地、裏地なし(各27,000 円)の2種類ラインナップ。そのほか、十枚折りと十二枚折り(各29,160 円)もご用意。*お渡し:約4カ月後

大住 既製品だと、選択肢があまりありませんからね。そういう意味ではドットタイもいいかもしれませんね。チャーチルみたいにそれしか結ばないというのもスタイルとしてありだと思います。お手本になる人を見つけて徹底して真似をすれば、真似の先にきっと自分なりのかたちが現れる。当たり前かもしれませんが、それはお洒落において有効な手段だと思います。ほかにオーダーならでは仕様はありますか?
佐藤 イニシャル刺しゅうのオプションがあります。糸の色を決めて、入れる場所も大剣の下とディンプルの下、小剣の先から、お好きな箇所をお選びいただけます。
大住 イニシャルはネクタイ生地と同色を選ぶのが洒落ていますよね。それに、控えめというか、アンダーステイテッドがエレガントの基本でもありますし。
佐藤 同感です。私もトーン・オン・トーンが基本です。
大住 それが自信になるというのは言い過ぎかもしれませんが、普通とは違う“なにか”が高揚感を生むんでしょうね。
佐藤 いまの世の中にはものがあふれていて、インターネットでなんでも買える。もはや、世界中からこんな素晴らしいものを集めてきたからすごいでしょう、という姿勢ではだめだと思うんです。これからはカスタマイズに特化していくことも、リアル店舗の存在意義のひとつだと考えています。

*価格はすべて、税込みです。

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メンズ館1階=ドレスシャツ・ネクタイ
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