【第4回】<THE INOUE BROTHERS/ザ・イノウエブラザーズ> |ファッションの力で、世界を変える
<ザ・イノウエ・ブラザーズ >創設者・CEO
井上 聡(左)井上 清史(右)
聡は1978年、清史は1980年生まれ。デンマークのコペンハーゲンで生まれ育った日系2世兄弟。<ザ・イノウエ・ブラザーズ>のコレクションの特徴である、日本の繊細さと北欧のシンプルさへの愛情を基本に生まれたデザインを、彼らは“Scandinasian(スカンジナジアン)”と呼ぶ。聡はコペンハーゲンを拠点にグラフィックデザイナーとして、清史はロンドンでヘアデザイナーとしても活動。そこで得た収入のほとんどを<ザ・イノウエ・ブラザーズ>の活動に費やす。
井上兄弟を、従来の“ファッションデザイナー”の文脈でとらえるのは難しい。彼らは「ファッションではなく、社会貢献が目的」だと公言し、その一方で「世界一カッコいい、コレクションをつくりたい」と語る。
「僕たちは、2004年にデザインとクリエーティブのスキルを使って、さまざまな社会問題を解決したいと思い、<ザ・イノウエ・ブラザーズ>を設立しました。以降、リサーチのために世界中を旅してまわると、先進国に暮らす自分たちの価値観が、一部の権力者や巨大資本によって歪められていたことに気付いたのです」と聡。
たとえば、新興国でつくられたものだから品質が劣る、というのは間違った先入観だし、その逆も然りだ。世界各地にはそれぞれその土地の歴史や風土、伝統に根ざした固有の手工芸の文化が存在し、そのひとつが南米のアンデス地方で出合ったアルパカセーターだった。
アウターとしても便利なローゲージのケーブル編みの一枚は、ほかの黒いアルパカ製品にはない深みのある色合いと上質な手触りが持ち味。カーディガン 110,160円
清史がつづける。「欧米は市場経済を地球規模に拡大することで発展してきましたが、それは新興国において深刻な貧困問題を引き起こす原因にもなっています。いまはインターネットで生産の裏側まで調べることが可能です。知らない間に世界のどこかの誰かを搾取しているような、利益追求型の経済成長至上主義はおかしい。そんな消費者一人ひとりの意識的な選択がこうしたシステムを変え、やがて企業や政府も巻き込んで社会を動かすムーブメントになると信じています」
二人は初めてアンデス地方を訪れたとき、アルパカを飼育する先住民たちの多くが極度の貧困と、尊重されていないことに苦しんでいるのを知った。だからこそ、自分たちが公正な手段で現地に利益を還元する仕組みをつくり、エンパワーメント(自信を与える)していく、と決意した。そして、ペルーのプーノにある実験農場「パコマルカ・アルパカ研究所」の協力のもと、2年がかりで世界でも類を見ない細さの高品質アルパカウール素材を開発し、その後、3年を費やし、世界で初めて一切染めていないナチュラルブラックのアルパカ・コレクションを世に送り出した。
聡はいう。「僕たちのコレクションは、かかわる人すべてが幸せになれるのが大前提。世界一の製品は絶対に正しい方法でつくられなければなりません。それが本当の意味での“ラグジュアリー”ということだと思うんです」
アルパカの毛の色は遺伝子によって決まり、もともとは白からグレー、ブラウン、黒までグラデーション状に36色が存在していた。それが世界中にアルパカ製品が出回るようになった1950年代から、どんな色にも染まる純白の繊維が尊重され、白いアルパカが優先的に育てられるようになったことから、アルパカ本来の色が少しずつ失われ、現在では28色にまで減少。近年では黒いアルパカが絶滅寸前にまで追い込まれていた。
現在、アンデス地方には約300~400万頭のアルパカが生息し、そのうち黒いアルパカは約300頭。この0.01%未満という数字は、まさに“幻”と呼ぶに値する。どこにいるのかもわからない黒いアルパカを、広大なアンデス高地で探し続け、ようやくローンチにまでこぎつけた。この「ザ・ナチュラルブラック・アルパカコレクション」は、2015年秋に<チャーリー ヴァイス>限定商品としてデビュー。今回が3回目となる。
*価格はすべて、税込です。
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