浪花節が聴こえてくる


現在、アルベルト・ガルディアーニはお膝元のミラノやナポリのほか、世界各国にフラッグシップストアを構える。1995年にはあらたな工場を設立、200人の職人を抱え、日に1500足をつくり上げる態勢を整えた。

勝因は嗅覚鋭く金鉱=ラグジュアリー・スポーツを掘り当てるのみならず、そこに洗練をまぶしてきたことにある。洗練の源泉は自然豊かで、歴史的な建造物や美術品が身近にあるマルケにあるけれど、なによりシューズ=ギアであるという信念をストイックに追求したのが大きかった。


「わたしたちはあくまで機能ありきでモノづくりを考えています。たとえば筒まわりにネオプレーンを配したこのブーツはあたたかく、防水性があり、歩きやすい」

機能から考えれば、これ見よがしな部分が入り込む隙はない。そうして、ファクトリーのそこかしこに飾られた、コンテンポラリーアートを愛する感性がにじみ出る。

ガルディアーニには浪花節を聴いているような面白さがある。ラグジュアリー・スポーツに照準を絞って深みを増していった軌跡は一本のヒット曲を歌いつづける演歌歌手のようだし、やることなすことむかしながらの中小企業の経営者のような義理人情にあふれている。挨拶を交わしたのっけこそ穏やかな笑顔で迎えてくれたが、インタビューがはじまったとたん、顔つきも、語り口も熱を帯びたのは印象的だった。


バイヤーの福田隆史は「新しい素材にもひるまず取り組む」とその研究熱心なところを評価する。経営者みずから現場で悪戦苦闘する姿はまさに街場の工場主だろう。ちょっとスケールが違うなと思わせたのは、つぎのコメントだ。

「靴産業の未来がどうなるのかを知りたくて、さまざまなファクトリーを見てまわりました。こと靴に関してはいまの生産背景が大きく変わることはないと確信した。これまでの路線にのっとってアルティジャーノが生きる無駄のない態勢を追求する。それがわたしの使命です」


有数の規模になってなお守るファミリービジネスという形態も見逃せない。

アルベルト・ガルディアーニの製造現場の要職を担うのは実の妹で、ビジネス面は妻が右腕として寄り添う。3人の娘も「チーム・ガルディアーニ」に加わっており、上の2人はすでにマーケティングの顔だ。

「三女はファッションの会社でキャリアを積んで3年前からわたしとともにデザインの仕事をしている。彼女が一人前になれば引退できるんだけれどね」

この12月に63歳になるアルベルトはそろそろゆっくりバカンスにいきたいけれど、まだまだ無理でしょうと嬉しそうに笑った。

Text:Takegawa Kei
Photo:Ozawa Tatsuya

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