【インタビュー】ファビオ・ボレッリ(LUIGI BORRELLI/ルイジ ボレッリ 2代目当主)|アンナがはじめたナポリの小さなサルトは 世界的ブランド<ルイジ ボレッリ>へと成長した
シャツは第二の皮膚です。だから、着心地にこだわりたい
イタリア・ナポリの老舗カミチェリア、<ルイジ ボレッリ>。その歴史は、1911年に創業した小さなシャツのサルトに始まる。
アンナという女性が始めたその店は、100年のときを経て世界的ブランドへと成長を遂げた。アンナの孫にあたる<ルイジ ボレッリ>現当主ファビオ・ボレッリが来日。話を伺った。
「我々のシャツはすべて、祖母であるアンナが作ったものをベースとしています。即ちそれは"ナポリの物作り"そのものとも言い変えられます。」
“ファット・ア・マーノ”という言葉をご存知だろうか。手作りを意味するこのイタリア語は、ナポリの物作りの原点であり、精神的支柱でもある。
「シャツの襟、袖、ボタンホール、ボタン、ガゼット、背中のヨーク、前立て、剣ボロ、かんぬきの8カ所が手縫いされるポイントです。手縫いにすることで、マシン縫いに比べて着心地に圧倒的な差を生み出すことができます。柔らかく、可動性に優れるのです。ボタンやガゼットはマシンでも差はありませんが、それはリッチなアイテムの象徴として今日に受け継がれています。」
ボタンとガゼットには、<ルイジ ボレッリ>ならではの個性がある
「ボタンは鳥足、三つ足と呼ばれる縫い方が特徴です。たいていシャツのボタン付けは4つ縫いなのですが、アンナはいつもこの鳥足で縫っていた。それが現在、<ルイジ ボレッリ>のシャツの象徴になっています。また、ガゼットはボディの色が白であろうが、青であろうが、ストライプであろうが、すべて白が縫い付けられます。アンナは目が悪く、色の違いを認識することが不得意だったため、よくボディとガゼットの色を間違ってつけていました。ならばと、すべてのガゼットを白に統一したのが、結果として<ルイジ ボレッリ>の特徴となったのです。」
アンナのシャツ作りを継承し続ける<ルイジ ボレッリ>は今日まで、インターナショナル・ブランドとして世界に知られるようになった
「1940年代に私の父であるルイジがアンナを手伝い始めました。シャツのタグをご覧になっていただければわかると思うのですが、1957年4月10日に会社を政府に登録しました。そして、1980年代に父親が<ルイジ ボレッリ>というブランド名に統一しました。私は1983年からサポートし始めました。私が手伝う前、お客様はナポリの地元の人がほとんどでしたが、80年代に入り、ジャンニ・アニエッリをはじめ世界的なセレブリティが顧客となっていったのです。」
日本で初めて販売されたのは1983年。現在ではシャツのみならず、トータルブランドとして日本でも認知されている
「父は祖母からナポリの手縫いシャツを継承しました。祖母の時代はシャツといえば、白かサックスしかありませんでしたが、父はストライプや他の色をバリエーションに加え、また、襟型をはじめ、インターナショナルで通じるものを増やしていきました。私もそれらを継承したのですが、さらに、シャツだけではなくジーンズやニット、スーツといったトータルコレクションを15年前くらいからスタートさせました。」
ご存知の通り、<ルイジ ボレッリ>が初めて発表したジーンズは日本でも人気の高い<ヤコブ コーエン>と共同で開発された。
「父ルイジは、ヴィットーリオ・エマヌエーレ(旧イタリア王国、国王の子孫)のためにブレザーを作りました。それは手縫いでゴールドのボタンを付けたものでした。そのアイディアをジーンズに落とし込んだのです。ゴールド製のボタンのほか、裏地にはシャツ生地を使い、贅沢な刺繍を施しました。現在はさまざまなアイテムを作っていますが、いずれもナポリメイドの精神、アンナのスピリッツを受け継いでいます。常に新しいことに挑戦したいと思っていますが、そのためには昔のことをちゃんと学ばなければいけないとも思っています。それは私の息子(その名はルイジ!)にも受け継ぐべきことなのです。」
イセタンメンズでは、8カ所の手縫いに加え、ボディの脇縫い、アームの袖線、カフ付け、裾の巻き縫い、ラベル付けの計13カ所を手縫いにしたエクスクルーシブのシャツを来春登場させる予定だ。
「シャツは第二の皮膚です。だから、着心地のよいものを選んでほしいのです。」
左/三越伊勢丹 シャツ&タイ 佐藤巧バイヤー、右/<ルイジ ボレッリ>2代目当主ファビオ・ボレッリ氏
次回は、<DRAKE’S/ドレイクス>2代目当主、マイケル・ヒル氏のインタビューをお届けします
Text:Ogiyama Takashi
Photo:Ozawa Tatsuya
ファビオ・ボレッリ
1957年、イタリア・ナポリで創業した<ルイジ ボレッリ>2代目当主。平面的で硬い縫製のシャツが多かった時代、人体を徹底的に研究し、ミシンとハンドワークを使い分けながら、体形に沿った最高の着心地のシャツを完成させた<ルイジ ボレッリ>。熟練の職人がナポリの伝統工芸によるハンドメイド仕立てと良質な素材使いによって、世界で最も有名なシャツブランドとして今なお多くの人々を魅了し続けている。
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