【インタビュー】シンプルなのに、強く、美しい。<THE RERACS/ザ・リラクス>が実力派バイヤー陣をも虜にする理由
伝統的かつ普遍的なベーシックアイテムにさりげない個性と時代性を注入し、現代のニュースタンダードとして再構築する──そんな“スクラップ&ビルド”的手法による“人を美しくする服”が、世界中から高く評価される日本ブランド<THE RERACS/ザ・リラクス>。
パンデミックやアパレル再編による激震にも揺るがない、その印象的で持続性のあるクリエーションについて、これまで同ブランドを展開していた伊勢丹新宿店 メンズ館2階 メンズクリエーターズ・バイヤーの杉田と、2021年春夏シーズンより移設するメンズ館6階 メンズコンテンポラリー・バイヤーの渡邊がディレクター&デザイナー夫妻を直撃した。
素材に取り憑かれたディレクターと、重力を意識するデザイナー
2010年、ディレクターの倉橋直行氏、デザイナーの倉橋直実氏という夫妻によってローンチされた<THE RERACS/ザ・リラクス>。そのベーシックかつモダンでシャープなデザインはもちろん、2017年に試着のみを行う実店舗「ザ・リラクス フィッティングハウス」をオープンし、さらに今年1月にはアイコンアイテムであるモッズコートのパターンオーダーサービスを開始するなど、ユーザーコンシャスで先進的な取り組みを含めたクリエーションでも業界をリードする、日本を代表する人気ブランドだ。そんな<THE RERACS>が、創設11年目にして織りネームのブランドロゴを刷新したという。その裏にはどんな思いが込められているのか、そして斬新なアイデアやテクノロジーでも時代をリードする彼らが、どんなビジョンを描いているのか──倉橋夫妻と“旧知”の仲だという、杉田が鋭く斬り込んだ。
杉田:「僕がおふたりに初めてお会いしたのは、大学院での研究のために静岡の生地メーカーさんをアポ無し突撃取材で回っていたときでしたね。地元の商工会議所の方に、『静岡出身の将来有望なデザイナー』としてご紹介いただきました。
キレイめでモード感があり、ロゴなども見当たらないシンプルなスタイルは、完璧に僕の好み。同じく静岡出身という親近感も手伝って、たちまちファンになってしまいました。当時一番驚かされたのが、倉橋直行さんの素材や生地に対する圧倒的な熱意と知識量でした。」
倉橋直行(以下、NY):「そういえばそうでしたね。その後ウチに入社したいと言っていただきましたが、杉田さんの研究内容からするとメーカーよりも“日本一”の小売店である伊勢丹の方がいいと思って、丁重にお断りしたんでしたっけ(笑)。
僕が生地にのめり込んだのは、ジル・サンダーさんがきっかけなんです。あまり知られてないないことだけど、海外の有力メゾンが尾州の機屋(生地メーカー)さんの生地を使い出したのは、彼女がきっかけ。”カシミアライク”のタッチを目指すとき、それまではウールにカシミアをちょっとだけ混ぜる、”チョビ混”という方法が主流でした。
でも彼女がノンピリングのスーパー140'sウールなら、ほぼカシミアというタッチをウール100%で表現できると示したんです。そこからすっかり生地の面白さに“取り憑かれ”、大手アパレルのMDとして働きながら、さまざまな”本物”の生地職人さんたちとご一緒することができました。
<THE RERACS>では、生産中止になってしまったものを含め、何万もの生地スワッチをいまでも大切に保管しています。そのなかから、シーズンやテーマに合わせた生地を厳選しているんです。」
倉橋直実(以下、NM):「素材、生地というのは<THE RERACS>のクリエーションの根源になっていて、まずは倉橋(直行)の主導で素材とシーズンテーマ、コレクション全体のカラーパレットを決めるんです。
とても重要だからこそ、素材選びは本当に何万とある過去の生地のスワッチから選んでは落とし、選んでは落としを何度も繰り返します。その工程とデザイン作業を同時進行するので、デザインを踏まえた生地に変更することもあれば、糸をイチから開発することもあります。
生地への思い入れは強く、生産中止になっても、古くなっても、どうしても捨てられないんです。そのせいで倉庫は大変なことになってますが……、昔の生地の話をすると、どの生地メーカーさんも喜んでくれるんですよ。(笑)」
杉田:「どうしてそんなに生地が大切なんでしょうか?」
NM:「ちょっと哲学的になってしまうんですが、私たちは重力を常に意識しています。人はそれぞれの身体に“エグみ”やコンプレックスを抱えていて、でも重力のバランスを整えてその“エグみ”を中和することで、誰もが美しく見えると考えているんです。
その美しいシルエット、重力に従ったきれいな“落ち感”を表現してくれるパターンや設計にこそ、自然とデザインが載っていくと考えています。だから加えるところと削ぎ落とすところが、他のブランドと違うかもしれませんね。ディテールは、重力の邪魔をしないところを選んで配置するようにしています。」
杉田:「確かにすごくシンプルなのに、<THE RERACS>の服を着ている人って、すぐそれと分かりますよね。」
NM:「本当ですか? ありがとうございます(笑)。<THE RERACS>は一言で表すなら、『日常に寄り添いながら、強く主張していける服』。デザインで主張するのではなくて、素材やシルエット、パターンの美しさに気を配っているんです。
最終的には倉橋(直行)がまとめてくれるのであまり先を見すぎないようにしているんですが、私はいつも着る人が永続的に、ずっと着られることを大切にしています。これは消費者としての自分自身の感覚でもありますね。」
ただの“高級”とは異なる、現代の“ラグジュアリー”を再定義する
渡邊:「21年春夏から、織ネームのブランドロゴが変更されるそうですね。やはり10年を超えて、心機一転という感じでしょうか?」
NY:「クリエーション面でのコンセプトについてはなにも変わるところはなくて、ブランドをスタートしたときから、『10年やりきったら変更しよう』と話し合っていたんですよ。結果的にちょっと遅れちゃいましたけどね。(笑)」
NM:「今季のテーマとしては、『Re-Luxe』というものを掲げています。これは、『リラックス』ではなく『リリュクス』。“ラグジュアリーの定義を見直す”という意図があります。現代社会においては、ラグジュアリーという概念の捉え方が変わってきたと感じているんです。
モノとして上質であることも確かにラグジュアリーではありますが、機能的だったり、ケアが簡単だったり、日常にゆとりと快適さをもたらしてくれるものこそ、いま求められているラグジュアリーなのではないかと考えています。そのための素材開発や軽やかな仕立てというものに、積極的に取り組みました。」
NY「特にメンズウエアの世界では、高級原料の追求というものが行き詰まっていました。コットンやウールにまで希少性が出てきてしまっている現状です。
しかし高級だからといって、座ったときにつくシワを防いでくれたり、シルエットをキープしてくれるわけではない。実際女性がシャツを着る前に、いちいちアイロンを掛けるというのは、面倒だし現実的ではありませんよね。
美しいラインやシルエットをストレスなくキープするためには、天然繊維や化学繊維のハイブリッドを真剣に検討する必要がある。ジル・サンダーさんが高級原料の見直しを行ったように、私たちは欠点を補い、長所を強調させるハイブリッド原料を見直していくべきなんです。」
杉田:「美しさと快適性を簡単に両立できる──それが<THE RERACS>にとっての“ラグジュアリー”というわけですね。」
NM:「はい。現代の“ラグジュアリー”が意味するのは、“高級”ではないかもしれません。あるいは、現代において“高級”が意味するものとは何か?──そういうテーマでものづくりをしています。デザインそのものに大きな変化は感じられないかもしれません。でも実は、進化しているんですよ。私たちの考える“ラグジュアリー”が、ここにはあります。」
NY:「次の10年は、クリエーションよりもビジネス面で大きな変化があると思います。その手始めが、ローンチしたばかりのパターンオーダーサービス。私と倉橋(直実)がまだ情報学部の学生だったとき、スポーツメーカーのシューズのカスタマイズという画期的なオーダーサービスがローンチされ、衝撃を受けました。すごい“選択肢”が現れたな、と。
実は在庫をもたないショールーミングスペースである『ザ・リラクス フィッティングハウス』も、ユーザーにとっての新しいロイヤリティのカタチとして私たちが考えた“選択肢”。今後もカスタマイズやメジャーリングなど、ECを含めた店舗ごとにさまざまなサービスを展開していく予定です。」
杉田:「さまざまな分野で“選択と集中”が進み、消費者の被服費も下がっている時代です。しかし、だからこそ、<THE RERACS>のようなブランドが必要とされ、選ばれるんだと思います。売り場を担当させていただいているものとして、さらに熱烈なファンになってしまいました(笑)。」
渡邊:「これからも、どうぞよろしくお願いいたします!」
NY&NM:「こちらこそ、よろしくお願いいたします(笑)」
Photograph:TAGAWA YUTARO(CEKAI)
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伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリー
※<THE RERACS>は2021年春夏シーズンより、伊勢丹新宿店 メンズ館2階 メンズクリエーターズから伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリーへ移設します。
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