造形美にマスキュリンを少々


肉感的なシルエット。エッジを効かせたサイドウォール。造形的な美しさを極めたくて島本はイギリスではなく、イタリアを選んだ。深谷の秘蔵っ子のコレクションは、しかしよくよくみれば、深谷ほどのエキセントリックさがない。

「イル・ミーチョ(深谷秀隆のブランド。子猫の意)に比べれば、ノーズは5ミリほど短い。それから意図的にカーブを採り入れるようにしています。このラウンドトウでいえば横からみたときの稜線のピークをやや後方にずらしているのもポイントですね。ヒールにもこだわっています。サイドビューはすとんとまっすぐに落ちますが、バックシャンは微妙にテーパーさせています。心持ち男性的なシルエットを心がけました」


念頭にあったのは、アルファロメオ・ティーポ33/2ストラダーレだった。世界に数台しかないといわれる、名車中の名車。はじめて車の造形にインスパイアされたという。

「靴と車はその造形において近しいところがありますが、木型を削るにあたり意識したのははじめてのことでした」

島本の審美眼はディテイルにまで及ぶ。

「レースステイの切り替えからはじまるステッチを数ミリ離しています。この余白がほどよい抜け感を生む。それと、メダリオンなどに潜ませた、ひし形のパンチング。オルマのアイコンです。紳士靴は、微差の積み重ねが個性を生むと思っています」


ブランド名の<オルマ>は、イタリア語で足跡の意となる。これまでの職人としての足跡、これから相棒となるオーナーの足跡。そんな思いが込められている。足跡をデザインしたロゴにはフィレンツェで幸せの象徴であるイノシシも描かれるが、このイノシシの足跡もあしらった。

膝を突き合わせて印象に残ったのは、柔らかな物腰のなかに時折垣間見える負けん気だった。取材終わりにイノシシなら猫に勝てますねと冷やかしたら、声を出さずに笑った。深谷が弟子入りを認めたのは、そういう気性を感じとったからだろう。

木型づくりはとくに教わらなかったといったときのコメントがまたふるっていた。

「毎日深谷さんの木型をつかって革を釣り込んできたんです。手が、覚えました」

尖った穴飾りは、そんな島本らしい。



"世界一の靴職人"パトリック・フライ氏の作品を特別展示、「ワールドチャンピオンシップインシューメイキング」上位入賞靴がメンズ館に集結!
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「ワールドチャンピオンシップインシューメイキング」エキシビジョン

□10月3日(水)~9日(火)
□メンズ館地下1階=紳士靴
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Photo:Keita Takahashi
Text:Kei Takegawa

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